27 騎士団長の息子は王子と戦う
圧勝です
王城の闘技場に移動してから、舞台で向き合う俺と王子。入り口は王子の部屋の番をしていた衛兵が固めており逃げることはできない。まあ、今の様子を見れば王子が逃げることはないだろうが・・・保険は必要だろう。そしてそれを観戦するリンスの姿があった。
「ルールは簡単です。相手に負けを認めさせれば勝ち」
「それはわかるが、お前はなんで素手なんだよ」
そう言う王子の手には真剣が握られているので、その疑問に笑顔で答えた。
「ハンデです。普通に剣で戦えば圧勝しちゃいますから」
「舐められたものだな。これでも講師には勝てるくらいの実力はあるんだぞ」
「私が誰の息子かお忘れですか?」
「騎士団長の息子・・・なるほど、剣では絶対に勝てないと舐めているな。だが、いいのか?流石のお前も剣相手に素手で勝てるとは思わないだろ」
「そうですね・・・では右手の使用を禁止してやりましょう」
煽るだけ煽って、感情を表に出させる。まあ、舐めているのではなく単純に力の差があるのでそうなるだけなのだが、それが王子には効いたようで目を鋭くして言った。
「なら、せいぜい後で治療してもらうことだな」
「ご心配なく。この戦いで怪我を負うことはあり得ませんので」
「・・・そうか、あくまで舐めてるのなら殺してやる」
ギラギラした瞳を向けてくる王子。男にこんなに熱烈に視線を向けられても嬉しくないが、そんなことは口にはせずに審判の兵士に合図をする。
「で、では・・・はじめ!」
その言葉で戦いは始まる。先に動いたのはやはり王子。予想より早いスピードで俺に斬りかかってきた。間違いなく真っ二つにするための上段からの一振りにギリギリで避ける。思ったよりやるようだが、この程度なら大丈夫か?
「ちっ!くそ!」
そこから更に攻めてくる王子。思ったより早いがしばらく見ればなんとなくわかってくる。王子の剣は確かに早くて正確だが、決まった型があり、それを把握できればなんともなかった。講師が良かったのか基本に忠実だが、基本というのは決して万能ではない。時に基本というのはその弱点を浮き彫りにする。それに、王子は今俺を斬ることに集中しており俺の急所を狙ってくる。ならそこを守ればなんとでもなる。何度かの交差を経てから、息を吐きながら、王子は言った。
「なんで、そこまで避けられる!」
「メイス様は確かに強いですが・・・私の方が何倍も強いですから」
「・・・!殺す!」
そこからはラッシュだった。一撃で心臓を狙ってくる突き技に、胴体を真っ二つにする一閃。腕を斬り落とす上段からの一撃に、蹴りまで混ぜてくる。まあ、全部普通に避けるけどね。
「くそくそ!なんでだよ!なんで当たらないんだ!」
「今の守る者がないメイス様にはわかりませんよ。私の強さの秘密が」
「守るものだと?くだらん!そんなもので変わるか!」
む、今のは少しだけ頭にきたので俺は王子の剣を弾き飛ばしてから詰め寄って言った。
「くだらなくなんかないです。それがあるから人は強くなれるのです」
「・・・!黙れ!」
不意討ち気味の一撃を俺に叩き込もうとする王子だがそれを防いでから俺は王子の首もとを持ち上げてから言った。
「これが現実です。あなたが馬鹿にした力で私はあなたを遥かにしのぐ強さを持っています」
「ぐっ・・・」
なんとか俺から離れようともがくがピクリとも動かない。片手で人一人を持ち上げているのに全く負担がないレベルの筋力はもはや自分でも人間離れしてることがわかる。身体強化なしで利き手じゃない方でこのレベルなのは、ちょっと自分でもひくレベルだ。まあ、俺より強い人間がいるかもしれないから油断はしないで、これからも鍛練は続けるけど・・・
「メイス様。あなたはこれから何をしたいですか?」
「な、んだと」
「あなたは全てを失った。これからの華やかな人生も想いも全て失いました。残されたのは惨めな王子というレッテルだけ。それで満足ですか?」
そう言ってから俺は地面に王子を放り出してむせる王子を見ながら言った。
「もし、それが嫌なら努力をしてください。今のあなたはもう王太子ではない。ただの王子です」
「・・・貴様に何がわかる」
「少なくとも惨めな思いをしていることはわかります」
「そうだな・・・貴様に全てを奪われたから確かに惨めだ」
「私のせいではありません。自業自得です」
いくら魅了魔法にかかっててても、結局その元になった気持ちは王子のものだから、自爆と言ってもいいだろう。
「そうか・・・なら、俺はどうしたらいい?」
「勉強してください。あなたは王子です。知識を磨き、これからこの国と他国の交流を盛んにしてください。魅了魔法に一度かかった上に全てをなくしたあなたなら外交官くらいはできるでしょう」
「はぁ・・・負けたよ」
その一言で勝負はついた。これで絶対に勝てないというイメージの植え付けにはおそらく成功しただろう。あとはこの王子の努力次第だが、使える駒になるかもしれない。まあ、ダメなら斬ればいいしね。




