DAYS 11:絶対に避けられない戦いが、そこにはある。
裏博多では何やら怪しい計画が進んでいる模様……でもそんな事今回は全然全く関係ありません。
ゴールデン・ウィーク。新学期が始まっておよそ一ヶ月が経った頃に訪れるこの連休は、新しい環境で磨耗した精神の回復にちょうどいいのではないだろうか。仕事に勤しむ大人同様、毎日が勉強漬けの学生にとってもこの度の四連休は喜ばしい事なのである。
しかしそんな大多数の学生とは真逆に、今ここに途方に暮れる者がいた!
「……暇だ……」
205号室の住人田中太郎。曲者ばかりが集まる叶荘において唯一まともだとも呼ばれる存在である。これと言って特筆すべき点が無いザ・ノーマルな彼は、これと言った趣味が無い事から時間を持て余しているのだった。
時は五月四日、連休二日目の朝である。
「しまったな……やる事が無さ過ぎて昨日の内に宿題を全部終わらせてしまったのがいけなかった……適度に休息を取って時間を消費するべきだった」
彼は椅子に座り、何もせぬまま十五分間ぼんやりと目の前の机の書棚を眺めているだけだった。
「いや待て。宿題が終わったんなら復習をすればいいんじゃないか? そうだその手があった」
手をぽんと叩くと、ふー助かったと教科書を机の上にどさどさと積み上げていった。
「1時間で終わってしまった」
太郎は再び途方に暮れていた。まだ新学期が始まって間も無い5月。大して復習するほどの量が無いのであった。
「いや待て。だったら去年の内容を復習すれば……ってああああそれは春休みにやったあああ! そして春休みも途方に暮れていたあああ! 更に冬休みもそうだったああああ!」
込み上げてくる記憶。詮方無く頭を掻きむしる。
「勉強は諦めるとして、テレビ……はまだ面白そうなのはやってないし……どこかに行こうにも、この連休中の人混みの中にひとりで行く気にもならないし……」
そしてそのまま椅子に座ってまた十五分。
「……とりあえず食堂に行こう。誰かいるかもしれない……」
結局そうする事にした。誰かと話せば少しは時間が過ぎるだろう。
食堂の扉を開くと美月と桐悟がいた。ふたりとも遅めの朝食を取っているらしかった。太郎は美月の姿を見てドキリとする。彼女と一緒にいるのは何だか緊張する。ついつい初めて会った時の事を思い出してしまう。ふと蘇ってくる柔らかな感触……っていやいや! 僕は別に胸が好きなんかじゃ……!
「お、おはようございます」
「あ、太郎君。おはよー」
「おっす太郎。今起き……な訳無いよな、お前は」
ふたりとも寝癖がぴんと跳ねている。
「いやー連休だとだらだらしちゃうよねー。ついつい夜更かししちゃって」
「わかるわかる」
「いやトーゴ先輩は毎日ですよね」
軽くツッコみながら太郎は適当な席———美月と同じ列、かつテレビ側―――に腰を下ろした(食堂の座席は固定制ではない)。美月と向き合う回数が減る様に少し意識していた。
「トーゴ先輩毎晩ゲームするんですか」
おかずを口に含みながら美月が尋ねる。
「いいや」
「え、違うんですか」
「連休中だと昼もやってる」
「駄目だこの人……」
「いやーこのままだと夏休みはヤバくなりそうだなあ」
「……わかってるんなら今の内から補習を回避出来る様に……」
「OMNISの大型コラボイベが来るんだよ」
「あ、そっち……」
オムニスとは長年親しまれているVRMMORPGである。半世紀以上前に一大ムーブメントを巻き起こした。社会の教科書にも載るほどである。
「今年の夏は熱そうだぜ……」
「忙しそうですね……」
少し呆れた顔で太郎は言った。
「僕なんか暇でしょうがないっていうのに」
「あ、だからここに来たの?」
「あっ……はい」
話しかけられたので目を合わせたが、やはり彼女と話すのは緊張する。
「い、いやー、早く休みが明けないかなーとか思っちゃうほどですよ、ははは……」
「!?」
ビキッ!? 美月と桐悟の顔が強張った。
「お前……ほんとに学生か!?」
「あ、頭大丈夫?」
「酷い言われ様だ」
「だ、だって毎日休みなら毎日無理矢理朝早く起きる必要無いんだよ?」
「それはそうですけど……でも僕基本的に休日も朝早く起きてますし」
「ふわあ、何て清らかな生活習慣」
「そうですね……何か時間を潰せる趣味でも見付けないとですかね……」
「ほっほーん! 趣味が欲しいやて?」
その時溌剌とした声が響く。入口に腕組みをした萌々華が笑みを浮かべて立っていた。
「あ……おはようございます先輩」
何だか嫌な予感がする。
「寝起き萌々華ちゃん可愛い……」
美月の声は無視して彼女は続ける。
「せやたらなあ、ちょうどコンビ漫才をやってもええ思てた所や」
予感が形として見えてきた。
「いやあの先輩、せっかくなんですけど……」
「ちょっと待て萌々華」
桐悟が立ち上がる。お、先輩止めてくれるのか……。
「太郎はオレと一緒にゲームするんだよ」
「いやそんな事言ってないです」
いやそんな事言ってないです。思わず心の中で復唱しました。
「言うてへん言うてますけど? 兄さん? あん?」
「ぐぬぬ……だけどお前と漫才をするとも言ってないぞ」
「いやいや、さっき頷きかけてたもん!」
「いや僕は微動だにしていませんでしたけど……」
「やめましょうふたりとも!」
今度は美月がバンと机を叩いて腰を上げる。
「見苦しいですよ……太郎君が困ってるじゃないですか」
ああ、美月先輩はやっぱりいい人だ……と思っていると。
「ここは正々堂々、ベストを尽くして戦うべきです。戦った上でどちらが太郎君を獲得するか、決めましょう」
何を言い出すんだこの人は。
「たっ、戦うって! そんなん男で年上の兄さんが絶対勝つに決まっとるやん!」
「ノンノンノン」
ちっちっちっ、と美月は人差し指を振る。
「萌々華ちゃん、力で争うなんて、そんな野蛮な事はもうこの22世紀には相応しくないよ。もっとスマートにやらなきゃ、そう、名付けて……」
「第1回! 太郎君争奪チキチキプレゼン大会~~~~~!」
数十分後、食堂に集まった叶荘全学生住人の前で美月はおもちゃのマイクを片手に高らかに開会宣言をしていた。
「あの、美月先輩……何ですかこれは」
「強引にやらせるのはよくないでしょ。だからこの場で萌々華ちゃんとトーゴ先輩に、それぞれ正々堂々と太郎君に対してプレゼンをしてもらおうと思って。それで太郎君がいいなって思った方に行けばいいんじゃないかな。あとせっかくだからみんな呼んでみたんだ」
そこには行かないって選択肢は含まれてないんですかね。
席には旭に陽に乙女、それに静音にいろはも座っている。何だ、みんな暇なんじゃないか……。
「え~司会は私浅倉美月でお送りしていきます。さて、プレゼンを制し見事太郎君に選ばれるのは果たして一体誰になるのか! 激闘の火蓋が切って落とされます!」
「ちなみにそのマイクは一体……」
「さっき急いで100均で買ってきたんだ。さあ! では早速いってみたいと思います! エントリー・ナンバー1! 浦園萌々華選手! どうぞ!」
「選手……?」
萌々華が席を立ちテレビの前に立つ。手にはもう一本用意されていた、美月の物と同じマイクが握られている。
「えー、ごほん(ごほん(ごほん(ごほん……! ウチがプレゼンするんは(するんは(するんは(するんは……」
「あ、自前エコーはいいんでさっさと喋って下さい」
「ナーイス! ナーイスツッコミ! ええやろう。そのツッコミに免じて普通に喋ったる。ウチがプレゼンするんはお笑いや! お笑いはええでー! 笑う事は健康に繋がるんや! 笑う事によって表情筋がゆるむやろ? そしたら……」
「それはお笑いを見る方の話では」
萌々華の熱弁は続く。
「お笑いの何が凄いか! それは奥が深い所や! 一見するとお馬鹿な事に見えるけど、そこには確かな計算があんねん! 人を笑かすために色んなもんが計算されて配置されとるんや! 間、言い回し、勢い……全てが確立された計算なんや! そう、言うなれば方程式! 笑いという解に導くための方程式を芸人は誰もが仕込んどるんや! 芸人は皆数学者や! 人笑かすためにめっちゃ頭使うねん! これは脳の体操にもなってボケ防止に繋がるで! ボケ防止は健康にも欠かせへん!」
「結局そこに持ってくんですね」
「……っちゅー訳で、ウチと一緒に笑いのツボ、突かへんか? 以上や!」
最後は何かかっこいい感じでキメて萌々華のプレゼンは終わった。
「はい、浦園選手ありがとうございました。今のプレゼンどうでしたか? 解説の叶さん」
「そうですね。声がとにかくでかくて聞き取りやすかったですね」
「さあ、続きましてエントリー・ナンバー2! 小田川トーゴ選手です! どうぞ!」
萌々華と入れ替わりで桐悟がマイク(玩具)を手に取る。
「えー……オレがプレゼンするのはゲームだ。まあ今更紹介するもんでもないよな。みんなガキの頃に一度はやった事あるだろ? 友達ん家に遊びに行って一緒にやったりさ……ゲームはな、人類が発明した究極の娯楽だ。かつて野山で走り回るくらいしか暇潰しが無かった(偏見)子供達にまさに革命を起こした代物だ。家にいながらにして遊園地にいる様な……そうだな……あえて取り上げるなら疑似体験だ。自分が物語の主人公になって、色んな体験が出来る。これはきっとあれだ……ええと……脳にいいからボケ防止になるぞ」
何か適当にそこに繋いだ……。
「まあオレだけの話だといまいち伝わりづらいだろう。オレも話すのがそこまで上手じゃないしな。という訳で、ここで実際にゲームを楽しんでるゲストに登場してもらおう。カモン!」
桐悟の指パッチン(綺麗に音は鳴らなかった)の後に陽が席を立ち彼の元へゆっくりと歩いていく。
「体験談を語ってくれる浅倉陽君だ」
「おーっとここで小田川選手ゲストを召喚!」
「なるほど。第三者を入れる事によって効果に説得力を持たせる。いい作戦ですね」
「なっ! ずるいで兄さん! はっ、はーいっ! はーいっ!」
萌々華が挙手をして小さな体で精一杯アピールする。
「しっ、司会者! これは不正行為なのではないでしょうか!」
「えーと、プレゼン方法は自由なので許可します」
「にゃんやてえっ! ムキイイイイイッ!」
「Tシャツを噛んで悔しがる萌々華ちゃん可愛い……」
「はっはー。お前も言っていただろう萌々華。計算だよ。では陽君、ゲームのいい所、カモン!」
指パッチン(スカッ)。
「えーと……僕もゲームを楽しんでます……けど学生だから、もちろん勉強の方が大事なので……」
「グサッ!」
ミエナイ ナニカ ガ トーゴ ニ ダメージ ヲ アタエタ!
「そっちを優先させている上で、息抜きにやったりしてます。試験前とか、勉強漬けの人が多いと思いますけど、僕は試験前でもやったりします。重要なのはメリハリだと思います」
「グサッ!」
ミエナイ ナニカ ガ マタ トーゴ ニ ダメージ ヲ アタエタ!
「いくら頑張っても、根を詰めすぎるとそれが空回りしたり、無駄になったりする事があると思うんです。だからきちんと時間を決めて、試験勉強の合間に息抜きでゲームをしたりします。適度に違う事をやった方がリラックス出来る気がして」
「そっ! そうだよなっ! 勉強の息抜きにやって、しゅ、集中力を持続させる役割が期待出来る! ひ、陽君ありがとうもももういいぞ!」
「あれ、でもまだ予定の半分も……」
「いいいいんだよ君はもう十分話した! 十分伝わったからもういいんだよ!」
「あいつ自分の援護させるつもりが逆に自分のメンタルに傷を負ったから早々に退散させたわね」
頬杖を突きながら席で聞いていたいろはが溜め息を吐く。
「これでわかっただろう! ゲームは楽しい! 以上だ!」
最後は早口でまとめて桐悟はプレゼンを終えた。
「小田川選手ありがとうございました。それではエントリー・ナンバー3!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
太郎は待ったをかけた。
「萌々華先輩とトーゴ先輩の一騎打ちじゃなかったんですか」
「ああ、この際みんなにも参加してもらおうと思って」
「な、ただのギャラリーじゃなかったのか……」
「エントリー・ナンバー3! 早乙女乙女選手! どうぞ!」
「……」
徐に立ち上がり乙女はマイクを掴む。その美貌から相変わらず何をするにも絵になる人だ、と太郎は感心した。
「……俺がプレゼンするのは『二次元』だ」
「……」
そ、そこは漫画とかアニメとかじゃないんですか。言い方。
「毎朝幼馴染に起こされる、ふと窓を開けるとお隣さんの2階に住む幼馴染の着替えを見てしまって怒鳴られる、目の前に突然裸の女の子が降ってくるetc……そんな幻想を誰しも一度は抱えた事が無いだろうか」
無いです!
「三次元ならそんな事態が起こる確率など極めて低い。ほとんど、というか全く無いと言ってもいいだろう。ていうか無い!」
乙女は力強く叫んだ。
「だが二次元ならある!!」
続けて拳を握る。
「教室の隅にいる、眼鏡をかけて見た目が地味な女の子……だけど眼鏡を取ったらもしかしたらクラス一の美少女なのでは……残念ながらそんな事は三次元では極めて起こらない(偏見)……だが!」
目を見開く。
「二次元ならある!!」
駄目だこの人!
「自分が好きな人が自分の事を好きである……二次元ならある!! 風が吹いてふわっと女の子のスカートがめくれてパンツが見える……二次元ならある!! 家庭教師の女子大生が物凄くえっちなお姉さん……二次元ならある!! そう! 二次元なら全てある!! Everything is in the two dimensions!」
謎の格言が飛び出した。
「以上だ」
「え、えー……早乙女選手ありがとうございました。どうでしたか? 解説の叶さん」
「ぜひとも行ってみたいですね。世界中の科学者には頑張ってもらいたいです」
「……続いてエントリー・ナンバー4。中西いろは選手。どうぞ」
「はい。あたしがプレゼンするのは言うまでもない、山風よ!」
いろはは自作のボードを取り出した。そこにはシャイニーズ事務所所属の人気アイドルグループ「山風」のメンバー五人の写真が貼られていた。この短時間で作ったとでもいうのか。
「中でもあたしの推しメンはジョー君……はあ……うっとり」
メンバーのひとり、梅ヶ枝丈の顔を見て悦に浸るいろは。
「ジョー君は、いいぞ……山風はいいぞ……(語彙力の消失)」
「ええと……言葉では語れないほど魅力的だという事ですね」
美月がフォローを入れる。
「中西選手ありがとうございました。では最後です。エントリー・ナンバー5。片岡静音選手。どうぞ」
「……」
静音はいつも通り無言で前に出る。果たしてプレゼン出来るのだろうか。
「……スッ」
何も言わないまま手振りをする。
「……スッ」
「……」
「……バッ」
「……」
「……グッ」
「……」
「……スッ」
「……」
「……」
「……」
「…………ぺこり」
「……」
お、終わった! 終始無言で終わった! 静音は満足気な表情で元の席に戻っていく。いや何ひとつ伝わってこなかったんですけど静音さん!
「はい、以上全5名のプレゼンが終了しました!」
美月が再び住人の前に立つ。今のプレゼンを参考に誰が一番よかったかを決めろと言うのか……何とも酷な話だ。
「それでは1日目はこれで終了になります」
「えっ、い、1日目?」
太郎はつい聞き返してしまった。
「はい。明日からは第2部、実技編になりますので、参加選手の皆さんはそれぞれ準備をお願いします」
「つ、続くんですかこれ! 明日まで!」
「明後日まで続くよ?」
「……」
という訳で、次回実技の部スタート! 果たして栄光は誰の手に!
Life goes on...next DAYS.
結構字数増えましたねー推敲しながら。この作品、キャラが多いのでとにかく賑やかにしたいと台詞多めでもいいやと思っているんですが、今回まさにそれですね。




