バナナじゃない
少しばかり予想外なことは起きたが、切り株の中をボウル状に削ることにする。
「ナイフに変われ」
右手の伐採斧を果物ナイフに変える。
切り株に対して、ナイフで抉るように突き刺す。
水分を含んでいる為か、想像していたより削りやすい。
だが所詮果物ナイフの為、力任せにやって折ってしまう恐れがあるので進み具合は遅い。
少々時間はかかってしまったが、なんとか形にはなった。
これで、放置しておけば水の確保は問題ない筈だろう。
流石にここまでの作業を休まず続けていたためか、お腹が空いてきた。
近くにある、バナナの木からバナナをひと房取ってご飯代わりにしようと思う。
「なんだこれ……?」
一本だけ房から取って皮を剥いてみて驚きの言葉が漏れてしまった。
見た目はバナナだったはずだ。
だが皮を剥いたそこにあるのは、俺が知っているバナナじゃなかった。
見た感じでは、桃の果肉のような見た目だろうか。
これは、食べて大丈夫なものなのだろうか…?
バナナ(のようなもの)に鼻を近づけ臭いを嗅いでみる。
甘い香りがする。思わず口から涎が垂れてしまった。
……よし、食べよう。
現状これ以外に食料見つけてないし。
恐る恐る、バナナ(?)を口に含む。
口に広がるのは、桃の果肉のような甘さと食感。
果汁がたっぷりとあるのか、噛んだ所から果汁が漏れ出ている。
「……うまい!」
この一言に尽きるだろう。
見た目、バナナ。果肉、桃。
なんだろう、これ。
新しく品種改良したものか何かだろうか。
とりあえず、うまいからいいかと思考放棄する。
腹八分目になるまで、黙々と食べることにした。
食べ終わってから気づいたことだが、水分ってこの桃モドキ
からでも取れたんじゃないかなと考えてしまった。
さっきまでの苦労はなんだったのだろうか……。
食事も終え、現状を整理してみる。
空を見上げてみるが日がちょうど真上辺りにある。
時計がない為およそだが、3、4時間程経過していると思う。
恐らくここに来た(拉致された?)のは、朝方近くなのだろう。
持ち物は、服、靴(というのも残念な作りだが)、果物ナイフ、伐採斧。
以上だ、ここに来る前まで触れていた携帯や、着ていた服はない。
気絶させられて、取られたと考えるべきか。
ただ、訳の分からない果物ナイフを与えられる理由がわからない。
やはり、考えつくのはアンケートだろうか。
俺が答えたのは、『刃物』だ。
その結果が、果物ナイフ? いや、伐採斧にも変わったか。
あえて今まで無視してきたが、そもそも物体が出現したり、消えたりするのもありえない。
夢でも見ていると思いたいが、足の痛みや、疲労感、満腹感などあまりにも現実的すぎる。
「『事実は小説より奇なり』ってやつかな……」
ナイフに関しては情報が少なすぎて、これ以上はないだろう。
と次に移ろうとしていたが、一つ思い出す。
何度かナイフから音が鳴っていた。
一度目は、靴を作る為、枝を削るとき。
二度目は、桃モドキの木を削っているとき。
三度目は、自信がないが地面に叩きつけたときか。
正直三度目は、叩きつけた時の音だったかもしれない。
現状ここから分かることがない……。
結構重要な情報かも知れないので一応覚えておこうと留めておくだけにした。
「あとは寝床か」
食料、水(まだ取れていないが)と来たら、寝床だろう。
周囲を見てみるが、桃モドキばかりだ。
流石にここを寝床にするには、場所が悪いだろう。
ここまで来た道とは逆の方向に、再度進むことにした。
今度は確実に戻る為に、木へのサインを多めにしながら行くことにした。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回話もよろしくお願いします。
(2014/11/21) 字下げ修正