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第十一話 漆黒

 凛夏はどこへ行ったんだ?

 金網の向こうに俺が気をとられた数秒間で、こうもさっぱり姿を消してしまうなんて。

 やっぱり何かしらの不思議な力が働いたと考えたほうが自然だろうか。


「ひょっとして凛夏あいつ稀能者インフェリオリティ――?」

 それで瞬間移動の稀能パーソナリティを持ってるとか?

 いや、根拠もないのにこじつけすぎか。

 凛夏はいなくなる直前、金網の向こうの何かに気づいた様子だった。

 その『何か』が関係していると考えたほうが自然だろう。多分。


「参ったな、チャールズと出会ってからおかしなことばかりだ」 

 座り心地の良さそうな岩に腰掛ける。

 マイエンジェル葵姫たんを追ってきたはいいけど、彼女はここにはいなかった。

 ついでに凛夏も消えた。


「何してるんだろうな、俺」

 そうぼやいた時、金網向こうの暗闇で何かがかすかに輝いた。

「なんだ?」

 人か?

 いや、この向こうは立ち入り禁止だろう。人が通るとは思えない。

 しかし、金網も裂けているし、もしかしたらマイエンジェルが奥にいるのかも。

 そうだよ。彼女が観光でここを訪れたとも思えない。

 きっと何かの調査でここに来たんだ。

 さっき見えたのは、マイエンジェルの照明じゃないか?

 もしそうだとしたら俺が下品な山彦で楽しんでいたことは彼女に筒抜けなわけだが、それに関してはしらばっくれよう。

 まずはエンジェル葵姫たんと合流するが先決。


 意を決した俺は声を出してみた。

「おーい!」

 『おーいおーいぉーぃ……』

 やはり返事はない。が、奥のほうで時折ときおり何かが光を発しているのは間違いなさそうだ。


 よし、行ってみるしかない。

 座っていても何かが解決するわけじゃないし、このまま凛夏が行方不明になってあいつの親から責任を追及されるのも嫌だしな。

「よっこいせ」

 腰を上げ、金網の裂け目をぐいっと拡げた。

 くく、かたいな……もうちょい拡げないと……よし、行くぞ。

 てか、せまっ!

 想像以上に天井が低い。中腰だ中腰。

 くっそー、暗すぎるよ。何も見えやしねえ。

 腰を傷めないよう気遣いながら、狭い通路を進んでいく。

「んごっ!?」

 痛っえ……頭打った。

 いててててマジで痛い。しかも熱い。

 見えないけど何かヌルヌルするし、出血したなこりゃ……ちくしょう。


 中腰じゃダメだ。匍匐ほふくで進もう。

 地面が氷のように冷たい。しかも鋭利に尖った岩が入り混じってるようだ。

 進めば進むほど切り傷が増えていくような……軍手持ってくればよかった。

 光はもう見えなくなっているけれど、どの方向から見えたんだっけ?

 つーか、ここまで一本道だったんだろうか。

 真っ暗でマジで何も見えないけど知らないうちに曲がり角を曲がってたらどうしよう。

 自分を信じて進もう。うん、きっとどうにかなるはず……ん?


 何だ、この違和感。

 身体を動かす。

「……!!」

 まさか……。

 体感の体温が五度くらい下がった。

 やばい。



 動 け な い !!


「おいおい、マジかよ!?」

 身体を揺すろうとするがガッチリと岩に挟まれて身動きがとれない。

「ちょい待っ!」

 ダメだ。

 脚は動くが、腰から上が完全に固定されてしまった。岩でできたサンドイッチの具だ。

「~~~~~~!!!」

 必死にもがいても抜けない。

 どうしよう。

 こんなところで俺は死ぬのか!?

 嫌だ! 嫌だ!!


「おおおおおおおおい!!! 誰かああああああ!!!!」


 ありったけの声を振り絞って助けを呼んだ。

 しかし、前方にある空間には響いているものの、背後には声は届いていない気がする。

 背後に届かないと意味がない!

 受付のお兄さんに届かないと……!

「助けてくれええええええええ!!!」

 しかし、通路のせんをする俺自身の身体にさえぎられてしまって後ろへは届かない。

 くそっ。

 こんな時、尻の穴から声を出せる稀能パーソナリティがあれば……。

 そんなことを考えてもしょうがない。

 助けを呼べないのなら、自力で脱出しなくては。


 服を脱げば少しは細くなってここから抜けるかも。

 しかし……服を脱げるほどのスペースがない。

「……」


 だめだ。

万策ばんさくきた……」

 まさか童貞のまま死を迎えるとは……。

 いや、そうなることは薄々気づいてたけどさ……。

 こんなことになるんなら、さっき凛夏をモミモミしておくんだった。


 それにしても、寒い……冷たい……。

 こんな寒いと思ってなかったから半袖だし……傷口も痛むし……もう嫌だ。

 眠い……ああ、きっとこれ寝たら死ぬ奴だ……でも、無理だ。

 この心地よいまどろみに逆らえるはずがないだろう。


 ほら、こんなに気持ちいい……。


 …………。


 ……。


 そこで俺の意識は途絶えた。

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