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青みかん  作者: リュウ
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混ぜるな危険

 2年生の最初のテストの直後に、席替えのくじ引きが行われた。始業式からこの頃までクラスの座席は出席番号順だったため、2年生になって最初の席替えになった。

 テストが終わったという開放感も手伝って、俺たちは新しい席にワクワクしながらクジを引いた。

 

 後日、朝のホームルームの前に、教室に貼り出されていた新しい座席表を見た俺は、これからどうなるだろうととても心配になった。しかしそれは、俺の周りの席のことではなかった。

「嘘やろ。俺、笠井小雪の隣なんや」

案の定、俺と一緒に座席表を見ていた貴雄はそう嘆いていた。そう、心配しているのは俺ではなく貴雄のことだ。授業では隣の席の人と英会話の練習や意見交換をすることが多いので、嫌でも関わることになる。

「でも、あいつの隣が晴男やなくて良かったわ」

それでも貴雄は、俺のことを気にかけているのかそう言っていた。

「でも俺、最初はあいつと隣の席やったで」

俺は貴雄にそう言った。

 俺の名字が「朝倉」で、彼女の名字が「笠井」だったため、出席番号順の席だと隣になっていたのだ。しかし、貴雄の名字は「長谷川」で、俺からの席から遠かったから、あまり意識していなかったのかもしれない。

 新しいクラスになって最初に隣の席だったこともあって、俺は笠井小雪のことが気になっていたのだった。そのため彼女と授業中に会話することも多かったわけだが、その時に本性を知ることはなかった。

 しかし、いざこざの後に隣の席になるのはわけが違う。俺は貴雄に、笠井小雪と関わらなくていいと言ったばかりだったのに、どうしてこうなってしまったのだろう。

 俺の新しい席はというと、小学校も異なり今回初めてクラスメートになった西村華菜子という女子と隣になった。笠井小雪の悪口仲間ではないのでその点はほっとしているが、どんな人なのかよく知らないためどうなるか想像ができない。

 そして、俺は窓際の後ろの方の席になったため、教室のど真ん中の席になった貴雄の後ろ姿がよく見えるようになった。当然ながら授業が一番大切だが、授業中は何もできないと知りながらも、この場所で貴雄のことを見守ってあげたいと思った。


 そして、新しい座席での授業が始まった。座席が変わっても、クラスの面子は変わっていないのだが、やはり座席から見える景色やクラスの居心地は多少変わった。

 俺が心配していた通り、鈍感な俺でもわかるくらい、笠井小雪の隣の席に座っている貴雄は殺気立っていた。

 俺自身そうなのだが、貴雄は笠井小雪の存在自体にイライラしていることだろう。会話を交わしていなくても殺気立っているのだ。だからせめて、笠井小雪が必要以上に貴雄に話しかけないことを願った。

 しかし、俺の願いは見事に叶わなかった。


 「長谷川君、テスト何点やった?」

席替えをした直後にテスト返却があり、そのときに笠井小雪が貴雄にそう聞いていた。

 貴雄はその言葉に苛つきながら

「何で教えやなあかんねん」

と言っていた。

「もしかして、点数悪かったん⁉︎」

笠井小雪は、にやにやしながら貴雄にそう聞いていた。

「じゃあ、お前は何点やったんさ?」

貴雄がさらに苛つきながらそう聞き返した。

「それは…」

笠井小雪が急に大人しくなった。もしかして、貴雄よりテストの点数が悪いのではないかと疑った。

 でも、これ以上やりとりが続くとまずいだろうから、俺が止めに言った方がいいだろうかと思った。そのとき、笠井小雪の後ろの席の葉山繁彦が

「あれ、笠井さん、30点やったん⁉︎」

と言った。

 俺は、想像以上に悪いその点数に笑いそうになったが、さすがにそれは良くないと思って堪えた。

「ちょっと、勝手に私のテストの点数見ないでよ‼︎」

笠井小雪が動揺してそう叫んだ。

「いや、笠井さんも人に点数聞いとったやん。それに、心配せんでも俺は28点やったで」

葉山繁彦は、そんなフォローにならないフォローをしていた。

「微妙な点数差やな。悪いけど、俺はそれよりはマシな点数やったわ」

貴雄は、怒りを忘れて淡々とそう言った。

「長谷川君は何点やった?」

葉山繁彦が無邪気にそう聞いた。

「68点やよ」

貴雄は、すんなりとそう返した。

「何や、全然優秀やん」

葉山繁彦が素直にそう褒めていた。

「いや、俺の成績は真ん中より落ちるで」

貴雄はそう謙遜した。

「私の質問には答えなかったくせに」

置いてけぼりにされた笠井小雪がそう膨れていた。

 その様子を見て、大きな揉め事にならずに済んだとほっとしていた俺は、そのテストで96点を取っていた。

 それを周りに言うことはえげつないと思うので隠したが、俺は笠井小雪にばかにされるような立場ではないのだと内心ガッツポーズをしていた。

「魔王、96点なん⁉︎すごい!」

そのとき、俺の隣の席の西村華菜子がそう言った。また、小学校が違う生徒から魔王と呼ばれてしまったが、そのことはもう慣れっこだ。

「何で勝手に俺のテストを覗き込むんや!」

俺は、思ったことをそのまま口にした。

「いや、魔王って頭良さそうやし、答え合わせをさせてもらおうかと思って」

西村華菜子はそう説明した。

「いや、授業でテストの答え合わせしたやん」

頭良さそうと言われることは不愉快ではないが、面倒に思った俺はそう言い返した。

「だって、授業でしたんは答えの公表だけで、詳しい説明する時間がなかったもん」

西村華菜子にそう言われて、俺は面倒に思いながらも、

「しゃあないな」

と言って、解説をすることにした。


 「魔王、教科書忘れたから見せて」

その後、授業中に西村華菜子がそう言い出すようになった。

「しゃあないな。次からはちゃんと持ってきてくれよ」

俺は呆れながらそう言ったが、こんなことは1度や2度ではなかった。

 「魔王、宿題忘れてきた。どうしよう」

西村華菜子がそんな相談をしてきたこともあったのだ。

「いや、それは俺が何とかできる問題と違うやろ」

人から頼られることが嫌いではない俺でも、さすがに鬱陶しくなてきた。そして、西村華菜子はわざと教科書や宿題を忘れているのではないかと疑ってしまった。

 こうして隣の席にいる西村華菜子のフォローをさせられるせいで、笠井小雪の隣の席の貴雄のことを心配する余裕がなくなってしまった。


 貴雄は、席替えをしてからそれまでより部活熱心になった。俺は、貴雄がクラスにいるときのイライラを、練習で動き回ることで解消しようとしているように思えた。

 「貴雄、お疲れ様」

練習後、俺はいつも通り貴雄にそう言った。

「お疲れ様。今日も楽しかった」

貴雄はそんなことを言っていたので、俺は

「それは、部活のこと?」

と聞いた。

「ああ。何か最近、これまで以上に野球すんのが楽しいと思って」

そう言う貴雄を見て、やっぱりクラスで苛立っているのではないかと思った。

「前よりキャッチボールが上手なったよな」

一緒にいた博哉がそう言った。

「そうやね。俺の投げる球を全部受け取ってくれんのが嬉しいわ」

貴雄は捕手で俺は投手のバッテリーなので、キャッチボールが円滑になったことが嬉しいと思った。

「もしかしたら、授業中のイライラを忘れたいのかもしれへん」

貴雄の口から、そんな言葉が出てきた。

「クラスの中で何かあったん?」

俺たちとクラスが違い、授業中の様子を知らない博哉がそう聞いた。

「実はな−」

貴雄がクラスの中で苛立っている経緯を話したら、博哉は

「そうやったんや。それは大変やな」

と驚いた。博哉は、笠井小雪のことを全く知らなかったのだ。

「そういえば、晴男は最近どうなん?」

俺のことも気になったのか、博哉がそう聞いてきた。

「俺も、貴雄ほどやないけど隣の席の人に振り回されとるな−」

俺が西村華菜子の話をしたら、博哉は勿論貴雄も驚いて、

「面倒くさい人と隣になってしもたんやな」

と言われた。

「そうか、隣の席の人に困っとんのは俺だけやなかったんや。早く席替えしてほしいわ」

貴雄は、少しほっとしながらもうんざりしていた。

「席替えしたばっかやで、しばらくはこのままなんやろな」

俺も少しうんざりしながらそう言った。

 席替えの時期や頻度は担任によって異なるが、毎週とか毎月くらいの頻度で席替えをするクラスはまずないと思う。そう考えながら、俺も早く席替えをしてほしいと願うのだった。

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