追放者と追放者
お読みいただきありがとうございます!
初作品ですが楽しんで書きますので、一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです!
「ムジョウ、お前をパーティから追放する!」
酔っ払いでにぎわう酒場の端のテーブルで、向かいに座る男にそう告げられた。
予想はしていたがいざ言われるとショックが大きい。しかしそれは表情に出さずに言葉を返す。
「一応理由を聞いていいか?」
「お前の虚弱体質だよ! 前衛のくせにダンジョンの魔力ですぐ魔力酔いしやがって、どんだけパーティメンバーが危険にさらされるか分かってるのか!」
「その通りだな。すまなかった」
「ちょっとは落ち込め! すました顔しやがって!」
顔色ひとつ変えない俺を見てリーダーはさらに声を荒げる。
俺だって本当に落ち込んでいるし申し訳ないと思っているが、表情に出ないのは俺が生まれ持った"恩恵"と呼ばれる能力が理由だ。
俺が神に与えられた"恩恵"は【平常心】。あらゆる感情に邪魔されずに行動や思考をすることができて、精神攻撃系の効果も一切受けない。有名な冒険者たちが持っている"恩恵"のような派手さはないが、地味に役立つ能力だと思っている。
しかしその代償のように与えられたのが、生まれながらの虚弱体質。小さいころからよく風邪をひき、強い魔力を感じれば魔力酔いという状態異常になってしまう。
俺たちは魔物と財宝とロマンが詰まった巨大な地下空間、ダンジョンにもぐることを生業とする冒険者だ。そしてダンジョンには魔力もあふれている。
冒険者にとって「ダンジョンに深く潜ると体調を崩す」なんてことは、致命的なデメリットと言えるだろう。
「なんでそんな体質で冒険者なんかやってんだ! 役場で受付でもしてろ!」
「確かに。【平常心】は接客業に役立ちそうだもんな」
「冷静に返すな!」
というわけで俺はパーティを追放された。
ちなみに追放はこれが初めてではない。今までもパーティを組んだことは何回もあるが、いつも追い出されている。
当然のことだ。原因は自分にある。冒険者が向いてないことなんて自分が一番よくわかっている。
俺は別の酒場に移動し、カウンターで食事を注文した。さっきの酒場はパーティの活動拠点だったから、あそこで追放された俺が何食わぬ顔で食事を始めたらまた元リーダーが怒り出しただろう。
一番安いモンスター肉の炒め物を食べながら、今後のことを考える。
この街ではすでに5組のパーティから追放されている。俺のうわさも回り始めていて、"虚弱のムジョウ"なんて呼ぶやつもいるらしい。新しいパーティを探すのも難しくなってきているだろう。
いっそ新しい街に移動するか? でも根本的な解決がなければ、これからも追放されるだけだ。
「追放か……」
「追放かぁ……」
誰かと言葉が重なる。横を見ると隣の席に女が座っていた。
透き通るような空色の髪をした若い女だった。童話の聖女のような儚さと美しさを感じる容姿だが、軽装の白い皮鎧を着ていることから冒険者だとわかる。
「なんだ、もしかして君もパーティを追放されたのか」
「ああ、ついさっきな」
「追放者仲間か、奇遇だな! 私は付与術師のクレイシアだ」
「戦士のムジョウだ」
付与術師と言えば魔法使いの一種だ。派手な攻撃魔法ではなく、味方への強化や敵への状態異常などの支援魔法で戦う。
地味だが汎用性が高く、何より魔法使いというだけでパーティからの人気は高いはずだ。そんな人でもパーティを追い出されることがあるのか。
愛想よく微笑んだクレイシアの腹の虫が鳴る。
「それは……モンスター炒めか。美味いか?」
「いや。だが安い」
「なるほど節約だな。私もそれにしよう」
食事を待っている間暇なのか、クレイシアが身の上を語ってくれた。
クレイシアは結構いいとこの生まれらしく、魔法の勉強をする魔術学院に通っていたらしい。
どんな魔法を習得するか選ぶとき、冒険心と探求心がある彼女は「大昔の文献だけが残っている、強力な付与魔法を覚えよう」と思い立った。
そして教師たちの手を借りながらの研究の末、なんと実際に2つの古代魔法を習得してしまう。
しかしその魔法たちは強力な代わりに扱いが難しいものだった。それに気が付き普通の付与魔法も覚えようとしたが、既に他の魔法は覚えられなくなっていた。
これは俺も初めて知ったことだが、魔法を覚えるということはただ呪文を覚えればいいというわけではない。
魔力の流れを理解し、魔術式を理解し、それらと呪文を何度も頭の中で繰り返して脳に刻み込む。個人差はあるがそれを数か月、数年と繰り返すことで魔法が使えるようになるらしい。
そして人が魔法を覚えられる数には限りがあり、それは生まれながらに決まっているらしい。
つまりクレイシアはたった2つの生まれ持った魔法習得枠を、扱いづらい古代魔法だけで埋めてしまったのだ。
「その事実に気が付いた時には手遅れだった。だけど冒険者が諦められなくてね。無謀にも挑戦中というわけだよ」
「気持ちはよくわかる。俺も生まれ持った特性に頭を悩ませている」
「そうか、お互い頑張ろう! ともかく腹ごしらえだ、いただきます!」
そう言ってクレイシアは出てきたモンスター炒めを頬張り、すぐに顔をゆがめた。女の子がしてはいけない表情になっている。
「ぐえええええ! マズっっっ!!」
「気持ちはよくわかる。ひどい味だよな」
「なんでそんな平気な顔で食べられるんだ!!」
クレイシアがちょっと泣きながら訴えかけてくる。
何とか飲み込んだようだが、まだ口の中の臭みが強烈に感じるだろう。
「うぐっ、下級モンスターの肉は不味いと聞いてはいたが、ここまでとは……」
「注意するべきだったな、悪かった。俺は"恩恵"のおかげで平気なんだ。その代わりに病気や魔力酔いになりやすい虚弱体質なんだがな」
「ま、不味い飯を食べられるようになる"恩恵"か……君も苦労したんだな」
「……まぁそんな感じだ」
クレイシアは目の前の皿を頑張って食べ進めることにしたようだ。鼻をつまみながら肉を口に入れていく。
俺は注文を止めなかった責任を感じて、ぶどうジュースを一杯注文した。これで流し込めば臭みがいくらかマシに感じるはずだ。
険しい顔で奮闘する彼女を見ながら、俺も少し身の上話をすることにした。
「笑われるかもしれないが、俺には前世の記憶があるんだ」
「笑わないさ。むぐぉ……そんな余裕は無いからな」
「ニホンっていう、ここと比べると平和な世界だった。そこには魔法やモンスターが存在していなかったんだ」
「うげええええ! この肉食感が最悪だ……」
「だからこの世界は物語の中にしかなかった、夢みたいな世界に感じるんだ。魔法の適正は残念ながらなかったが、それでもダンジョンに挑戦する冒険者って職業は諦めたくないんだ」
「むごごごご……んぐっ……食ったぞ! ごちそうさまでした!」
クレイシアは何とか料理を食べ切ったようだ。ぜえぜえと息を切らしているが、達成感に満ちた顔をしている。
「聞いていたか分からないが、話せてよかったよ。それじゃあ俺は――」
「あ、待て待て! ちゃんと聞いてたぞ!」
席を立とうとすると呼び止められる。
「君を気に入ったよムジョウ! 私たちは似ている」
「そうか?」
「そうさ! 二人とも冒険者が諦めきれなくてもがいている!」
クレイシアは目を輝かせてこちらを見てくる。
感情表現をしない俺にとっては、クレイシアの表情の1つ1つがまぶしく感じる。
「ムジョウ、私とパーティを組まないか?」
「追放者同士でパーティを組むのか」
「そんなパーティがいてもいいさ! 実は新しい街に移ろうと考えていてな。一緒に来てくれないか?」
俺は少し考える。
俺たちはどちらも冒険者として問題だらけだ。そんな二人がチームを組んだところで問題が増えるだけのようにも思える。
それに互いに命を預ける冒険者は信頼が重要だ。あったばかりの他人と手を組むのは慎重になった方がよい。
というのが冷静な考えだ。
しかし心は既に答えを決めている。クレイシアの言葉に期待と希望が高まり、まだ見ぬ新しい冒険にすでにワクワクしている。
俺の平常心は感情を無視できるだけで、何も感じないわけではない。
追放された時の悲しさも、モンスター炒めのまずさも、そしてこのワクワクもちゃんと感じている。
俺はこの気持ちを無視しないことに決めた。
「これからよろしく頼む、クレイシア」
「こちらこそだ、ムジョウ」
俺たちは固く握手を交わした。
今日ここに一組の奇妙なパーティが誕生した。
【モンスター炒め】
ただ同然で手に入る下級モンスターの肉を、ただ炒めただけの料理。
その日にどのモンスターが討伐されたのかによって素材が変わるので、その肉がゴブリンなのかゾンビなのか分かったものではない。
食べない方がよい。




