(4)
村の入り口は静かなものでした。
門や木製の柵に荒らされた様子は見られませんが、人の姿が無く、風が虚しく通り抜けていきます。
「誰もいませんね……」
真横に立って、辺りを見渡しているディランさんに言いました。
「変な魔法がかけられているとかは、あるか?」
「いえ。この近くで魔力は感じられません」
「じゃあ、村が見渡せる場所まで移動するか」
スタスタと歩き出したので、小走りでついて行きました。
あまり警戒した様子ではないので、他にこの辺りの危険は無いと判断されたようです。
「ステラの勘はアテになる。ギデオンも言っていた。何か判断が必要な時はステラに任せろと。どこかザッと見て気になるものはあるか?」
ピタリと足を止めたディランさんの言葉を受けて、そこから村を見える範囲で見渡します。
上から見た時とはまた違った光景が見えました。
村の奥側に大きなお屋敷が見えます。
この辺でわりと大きな商会を持つ人の別荘との事です。
距離を置いたその反対側には、今度は教会が見えました。
二つの大きな建物の間に、道に沿って点々と民家があります。
大きなお店などはないようです。
静かすぎて不気味です。
どこか鬱々とした雰囲気もありますし。
「人がいないからといっても静か過ぎるな。生き物がいないのか」
ディランさんも同じ事を思っていたようです。
やはり、人はおろか、家畜の姿もありませんでした。
鳥の鳴き声なども聞こえません。
「ありきたりな解答になってしまいますが、気になるのはあのお屋敷。それから、教会です。教会の方が、より、奇妙で気持ち悪いものを感じます」
直感で感じたものを伝えました。
「わかった。どっちに先に行きたいか?」
「じゃあ、お屋敷の方に……」
つい、嫌な方を後回しにしてしまいました。
先に行った方が良いと思ったのはお屋敷の方なのですが、教会に行きたくないと思ったのも正直な感想でした。
「じゃあ、屋敷に先に向かう。気になったものは何でも言ってくれ。それから、絶対にそばを離れるな」
「はい」
屋敷の方向へと向けて歩き出してすぐに、道の端に小さな白いカケラが落ちているなぁって思って、それが骨であることに気付いて、また口から小さく悲鳴がもれました。
「ディランさん、ほね、骨が」
「人のものじゃない。とりあえずは安心しろ」
チラッと見ただけのディランさんは平然としていました。
ビクビクし過ぎかと、気を取り直して前を向いて歩きます。
メイン通りと言える、整備された広い一本道の端に辿り着くと、見えてきたお屋敷は四方の壁が赤茶色のレンガでできていました。
レンガには暗いシミも目立ちます。
奥行きがかなりあるように見えるので、やはり村で一番大きな建物です。
ディランさんと大きなお屋敷に入るのは緊張します。
「また、俺が刺される事になりそうだな」
私の思考を読んだかのように意地悪く笑ってきたので、横にいる人の服の端をギュッと握りしめました。
「今回はエレンさんもすぐには来られません。だから、絶対に怪我しないでください。それに、今度こそ私が守ります」
「ああ。頼りにしてる」
今度は力強く笑ってみせたので、私の方がそれを見て安心させられていました。
「扉を確認する」
ディランさんが動いたので手を離しました。
この建物は二階建てでしょうか?
屋根部分にちょこんと三角形が載ったように見える小さな窓があるので、屋根裏部屋があるように思えます。
上を見上げていると、ガチャっと音が聞こえたので前を向きました。
ディランさんがもう扉を開けていたのです。
「え?施錠されていませんでしたか?」
「ああ。開けた」
ディランさんは悪びれることもなく、少しだけ開けた隙間から中の様子を窺っています。
状況的には仕方のない事で、当然の行動なのですが、御貴族様の御令息の御手癖が悪いのも心配で……
「おい」
ピャっと少しだけ体が浮き上がりました。
悪口は言っていません!言っていませんから!
「大丈夫そうだから、中に入るぞ」
「はい」
勝手に入ってしまいましたが、こんな大きなお屋敷にも、人っ子一人いないのが不気味でした。
大きな入り口の扉は確かに頑丈に閉じられていました。
でも、ディランさんがどうやったのかは教えてくれませんでしたが、閉じられていた鍵を開けたので、中に入ることができました。
不法侵入したわけですが、やはり誰かが姿を見せる様子はありません。
「ここも、人の気配が無いな。避難して閉じこもっているわけではないか……いるとしたら、ここか教会かと思ったが」
村人はどこに行ってしまったのか。
元々いなかったのか。
やはり、ここにも、何の気配もないようでした。
逃走経路が限られる室内では、ディランさんも、とても警戒した様子で辺りに気を配っていました。
窓のカーテンは所々が開いていますが、廊下は薄暗く、不気味な印象を受けます。
広い玄関ホールは吹き抜けになっており、そこから真っ直ぐに廊下が続いていました。
玄関から奥側に続く、長方形の形の建物です。
「階段は奥か」
廊下の突き当たりに両開きの扉が見えます。
階段はその手前でしょうか。
右手側に部屋が並んでいて、左手側は窓があって、外側は庭園になっているようです。
「部屋を一つ一つ開けていくか、主人の執務室を探すか」
「階段を上がってみませんか?」
「わかった」
なんとなく言ったことでしたが、ディランさんは了承してくれました。




