28 騎士団長の息子は殿下に呆れられる
お悩み
「お疲れエクス。やっぱり圧勝だったね」
そう言うリンスは苦笑していた。俺はそれに手をふってからため息まじりに言った。
「圧勝に見えたなら良かったけど、面倒だった」
「そう?少なくとも素手でであそこまで打ちのめされたら普通に精神的にきそうだけど」
「別に俺は胸ぐら掴んだくらいで他には何もしてないだろ?」
思ったより王子の動きがよくて面倒だったけど、あまり傷をつけずに済んだのはよかったかもしれない。やはりこれから手加減する時は素手でやろう。まあ、決して相手を舐めてはいないが、エクスさんの身体能力が別格すぎる。ついつい思考も脳筋になってしまうくらいに身体能力が高いのも考えものだな。これで身体強化を使ったらどれだけヤバイのだろう・・・まあ、油断せずに鍛練しつつ自分の力を把握する必要があるだろう。
「リンス、剣術は得意か?」
「その質問の意図はわからないけど、からっきしだよ」
「そうか・・・やっぱり父上と一度戦うしかないか」
「本気で言ってるの?」
「格上とやっておかないと実力はわからないからな」
俺が知る中で格上だと思えそうなのは父上くらいだ。そう、この国の騎士団長である父上くらいなのだが、息子がこのスペックなら父親はどれだけ規格外なのか不安でもある。ラノベ主人公並みの理不尽チートでも驚かない自信があるが・・・そこまでいくとヤバイので出来れば人間に近いレベルにして欲しいものだ。
「格上って・・・今のエクスより格上はそうそういないよね。騎士団長なら確かに君より上の可能性もあるけど、今の君は前より遥かに強いと思うよ」
「そうなのか?」
「なんていうか、ミスティ嬢と婚約してからの君の強さにはかなり驚いた。授業でも君の剣術は見たことがあったけど、ここ最近はそれより凄いよ」
ふむ・・・もしかしなくても、俺は転生の特典を得ているのか?元々強かったならわかるが、俺の人格になってから強くなったならもう少し自重した方がいいのか?いや、アリスを守るためには力は必要だ。それに俺が脳筋キャラになれば、状況が読みやすくなるかもしれない。取り入ってくる奴の見分けは楽になる。でもなーアリスに脳筋キャラとは思われたくないから悩む。
「それはそうと・・・兄さんのことありがとう」
「唐突にどうした」
「さっきの兄さんの負けた時のスッキリした顔を見てわかったよ。君がきちんと兄さんを助けてくれたことが」
そうストレートにお礼を言われたので俺はため息まじりに言った。
「礼はいらないよ。俺にもメリットがあるからな」
「メリット?」
「ま、遅かれ早かれこういう事態はおきてただろうしね」
もしくは暗殺でもしようかと思ったが、流石にそこまでするのは気が引けるので面倒な方を選んだ。攻略対象がアリスを狙うことを想定していたから、その場合の対処に悩んでいたのは事実だ。もちろんアリスを守るためなら人を殺すことに躊躇いはないが、その手でアリスを抱いていいものかわからないから悩んだ。結果としてリンスには感謝もあるくらいだ。
「それより、他の奴等のところにも行かないといけないだろ?」
「そうだね。次は・・・」
「付いてくるのか?」
「もちろんだよ。最後まで見届けたいからね」
なんとも奇特なことだ。こんなことを見ても面白くもなんともないだろうに、真面目というかなんというか。
「それなら、次はもう行くところは決めてある」
「そうなの?」
「ああ。ミスティ公爵家に向かう」
その言葉にリンスは苦笑して言った。
「エクス・・・婚約者に会いたいのはわかるけど、少しは自重したほうがいいと思うよ」
「ま、否定はしないが、俺が会うのはアリスだけじゃない。あの家にもいるだろ。当事者の一人が」
「・・・ミスティ嬢の義弟くんか」
確認したところ、今のところは地下で閉じ込められてるそうだが、いつアリスの脅威になるかわからないので早めにやっておきたいのだ。
「確かに、彼には早めに会った方がいいかもね」
「どういうことだ?」
「当事者の中で、一番酷いのが彼らしいよ。今も君への憎悪が聞こえてくるらしい」
知らない間に恨みをかっていたようだ。しかし憎悪か・・・王子よりプライド高そうだし、今度は少しだけ外道になってみるか。アリスには決して見せないような酷い顔を見せて心を折るのが手っ取り早いか。幸いにも義弟くんとアリスはあまり接点がないそうだから、アリスが傷つくことはないだろうし、あとは俺が上手くやるだけだ。
「リンス、俺が何をしても黙ってられるか?」
「その質問の意味はわかりたくないけど、友人のことを信じるさ。それに君がどんな行動をしようが、それはミスティ嬢に繋がってるとわかるから大丈夫だよ」
「そうか」
やはり友人としては信用できるなリンスは。この分ならアリスに報告することはないだろうし、色々自由にやっても文句はないだろう。ミスティ公爵も新しい後継者育成に取りかかってるから義弟くんはもはや用済だろう。なら、心を折ってから直しても大丈夫だろうと一人思うのだった。




