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DAYS 18:田中太郎の憂鬱

元鞘です。

 雨に濡れながら叶荘に帰宅した僕は傘を丁寧に傘立てに立てるとそのまま玄関で服に付いた雫を簡単に手で拭き取っていた。すると僕の帰宅に気付いて奥から美月先輩が現れる。

「おかえりなさい太郎君」

「あ、ただいまです……!」

 彼女の姿を見て僕は思わず目を見開いた。美月先輩は白いエプロンを身に付けているがその下には何も着ていない……様にしか見えない。

「なっ、何て格好してるんですか先輩!」

 慌てて手を目の前にかざして視線を遮る……が、ゆ、指の隙間からちらちらと見てしまう自分がいる……。

 先輩は何食わぬ顔で話し続けた。

「先にご飯にする? お風呂にする?」

「!? は、はい!?」

 何を言い出すんだ突然……!?

「それとも……」

 彼女は裸足のまま土間にとっと降り立ち僕の体にきゅっと抱き付いてきた。レースの生地に押さえ付けられている胸がたわんでいるのが目に見えてわかる。そして上目遣いで囁く様に。

「私にする?」


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 そこで目が覚めて僕は勢いよく体を起こした。湿気のせいもあり首筋にはぐっしょりを汗をかいていた。呼吸が荒い。今見ていた夢の映像が脳裏に鮮やかに焼き付いている。

「な……何を見てるんだ僕は……!」

 左胸に手を当てる。心臓の鼓動がかなり速い。深呼吸をして落ち着く事にした。

「ぼ、僕は最低だ……せ、先輩のあんな姿を……で、でも夢だし、自分でどうする事も出来ないし……!」

 いや、しかし夢には願望や深層心理が反映されるとも言う。まさか今見た夢が僕の願望だとでも言うのか……!? ゴールデン・ウィークのプレゼン大会の時にトーゴ先輩に言われた一言を思い出す。

『お前、巨乳好きだろ』

「うわああああ違う! 違う! 僕はそんなんじゃない! 決してそんな事では無い!! 別に僕は巨乳が好きな訳じゃない……!」

 ぶんぶんと頭を振って否定するとタンスからタオルを出して着替えもせずに廊下へ出ようとした。

「と、とりあえず顔を洗ってすっきりしよう……汗もかいてるし……」

 はあ、と溜め息をついてドアを開けた。するとそこでぎょっとした。

 目の前に美月先輩が立っていたのだ。しかもその出で立ちはキャミソールに……え? 下は下着じゃないかこれ……?

「ふあ~あ……」

 先輩は寝ぼけているのか、あくびをかいて目をごしごしとこすりながら階段の方へ歩いていった。僕はその姿を口をあんぐりと開けたまま首を回して目で追っていた。

 頬をつねる。痛い。

「……ゆ、夢じゃない……」

 やはり現実だとわかった途端に僕は大量に鼻血を噴き出してそのまま部屋の入口に倒れ込んでしまった。階下でおそらく彼女と遭遇したと思われる旭先輩であろう人が目が覚めた彼女にビンタされている音が遠くに聞こえた。


 皆さん改めまして、叶荘の205号室に住んでいる田中太郎です。誠心学園高等部一年生です。一ヶ月ほど前に写真撮影という趣味を見付けたばかりです。

 上記でご覧になって頂いた通り、最近の僕は少し悶々とした気持ちを抱えています。理由は浅倉美月先輩……この春叶荘の201号室―――僕の向かいの部屋―――に引っ越してきた同じ学校に通う一年先輩にあたる人です。

 彼女と一緒にいると緊張してしまいます。でもどこか高揚した気持ちにもなってくるのです。

 美月先輩は可愛らしい人です。同じく先輩の萌々華先輩も可愛らしい人ですが、それとはまた違った可愛らしさを感じます。萌々華先輩は背が著しく低くて小動物的な可愛らしさ(先輩すいません)ですが美月先輩は何と言うか、愛嬌のある女の子的な可愛らしさです。僕はそんな美月先輩と話したり目が合ったりすると途端にドキドキとしてくるのです。

 もしかするとこれが恋って奴なのかもしれません。とにかくどうぶつけたらいいかわからないもやもやを抱えているのです。

 しかしそんな気持ちは一旦抑えなければなりません。なぜなら明日からは期末試験が始まるからです。学生の本分は勉強なのです。今日は試験前最後の日、それも日曜日。集中して復習に取り組まなければなりません。


「……とは思っているものの、集中出来ない……」

 気分転換に昨日は復習を途中で取りやめて外に写真を撮りに行った。だから今日こそはしっかりとやらなければならないのに。

「……場所を変えてみるか。環境が変わると集中力も変わってくるはずだし」

 しかしがっつりと外に出るには微妙な時間だ。なら屋内で移動するか、という事で僕は勉強道具一式を持って食堂へと場所を移した。

 食堂には誰もいなかった。つい二時間ほど前に昼食を取った時は三人くらいでテレビを見ていたけど今はもうその姿もとっくに無くなっている。台所の流しの上には水滴が乾ききっていないコップが逆さに置かれている。少し前に誰かが飲み物を飲んで洗いだのだろう。

 適当な席に就いて持ってきた参考書を広げる。まずは現代文だ。ふと壁を見上げると住人名簿の役割も兼ねている木札の位置が微妙に前と変わっている。美月先輩と陽君の分が加わったからだ。並び順は年功序列だ(早苗さんは例外)。

「……うん、落ち着くな、よし、やるぞ」

 視線をテーブルに落としたちょうどその時。

 誰かが食堂のドアを開けた。

「あ、太郎君も勉強?」

「! え、あ、はい」

 よりにもよって現れたのは美月先輩だ。まずいぞ、これはまずい。

「いやーちょうど今雨漏りの修理業者の人が来てさー、部屋にいても集中出来ないんだよね」

 そう言う先輩は僕と同じ様に勉強道具一式を抱えていた。今朝「雨漏りがするんだけど!」と旭先輩に報告していたっけか。さすがは先輩、対応が速い。

 しかしこれはこれで僕が困る。美月先輩が原因で勉強に集中出来ていないというのに、その先輩とふたりきりになってしまうとは……。

 先輩は何の気無しに僕の向かい側に座った。そういう然りげ無い動きが僕の心を突っつくんですよ……。

「……」

 勉強を始めた美月先輩の胸がテーブルに乗っている……っていやいや何を見ているんだ僕は! 集中しろ集中!

 それに今回の参考書はトーゴ先輩が昔使ってたのをくれた物なんだ。せっかくもらったんだからちゃんと利用しないと先輩にも悪い。

 まずは小説問題だ。最初に本文を読んでいく。


――――――――――

 ミキオは激怒した。あの暴れ狂っている巨大な双球は何なのだ。あれを見る度に計り知れない熱情に己が支配されていくのがわかる。その主であるミサ。彼女を何としても手中に収めなければならない。しかしそれを果たしたとして、はたして彼女の携えるそのはち切れんばかりの巨弾をさえ手中に収める事は出来るのだろうか。

――――――――――


 パンッ! 初めの段落を読んだだけで参考書を力強く閉じた。

「わっびっくりした!?」

 急に大きな音を出してしまったので美月先輩がびくりと肩を揺らした。ついでに胸も揺れた。

「す、すいません、ページの上に虫がいたものではは……」

 何なんだこの参考書は!!!

「げ、現代文は大丈夫そうなので英語でもしましょうかね、あはは……」

 気を取り直して参考書を替える。トーゴ先輩、本当にこんな参考書で勉強出来たのか!?

「お騒がせしてすみません、どうぞ続けて下さい」

「わかんない所があったら聞いてね」

「あ、ありがとうございます」

 優しい……やっぱり美月先輩の顔を見ると癒やされてしまう。

 そんな先輩のためにもこの場は集中あるのみだ。

 えーと、会話文の問題か。「以下の会話文を読んだ後に問いに答えて下さい」。


――――――――――

John:Uhhhm... (う~ん……)

Mike:What happend,John? (どうしたんだいジョン?)

John:I'm crazy about the girl... (凄く気になる女の子がいるんだ……)

Mike:Wow! What's she like? (へえ! どんな娘?)

John:She has big melons.I can't stop looking at them... (めちゃめちゃ胸がでかいんだ。どうしても見ちゃうんだよ……)

――――――――――


 パンッ! また勢いよく閉じた。

「なっ何!?」

 そして美月先輩の胸もまた揺れた。

「い、いやあ何かこの参考書左右の閉じ合わせのバランスが悪くて(?)、ふ、不良品ですかねははは」

 これもトーゴ先輩からのお下がりだ!!! っていうか今ここに持ってきてるの全部そうだった!

「ん~~~~~……!」

 まだ勉強を始めて十分も経っていないのに美月先輩は大きく伸びをした。だけどテーブルの上の胸はなかなか持ち上がら……だから目で追うな!

「それにしても相変わらず蒸し暑いね……」

 食堂は窓が少し開いているだけの状態だ。エアコンはあるが節電方針もありまだ簡単につける訳にはいかない。扇風機なら自由に動かしていいが。美月先輩はぱたぱたとシャツの襟を引っ張り始める。よく見ると上はTシャツ一枚じゃないか……ちらちらと谷間が見えてしまう……。

 だから見るな!!

 これは本当にまずい状況だ。変な参考書のせいもあってどうしても気になってしまうじゃないか! 先輩のむ、胸が!

 僕はがたんと立ち上がった。

「……へ、部屋に戻ります……」

「え、戻っちゃうの? ……もしかして私が来たから集中力欠いちゃった?」

「ち、違いますよそういう訳ではなく!」

 いやそうなんですけど! でも先輩は悪くないです!

「そっかー、寂しくなっちゃうなあ」

「……!」

 そんな事を言われると戻り辛い……!

「……さ、参考書を替えてくるだけです……」

 僕は自分の心に負けた。

 結局夕方まで食堂で美月先輩とふたりだけの状況が続いたが、もちろん普通の参考書に替えた所で内容は全く頭に入ってこなかった。


Life goes on...next DAYS.

前回が膨大なボリュームになってしまったので反動で今回は並よりも抑えよう……と思っていましたが大して変わってませんし何なら次回に続くし……元々は一人称でやるつもりだったのですが都合で三人称で書きました。が、推敲時にやっぱり一人称に変えました(なのでほぼ書き直し)。アホですね。こういうアホみたいな話大好きです。

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