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ピーキーズ!!~追放者だらけのギルドを作ろう~  作者: 玉庭一福


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11/11

ダンジョンアタック

 俺は最初にダンジョンに入ったときのことを思い出していた。


 虚弱ながらも訓練はしていたので、ゴブリンくらいは倒せる自信があった。

 しかしいざゴブリンを目の前にしたその時、初めての魔力酔いになり身体が動かなかった。

 パーティメンバーに担がれて何とか生き延び、初めての追放を経験する。


 それでも俺は冒険者をあきらめなかった。

 憧れやロマンは【平常心】で無視すればいいのに。

 もっと自分に適した仕事もあっただろうに。

 俺は極めて冷静に、夢を追いかけることを選んだ。


 もちろん理由がある。

 無難に、それなりに生きる人生は、前世ですでに経験したからだ。

 悪い人生だったとは言わないが、せっかく与えられた二度目の人生だ。選ばなかった方の道こそ進む価値があると考えた。



「いたぞ! シルバーウルフだ」


 草むらに身を隠す俺たちの視線の先には、銀色の毛並みの狼のようなモンスターが数体歩いていた。

 ダンジョンの草原エリアに来ている俺たち新生ギルド"追放者の集い(ピーキーズ)"は、シルバーウルフの魔石を持って帰ることが今回の目標だ。


 シルバーウルフの群れの脅威度はオークと同じくらい。会議の結果ギルドの初クエストにちょうどいい相手だと選ばれた。


「いよいよ初戦だぞ! 張り切っていこう!」

「まずミラリィとミラリーが不意打ち、その後俺たちが前線に出る。シダとハナミは敵の動きを止めてくれ」

「分かりました」

「分かりました」

「頑張ろうねぇ、ハナミ」


 ミラリィとミラリーは相変わらず瓜二つだが、左右それぞれの腕に"不干渉の腕輪"を装備している。

 シダが持つ杖の先には、アルラウネのハナミが絡みついて華々しい装飾のようになっている。

 彼らがどれだけ動けるのかが今日の重要なポイントだ。


「行くぞ……!」

 

 クレイシアが呪文を唱え【不滅の水晶】を発動した。すでに赤鬼状態の俺はクレイシアを持ち上げる。


(討伐開始!)

「討伐開始」


 双子が気配を消した。次の瞬間二体のシルバーウルフが倒れた。

 群れの一部が敵襲に気づき、遠吠えで仲間たちに知らせる。

 俺は異常な脚力で狼たちの前へ走り出て、向かってきた一体を水晶で殴り飛ばした。


「シダ、拘束だ」

「うん! ハナミお願い!」


 シダが杖を掲げると、先端のハナミがシルバーウルフの近くに向かって種子を飛ばした。

 種子は一瞬で成長し、蔦がシルバーウルフたちに絡みついた。

 事前にシダが唱えた【巻き付く蔦】という魔法を、今ハナミが発動させたのだ。

 続けざまにハナミは【毒の棘】を発動した。ハナミの身体から棘が何本も射出し、拘束したシルバーウルフたちを自分で倒していく。


 シダは戦闘中に難しいことは考えないことにした。

 攻撃、拘束、回復などの大まかな指示だけを決めて、後はハナミに任せてしまう。アルラウネのハナミは自分で考えて戦闘することができる。

 その間にシダは使用した魔法の補充をするためにゆっくり詠唱を続けるわけだ。


 俺は三体ほど水晶で叩き潰しながら、シダの動きを確認した。


「やるな。シダとハナミが敵を倒している」

(いいぞシダ! ハナミ!)


 シルバーウルフたちはその数を増やしていた。想定よりも仲間が集まってきているようだ。

 しかし一体、また一体と身体を両断されて数を減らしている。


「双子の調子も良さそうだな」

『ええ、絶好調です』


 返事に振り替えると、黒髪の剣士が隣に立っていた。

 ……ミラリィかミラリーか分からない。

 腕輪で区別しようとしたが……両腕に着けている?

 しかもショートソードを両手に持っている。


「すまん。どっちだ?」

『両方です』

「両方?」

『今ここに、二人重なって立っているんです』


 なるほど、そういうことか。

 お互いの身体をすり抜ける"不干渉の腕輪"は、仮にぶつかったとしてもダメージが無いことが利点だった。

 しかし双子は想像以上のシンクロ率で、ぴったり重なったまま動いているのだ。

 よく聞くと話し声も重なっている。


『筋力的に二刀流は現実的ではありませんでした。しかしこの状態なら可能です』

「二人で剣を握っているから、半分の重さに感じるのか」

『その通りです』


 これは面白いことになっているな。

 例えば今の状態で体重を測れば、それは二人分の重さだろう。

 どこかにパンチしたとすれば、それは二人分の威力だろう。

 逆に物理的な攻撃を受けたとしたら、それは分散されて1/2になるだろう。

 機動力はそのままに、二人分の筋力と耐久力を併せ持っている。


『【完全同調】と名付けました。これでお役に立てます』

「こうなるとは予想外だ。合体するとは」

(合体?! え、どうなってる?!)


 俺が何もしなくても、双子とシダが群れをどんどん減らしていく。

 これなら――


「アオーン!!」

「ウォーン! ウォーン!」


 急にシルバーウルフたちが鳴きだし、逃げていった。

 劣勢だから逃げ出したのかと思ったが、どうも様子がおかしい。

 俺たちに背を向けるように逃げるのではなく、俺たちとすれ違うようにして森の中へ逃げていく。


「みんな集まってくれ。群れの後方に何かいるぞ」

『はい』

「う、うん」


 シルバーウルフの群れを追いかけるようにして現れたのは、狼だった。

 シルエットはシルバーウルフに見える。だが通常の二倍ほどの大きさがあり、全身がどす黒い毛で覆われていた。目は赤く血走り、鼻息を荒げながらあたりをぎょろぎょろと見渡している。

 その大きな顎には、血だらけのシルバーウルフが咥えられている。どうやら喰っているようだ。


(どうした? 何かあったか?)

「異常固体だ。仲間を喰っている」


 ブラックウルフは巨大な牙で同族の身体をバキバキと噛み砕いている。

 落ち着きなくうろうろと歩き、走り出したかと思えば岩に体当たりをした。力を持て余した異常行動を繰り返している。

 暴走している?

 

 ブラックウルフは俺たちの存在に気が付いた。

 大地が震えるほどの雄たけびを上げ、こちらに駆け出した。


「来るぞ。俺が引き付ける」

『了解』

「ハナミ、えっと、拘束!」


 ハナミが魔法で種を飛ばし、蔦や根がブラックウルフの足に絡みつく。

 しかしスピードが落ちない。凄まじい脚力でブチブチとちぎれていってしまう。

 俺は迎え撃つために走り出した。俺とブラックウルフの距離は一瞬で無くなり、クレイシアを思い切り振り下ろす。

 鈍い音とともに、もろに命中した。

 ……が、ウルフは止まらない。


 大きく口を開き、俺の左腕に噛みついてきた。

 硬質化した赤い皮膚が負荷に耐えきれず、牙が深く刺さり血が流れてくる。


「なんで動けるのぉ?!」

『斬ります!』


 双子が不可視の斬撃でブラックウルフを斬りつけた。腹や背中のあたりに切り傷が刻まれていく。

 しかし、次の瞬間にはふさがっている。


『回復している……?』


 このウルフ、【力の超越】と同じような効果を受けている。暴走状態と引き換えに、パワーとスピード、そして再生力が脅威的に高い。

 俺はワイバーンに捕まった時と同じように、残った右手でブラックウルフの左目に手刀を突き刺した。

 次の瞬間ブラックウルフは絶叫しながら噛みつきを辞めた。


「【平常心】の差だな」

『撤退しますか?』

「いや。簡単には逃げられないし、放っておくのも危険だ。倒しておきたい」

「でもどうするのぉ? すぐ回復されちゃうよ」

「首を切り落としてみよう。できるか?」

『隙があれば恐らく……』


 重なった双子は、両手に持っていた剣を重ね合わせた。2本のショートソードはピッタリ重なり1本の剣になる。


『質量2倍の剣です。これなら切断できると思います』

「よし。俺たちで動きを止めるぞ、シダ」

「わ、わかった!」

「クレイシア、"フォークのポーズ"だ」

(あれやるのか?! よ、よし!)


 クレイシアが一度水晶化を解除した。そして両腕を真っ直ぐ上に上げ、指先まで空に向かってピンと伸ばした。

 そしてそのままもう一度呪文を唱え、水晶になる。


 審査待ちの期間にクレイシアが「どんなポーズで固まった方が使いやすい?」と言ったことで、俺たちは水晶化のポーズを研究した。

 その中でいくつか使えそうなポーズに名前をつけておいたのだ。

 ちょっと間抜けだが、この"フォークのポーズ"なら拘束がしやすくなるはずだ。


「行くぞ」

「ハナミ! もう全部使って足止めしてぇ!」


 確かに抉ったはずのブラックウルフの目は、完治してこちらを見据えていた。怒りをあらわにしてこちらに向かってくる。

 背後からシダとハナミの魔法が飛んでくる。ブラックウルフに蔦や根が絡まり、催眠効果のある粉塵が舞う。ブラックウルフが一瞬動きを止めた。

 しかし俺は【平常心】で催眠効果は聞かない。


「そこだ」


 俺はウルフの側面に回り込み、水晶化したクレイシアを腹に突き刺した。まっすぐ伸ばした日本の腕が、内臓まで達したはずだ。

 ウルフは再度叫び声をあげた。

 そのまま俺は力任せにウルフを横倒しの状態にして、水晶が抜けないように固定する。ハナミの援護も飛んできてウルフは蔦でぐるぐる巻きになった。

 すさまじいパワーで暴れているが、すぐには抜け出せないだろう。


「今だ!」

『【一閃】!!』


 双子の声が聞こえた次の瞬間、ブラックウルフの首が斬り落とされた。

 黒い体液を流しながらドサッと音を立てて地面へ落下する。

 身体は数秒暴れ続けていたが、やがて動かなくなった。


「……倒したのぉ?」

『そのようですね』

「こいつのことは管理機関に報告しよう」


 この凶暴化状態のシルバーウルフは、低階層にそのままにしていたら甚大な被害が出ていただろう。本当に強力なモンスターだった。

 死体もドロドロに黒く溶けていって、普通じゃない反応をしている。

 発生原因の特定は町全体にとっても急務だろう。


「みんな、よくやった」


 水晶化を解いたクレイシアが真面目な顔をして話し始めた。


「ギルドとしての初探索でシルバーウルフの群れを倒し、さらに異常固体の討伐まで成功した。分かっていると思うが我々にはやらなければいけないことがある……」


 


 

「乾杯だぁー!!」


 クレイシアの掛け声に合わせて皆がジョッキをぶつけ合った。

 場所はもちろん"魔女の小屋"だ。


「なんという偉大な功績……! これは祝わずにはいられない!」

「一発で借金返済できるとは思わなかったな」

「あの異常固体が出てきたときは肝を冷やしましたが……」

「無事に帰還できて何よりでした」

「ハナミおいで~、ハナミのご飯もあるよぉ」


 テーブルの上には所狭しと料理が並んでいた。

 この酒場は相変わらず店主が機能していないので、買い出しから調理まで自分たちで用意したものだ。

 俺はどんなに不味い飯でも食うことはできるが、味は感じるから美味しい方が良い。


「……美味い! あんなにスパイスを入れていたから心配だったが、シチュー美味いぞ!」

「当然です。私たちの得意料理ですから」

「母から習った故郷の味です」

「ハナミには何を食わせてるんだ?」

「鶏肉だよぉ、ハナミの好物なんだぁ」


 鶏肉を渡されたハナミは、バクっと丸のみにしていた。アルラウネは肉食だったのか。


「しかし旦那達、結局その黒い狼は何だったんでしょうね」


 ガラッタが飲み物の追加を持ってきてくれながら、そう尋ねた。


「報告はしたが、似た事例は報告されていないようだ」

「そうですねぇ。おいらも何かわかれば報告しやすよ」

「そんなブラックウルフを倒した私たちはすごい! "追放者の集い(ピーキーズ)"に乾杯!」


 真面目な話もしながら、そしてそれよりも互いの成功を祝いながら、夜は更けていった。

 俺は酒の匂いだけで酔っ払いながら、この宴を楽しんだ。

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