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9 不穏な空気


 妹にだけは大介のことを話した。キャンプから帰ってからの、あまりの落ち込み様に六花が問い詰めてきたからだった。六花は励ましてくれたし、代わりに大介に話をつけてこようかと言ってくれた事もあったけど、自分で何とかしたかった。


 夏休み明け、どんよりした気持ちで登校。

登校途中、大介に出くわさないかなと思って早めに家を出てみたけど、会わなかった。


 教室に入るなり、騒々しくて、異様な雰囲気が漂っていた。みんな窓に身を乗り出している。

「おはよう」

「明里!!大変!」

「知ってた?、大丈夫?」

「え?何のこと??」

「明里!!落ち着いて!」

 全く落ち着かない様子で、杏樹と真由が息を切らして駆け寄ってきた。

2人は曇った表情で「とにかく落ち着いてね」と言う。何事かと思いながら、促されるまま窓の外を見た。


 目に飛び込んできたのはーーーーー


 大介と別のクラスの女子が、手を繋いで登校してくる姿だった。

 ハンマーで強く頭を殴られたみたいな衝撃を受けた。息吸えていたかなと思うくらい呼吸が乱れてきた。心臓がバクバクする。

「やっぱり、知らなかったよね……」

 私は暫く話せなかった。

 仲良さげに寄り添って歩く2人は、学校内に入るところだった。隣のクラスも身を乗り出していたから、上で騒ぐ私達の姿や声も聞こえてたはず。

 学年でも杏樹と競うくらいの人気がある子だったから、なおのこと注目されているようだった。

 髪が長くて、ゆるふわの可愛い系で、おしゃれで、スカートも短くて、私とは真逆の、幸せそうに歩く女の子。

「大丈夫?」と声をかけられる。

「何なのアイツ、ひどくない?」という友達。

「明里の気持ち、無視かよ」

「やっぱり、勘違いだったんだって!幼馴染以上の感情なんてないないない。私もないし」と取り繕う事しかできなかった。

 本当は穴があったら入りたいくらい恥ずかしくて、屈辱的だった。期待してた私が悪いだけだ。そもそもそんな感情がなかっただけ。


 教室に入ってきた大介は、男子から取り囲まれていた。女子のほとんどは冷たい目を向けていた。

 ヒソヒソ話も聞こえてくる。私の方にも視線が向けられている。

「今日カラオケ行こ!」

「とことん付き合うよ」

 慰めてくれようとしている友達。あぁもう帰りたい。


 消えたいくらいの気持ちで席に着いた。

 担任が何か話している。始業式も心ここにあらずで、どう過ごしたか覚えてない。

 教室に戻って、席に座り、窓の外を眺めていた。


 あ、鉄柱の上に人がいる。

 この、少年の事を今まで完全に忘れていた。相変わらず鉄柱の上に座り込み、両足を投げ出してぶらぶらしている。


「残念だったね」

 ユウは爽やかな笑顔でそう言った。せめて悲しそうな顔くらいしてくんないかな。こいつにまで大介との事を言われるなんて。本当に最悪だ。

 無視していたが話しかけられる。誰とも話したい気分じゃないのに。消えたいくらい辛いのに。


「素直になれてたら、上手くいってたのに」

「は?あんたに何がわかんの?」

「強がって、素直じゃなかったから」

「うるさいなぁ、最初から無理だったんだって。幼馴染以上の感情はなかったの!」

「告白こそしていなかったけれど、大介君は精一杯、君にアプローチしていたのに」

「大介の肩もつんだ、ふーん」

 てゆうか、何でキャンプ場での出来事知ってるんだ?

「そこにいたからさ」

「いたの?」鉄柱から降りてたってこと?

「いたよ。全部見てた」

「こっわ。ん?てか気が付かなかったよ」

「君は他の事に夢中だったから、僕に気が付かなかったんだよ」

「大介の事とかキャンプの事ばかり考えてたからってこと?」

「そうそう。見ようと思ってないと、意識が向かわないと、見えないものなのさ」

 今も見ようとはしてないんだが?

 なんだかんだで、ユウと話してると気が紛れてきた。


 そんなこんなで学校が終わり、お昼は家で食べてから皆んなでカラオケに行くことになった。


 休み明けから、三年生は受験生シーズンに突入した。切り替えて頑張らなければ、杏樹や真由と同じ学校は厳しいかも。

 2人はもっとレベルの高い高校や進学校を目指すと思っていたが、制服が可愛いし校風も自由なところが良いと、少しレベルを落としていた。

 大学を視野に入れて都会(札幌)に行く判断はしないという。私も部活動で推薦を取れるという話があったが、蹴った。

 続けたいほど好きではなかったし、そもそも喘息を治すため、身体を強くするために入った陸上部だった。正直、良い成績どころか、ついていけるのかもわからない。ならば大学進学の為に高校は近場にしたい。家の親が大学に行かせてくれるかは分からないけれど……。

 2人は塾に行っている。他の友達は家庭教師もついているらしい。私も塾に行きたいと両親に願い出たが、ダメだった。私が勉強したところでたかが知れているからだと言う。意味のない事にお金は使いたくないって。お父さんは意味のないタバコを毎月1カートンも買って、お酒も飲んでるくせに。

 習い事だって今までさせてもらえたことはなかった。

 理由はきっとすぐ辞めるとか続かないとか、お金をかけるだけの価値がお前にはないからとか、体が弱いからとか。言うだけ無駄なので、中学に入る頃から父との会話自体を避けている。勝手に思春期の反抗期だと捉えている父に対して、私と六花は冷めた目で見る事しかできない。

 こんな環境の中でも、同じように受験はやってくる。みんなも頑張っている中(お金と良い塾+先生を使っている人と競って)最後まで頑張りきれるかな。



 夏休み明けから、ここ2週間ほど、いつもの日常に違和感を感じている。

 視線を感じたり、誰かが頻繁に後ろからぶつかってきたり、帰り道、後をつけられているように感じたり……。

 あれ?もしかしてユウ?と思ったが、そうゆう感じではない。

 なんというかまとわりつくような、ねっとりしている不気味な感じというか。とにかく気持ち悪くて勉強に集中出来ない。


 なんだか落ち着かないのは席替えのせいかもしれない。席が窓がから一列ずれて、後ろから2番目になったからかも。そう思って授業を聞いていたが、やっぱり誰かに見られているような気がした。


 ノートに書き取りをした後、ふと、黒板の方を見ると誰かとバチッと目が合った。


 一度、目を逸らしたが、また黒板の方を見ると目が合う。


 右斜め前方の席、私の席からは3つ前の男子がうずくまって寝たふりをしているのだが……腕の隙間から私を見ている……?ガッチリ目が合う気がするので、睨みつけると男子は顔を上げた。


 気のせいじゃないと思う。


 その後も授業中に何度も見られた。腕の隙間からまんまるの二つの目だけが光っていて、こちらを凝視している。

 居眠りを注意してくれる先生の時はやらないけれど、ほぼ毎日、ずーっとガン見をされて、気持ちが悪い。

 そして後ろから頻繁にぶつかってくる奴も同じ人物だと気づいた。あいつは、わざとぶつかってくる。後ろから体を押しつけてくる時もある。混んでない時も、周りに誰もいない時もだ。この前は体当たりされて、暫くぶつかった場所が痛かった。

 何なんだ一体。何をしたいんだ。

 視線が気になって集中できないし、窓際の席では無くなったので、ユウとの会話も減った。


 友達に話そうと思ったが、何をどう話せばいいのかわからなかった。

 授業中に見られてるって事と、わざとぶつかられてるってだけ……。おそらく「で?」って言われるような話しだ。

 学校からの帰り道、あいつを見かけた。気にしすぎかなと思っていたが、近くの本屋でもあいつの姿を見かけた。2回も偶然見かけることなんてあるだろうか……。

 学校から家までは30分くらい。比較的賑わっている街を抜けて川を渡る所までで15分ほど。一級河川の神威川を渡り、住宅街へ。その間もつけられてるような気がした。

 きっと気のせいだと思いながらも、恐る恐る確認してみた。数メール後ろに男子生徒の姿が見えた。帰り道は同じルートじゃないはずだ。


「え? 何?、え?どうしよう」

 絶対つけられている。どうしよう。どうしよう。どうしたらいい。ヤバいってわかってるのに足が動かない。


「大丈夫、僕が一緒だから」

 フワリと大好きな香りが鼻先をくすぐった。

 

 横にいたのはーーーーーーユウだった。


「大丈夫」

「え?何でいるの???」

 え?えええ??

「鉄柱から降りれるの?」

 驚いていると、ユウは「それは後にして、とりあえず、走るよ」と言った。

「見えなくなるまで走った方がいい」

 走れるかな、体が動かない。

「深呼吸して。大丈夫、走れる。足はちゃんと動くでしょう。動けるよ」

 動け、動けと思っていると、少しづつ足は動いた。その後は、言われるがまま走った。家まではまだ結構距離がある。

「畑のあたりは人気がない場所だから、このまま走って」

 出来るだけ全速力で走った。久々に走ったから胸がヒューヒューと鳴り出した。

「あいつ何なの?ユウもやっぱり気づいてた?絶対変だよね!?」

「僕もずーっと様子を見ていたんだけど、よくない雰囲気だったものだから、ね」

「よくない?」

 ユウはピタリと走るのを止め、辺りを見回した。

 どうやら巻いたようだった。ここからなら家までもうすぐだ。

「うん、不穏だよね、とても。不味い方向に向かっていると思う。君が感じていることは間違いじゃない。そして君が気づくずっと前から始まってたよ。夏休み前からだ」

 そう言われてゾッとした。夏休み前から、男子生徒が物陰から見ている様子を認識していたという。

 ユウが鉄柱から降りるって相当なのでは?そしてユウの緊迫するような表情から不安になってしまった。

「大丈夫だ、対策を考えよう」

 ユウは穏やかに言った。

 家に着く頃には喘息の発作が出始めていたようだった。胸が苦しい。

 学校に行くのが辛い。

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