ステータス内容が違う
呆然とちよりの包丁捌きを眺めていると、いつの間にか包丁を消していた。
鹿の解体が終わったようだ。
俺も呆けている場合ではない。
「お疲れ様ちより。
疲れてるだろうけど、質問してもいいかな?」
「お疲れ様ですー……。
はい、大丈夫ですよー……。」
慣れない事をやったせいで精神的に疲れたのだろう、顔色はあまり良くない。
一応体調は平気かと聞いてみるが、「少し休めれば大丈夫です」と返ってきた。
無理をさせるつもりでは無いが、聞ける事に関しては聞いてしまう。
「まずは何故まな板と包丁の二つも同時に出せているんだ?」
「それは、メインとサブですから出せますよー。」
また意味の分からない事を言い出した。
「待ってくれ、まずメインとサブとは何の事を言ってるんだよ。」
「え、いや、だからステータス確認したんですよね?
メインとサブって詳細に書いてませんでしたか?」
慌ててステータスを開示してみるが、何処を確認してもその様な表記はない。
「確認して見たけど何処にも無いよ?」
「え、そんな筈は無いです。
ステータス開示。
……私の方には確りと特徴の所に書かれてますよ!
ほら見てください!」
宙を指差し、此方に話し掛けてくる。
「ほらと言われても、俺には何も見えないんだが。」
「えっ……」
「なるほど、ステータスは自分にしか見えないって事かな。
一応俺の目の前にステータスが有るんだが、ちよりは見えるか?」
「見えないです……」
頭を横に振り、答えてくれた。
「まぁ、ステータスの謎が一つ分かった所で、話を戻すけども。
結局メインとサブはなんだったの?」
「あっ、はい。
えーとですね……」
ちよりから詳細を聞いてみるとどうやら、俺のステータスと違う部分が多々あるらしい。
先程も話題に上がっていた、メインとサブ。
解放済の一覧すべての特徴に、『メイン』『サブ』のどちらかが記入されているそうだ。
『メイン』と書かれている物は、出現させると他の『メイン』が出せなくなる。
これは俺の持っている刃物達と同じだ。
問題は『サブ』。
此方は一つ出ていても他の『サブ』と記述されている物を出せるようなのだ。
おまけに、『メイン』との併用も可能と来た。
試しにと、フライパンに、菜箸、お玉、フライパン返しなどを出してきた。
小物類にはほぼ『サブ』が付いているらしい。
次に違うのは、初期からあると思われる包丁。
俺の持っているのは、『包丁』と記述されていた。
ちよりのは、『包丁Ⅱ』と書かれていると教えられたのだ。
オマケに、ナイフにある特徴『切れ味低下』はなく、『切れ味上昇Ⅱ』が付いているらしい。
マイナスと思われる効果が無いのは、普通に羨ましい。
最後は、未解放の一覧。
3つを覗いて条件が全て表示されているらしい。
此方は条件が全て表示されているものなど数える程しかないのに。
話を聞いてる感じだと、未解放の数が大きく違うらしい。
此方は、どこまであるのかも分からない。
などと、所々違うようだ。
恐らくは、答えた回答によって何かしら変わっていたりするのではないだろうか。
流石に二人の情報量では、裏付けが取れなさそうだ。
「……他に何かありますか?」
話しているうちに調子も良くなってきたのだろう、ちよりの顔色も先程よりも良くなっていた。
ついでに、ローマ数字付きに記述されていたゲージについて訪ねてみると。
「それは恐らくゲームでいう経験値のようなものだと思います。
私も朝に確認したんですけど、今確認したらゲージが増えていたので。
まるでゲームみたいですよね……。」
との答えを頂いた。
ゲームみたい……か。
俺はゲームに対しての知識があまりないせいか、その言葉に頷けなかった。
俺の知識から出てくるのはどちらかと言えば、お伽噺の世界だろうか。
どちらにせよ、非現実的な……と云う意味では同じだ。
それでも現実は非情である。
何もせずとも時間は無駄に過ぎてしまう。
今の環境下では、時間は価千金の価値があるだろう。
話も済んだ。
彼女の休憩も終えた。
予想外の出来事もあり時間を食ってしまったが、次の行動に移そう。
「さて、どうやら解体も確りとやってくれたみたいだし。
持ち運びの為に色々と準備をしようか。」
俺は立ち上がりながら彼女に告げる。
ちよりは「はい。」と一言だけ口にし、俺と同じように隣で立ち上がった。
ちよりには、その場に居てもらい崖上から落とす材料を拾って貰うことにした。
距離的にほんの30メートル程先にある、坂道から崖上に登る。
ちよりが真下に見える位置まで歩くと周囲の散策を始めた。
僅かな距離で大きな葉と蔓を見つけた為、採集しては崖下に投げ落としていく。
大量に採集した為もう良いだろうと、ちよりがいるであろう崖下まで坂道を迂回して降りていく。
崖下では、蔓と葉を分けてくれていた。
蔓と葉に分かれた塊を持って河岸まで持っていく。
葉で肉を巻き、蔓で縛る。
ちよりと二人で肉が全て仕舞い終わるまで、繰り返していく。
目の前には、葉に包まれた肉の塊がこれでもかと置いてある。
一度休もうと視線を周囲にやれば、此方は見る片眼の頭があった。
……流石にこれは海まで行かないだろう。
仕方がないので、ちよりに何かあれば声を出すように言い放つ。
鹿の頭を持ち運び、坂道から崖上に上がる。
ほんの僅か奥まった所で、「出ろ」っとシャベルを出してみる。
右手には、取っ手のグリップの感触が返ってくる。
取っ手の先には1メートル程の長さの鉄のパイプが続き、その先にはシャベルらしい四角い形と、シャベルには不釣り合いだと思えるギラリと光輝く刃が存在した。
あぁ、これは確かに刃物だと感じてしまう。
ステータス上の映像と、実物ではやはり圧迫感が違うようだ。
シャベルを両手で構える、片足もシャベルに乗せて体重を掛けるように樹の根本付近にある土を掘り返していく。
プリンを崩すように……とは流石に大袈裟だが、あっという間に1メートル近くも掘り返す。
その穴に鹿の頭を埋葬し、上から土を掛ける。
どうか成仏してくれと願い、シャベルを消して彼女がいる場所まで急いで戻ることにした。
ちよりは、川に足を浸けのんびりとしてした。
何事もなかったようで、急いで戻る必要もなかったみたいだ。
さて、肉を運ばないとならない。
彼女にも持って貰うにしても、2回に分けた方が良いだろう。
河岸に、昨日と同じように1/3ほどの肉を水に浸した。
「ちより肉運ぶの手伝ってくれ。」
「はーい」
川の中から足を出して此方に向かってきた。
持って行く予定の肉から、更に1/3にした量をちよりに渡してみる。
特に無理をしている感じもしないので、このまま持たせる事にした。
俺の方は少し量が多い為、「ジャベリンⅡ」を出し柄部分にぶら下げて運ぶ事にした。
蔓で柄に何個も肉が吊るされているそれを、首の裏に乗っけて両腕を柄に乗せる。
前から見れば、首と腕の間から葉に包まれた物がたくさんぶら下げっている様に見えるだろう。
開いた手には、鹿の皮を持つ。
運ぶ用意も出来た為、二人で寝床に向かい歩みを進めた。
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