双子の問題
「第1回! お悩み相談会議~!!」
クレイシアの声にまばらな拍手が応えた。
開催場所は"魔女の小屋"内の修理した6人掛けテーブル。出席者は俺、クレイシア、ミラリィとミラリー、シダの5人だ。
「今回の議題は"ミラリィとミラリーがぶつからないためにはどうすればいいか"だ!」
「おぉ~」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
双子がぺこりと頭を下げた。
俺たちはギルドの審査待ちの間にやることを決めた。まずは酒場を片付けることだ。今のところとりあえず各々寝るスペースは確保できた。
次に大問題であるパーティメンバーの弱点について話し合うことだ。ここが改善できないと、たとえギルドが作れても先が見えてこない。
なのでまずは"息が合い過ぎる"双子、ミラリィとミラリーについて会議することになった。
「改めて確認するが、二人は気配を消しながら高速で移動する戦い方を得意としている。それに加え考えることが一緒なせいで、戦闘中ぶつかってしまうなどのトラブルを引き起こす。合っているな?」
「はい」
「その通りです」
「みんなで解決策を考える前に、まず二人がこれまでに試したことを教えてくれるか?」
「ついでに二人のことをもっと知りたいぞ!」
「そぉだねぇ」
二人はこれまでの経歴を語ってくれた。たびたびハモりながら。
双子はここからは遠い街で生まれた。母親が街を守る騎士で、父親が冒険者の盗賊。
自分と片割れの身を守れるようになってほしいと願う両親からの英才教育によって、今の戦闘スタイルが確立された。この頃はケンカとは無縁の仲良し姉妹だったらしい。
しかし母親と同じ騎士団に入団した時に状況は変わった。初めての実戦で二人が正面からぶつかり合い、頭を強く打つ大けがをしたのだ。
そして二人の問題点があらわになった。
団がとった解決策は「別々の隊に配属すること」だった。しかしブルースが危惧していた通り、二人がそっくりすぎて団の中で混乱が起こったらしい。
誰もが二人を間違えて話しかけた。ある時の機密作戦では参加していたのはミラリーなのに、間違えてミラリィに情報が共有されてしまったこともあったそうだ。
そこで追加の対応で「二人を見分ける目印を作る」ことを試した。ミラリィには赤いスカーフ、ミラリーには青いスカーフの着用を義務付けた。
すると不思議なことが起きた。ある日街の見回りをしていたミラリィは、看板に色を塗っていた塗装屋の不注意でペンキのバケツをかけられてしまった。青のペンキが赤いスカーフに染み込み、紫色になってしまった。
同じ日、モンスター駆除に参加したミラリーはモンスターの返り血を思い切り浴びてしまう。赤い血が青いスカーフに染み込み紫色になってしまう。
なかなか色が落ち無さそうだが、まあ紫でも大した問題にはならないだろうと拠点に帰った二人は、鉢合わせて戦慄した。また見分けがつかなくなってしまったのだ。
髪の長さを変えても、賊との戦いで剣を躱したとき同じ長さに切れてしまう。片方がマントを羽織ってもモンスターに食いつかれて紛失してしまう。いつも同じ見た目にそろってしまうのだ。
そんなことが何度か続いた後、騎士団は気味悪がって二人を追放した。
「なんでだー! 二人とも頑張ってたのに!」
「仕方がなかったと思っています」
「実際同僚たちも困っていました」
「ホントに仲良しなんだねぇ。なんでもお揃いなんだぁ」
「呪いと表現していたのもうなずけるな」
この頃からケンカばかりになっていた二人は、両親に別れを告げて別々の街へ旅立った。
ミラリィは新しい街の守備隊に入ったが、セクハラしてきた貴族を蹴り飛ばしてすぐにクビになった。
ミラリーは別の街で傭兵になったが、有名な商人のプロポーズを断ったら逆ギレでお尋ね者にされた。
その時期にシルバの街の再興のうわさを知り、冒険者になることを決意してこの街に来た。
後は俺たちも知るとおりだ。
「経歴は大体わかった。では何かアイデアがあるものは発言してくれ」
「はいはい! 戦闘中は【気配遮断】を使わなければいいんじゃないか? 隠密は偵察と奇襲にだけ使えばいい」
「おぉ~。良さそうだよぉ」
なるほど。確かにお互いの姿が見えていれば事故は減りそうだが……
「【影走り】のスピードで走れば、結局事故が起きそうだな」
「そうだと思います」
「移動は一瞬ですので」
「じゃ、じゃあ【影走り】も禁止しよう!」
「それはさすがに厳しいかと思います」
「耐久力と攻撃力が低い前衛が二人増えてしまいます」
「んむむむむ……」
その後も話し合うが、あまりいい案は出てこない。
進まなくなってしまったので、試しに奥で寝転がっている店長に助言を求めると「片方をうんと遠くに転送すれば時間稼ぎくらいにはなる。貴方たち全員飛ばしてやってもいいよ」と言っていた。やはり引き離すしかないのかもしれない。
「帰りやした~。皆さんお揃いで」
「お! おかえりガラッタ! もうそんな時間か」
「おかえり~」
そこへガラッタが帰ってきた。彼は在庫を売るためにほぼ一日中広場で露店を開いている。
「今日は何か売れたか?」
「回復薬以外はてんで何も……」
ガラッタは自分で作った塗るタイプの回復薬も売っている。というか今の収入はほとんど回復薬だ。薬草の目利きが得意で品質がいいらしい。
しかし肝心のコレクションが売れない。選りすぐりの品を並べた珍妙な空間は通行人の興味を引くが、購入に繋がらない。
「光る剣と感電グローブあたりは結構食いついてもらえるんですがねぇ」
「感電グローブって敵を触ると雷属性のダメージを与えるが、自分も同じダメージを食らうんだろ。なかなか使いにくいだろう」
「ですよね……ところで何の話をしてたんです?」
「お、せっかくだからガラッタにも聞いてもらおう!」
俺たちは双子が直面している問題をガラッタに説明した。
ガラッタは興味深そうに聞いていた。
「面白いですねぇ。あ、いや失敬。それは"隠れ恩恵"ってやつかもしれませんね」
「なんだそれ? 初めて聞いたぞ」
「俺もだ」
「"恩恵"って専用の道具で判別するんですが、それでは分からない"恩恵"があるんじゃないかって噂です。あくまで噂ですよ」
「それは興味深いな。"恩恵"と考えれば、不思議な偶然にも納得できる」
「むむむ……。それは手ごわいな。それじゃあ、別行動したり攻撃をズラしたりすることは無理なのか?」
その言葉を聞くと、ガラッタは何かに気が付いたようにハッとした表情を浮かべた。そして何やら考え込んでいるようだ。
「何か思いついたか」
「あ、いえ。うまくいく確証はなくて……」
「ガラッタさん、教えてください」
「今はすべての可能性を試したいんです」
「……そうっすよね。では……離れるんじゃなくて、いっそもっと近づくなんてのはどうでしょう」
「ほほう?」
ガラッタはマジックポーチをあさり、渦を巻いたような形をした金色の腕輪を2つ取り出した。
「これは誤射防止用に作られた魔法の装備"不干渉の腕輪"です。あるダンジョン街に、よく味方の背中に矢をあてるどんくさい射手がいましてね。仲間の戦士がどうにかしてくれとなじみのドワーフに依頼して作られたんです。2つで1セットで、これを付けた者同士は互いを幽霊みたいにすり抜けちまうんです」
「互いを……」
「……すり抜ける?」
「まあすり抜けの効果があるのは身に着けた装備までで、放たれた矢はすり抜けず戦士の背中に刺さったんですがね。いらないというので安く買ってきたんです」
「ははは。なんだか間抜けな話だな」
「だが……使えそうだな」
効果が本当なら、二人は決してぶつからない。
ガラッタに勧められ、それぞれ腕輪を装着した。ミラリィが左手、ミラリーが右手に。
そして握手するように互いの腕を伸ばすが、その手は触れ合わず同じ場所で重なり合っている。
「ほ、本当にすり抜けます」
「これ、剣には効果があるのですか?」
「えぇっと、身に着けた装備だから多分ありやす」
すると二人は同時に剣を抜き、お互いを斬りつけた。
「ギャアアアアア!! 怖っ!! 見てられない!!」
「大丈夫だ。斬れてないぞ」
「すごい……全部すり抜けます」
「これは……いけるかもしれません」
そっくりな双子剣士が互いを斬り合うというホラーな光景だが、二人の顔には希望が満ち溢れていた。
「ガラッタさん。今すぐこれを買います」
「いくらでも構いません。手持ちはあまりありませんが絶対にお支払いします」
「なら後払いでいただきますよ。ぜひダンジョンで活躍してくだせぇ」
【装備】
冒険者が身に着ける武器や防具、装飾品のこと。
魔法学的には"一定期間身に着け、自身の魔力と同調した物品"という定義がある。
魔法や"戦技"には体の延長として装備にも効果を及ぼすものがある。




