魔王と30人の勇者
小学校5年のとき、俺たちは学芸会で劇をすることになった。
「でも、何の劇をすんの?」
劇をするという意見はクラスで一致したが、何をするか、また話し合う必要があった。
「せっかくなら、オリジナル作品にするのもええかもしれへんな」
担任がぼそっとそんなことを言い出した。
「じゃあ、バトル系の話がええ!」
陣野大輔がそう言いだし、周りの男子たちも同調した。
「でも、台本書ける人とかおんの?」
誰もがそう疑問を抱いたはずだ。
「じゃあ、私が書きます」
宮部 真登香がそう手を挙げた。
俺は、真登香のことを小学校に入る前から知っている。こいつは表立って騒いだり、友達とわいわいつるむことはないが、人間観察が得意だ。
「ええやん。よろしく頼むで」
そのため、俺達幼なじみはすぐに賛成した。
「バトル系って、どんな感じの話にしたい?」
真登香が大輔に聞いた。
「やっぱり勇者が魔王と戦う話にしたい」
大輔が興奮しながらそう話す。
「ええな。じゃあ、まずは勇者の役を決めやんと」
真登香も賛成し、配役を決めることになった。
「俺やる!」
「俺も」
「私もしたい!」
大輔はもちろん、他のクラスメートも次々と手を挙げた。その合計は、なんと30人。
「30人⁉こんなに勇者要るか?」
担任が呆れるようにそう言ったが、真登香は
「なら、やりたい人全員勇者役にします」
と言った。
「じゃあ次、魔王役」
「はい!」
俺は、迷わず真っ先に手を挙げた。
「晴男、ええの?」
周りからそう言われたが、他に魔王役をしたい人がいなかったので、すんなり決まった。
俺はこれまで、演劇では王子や勇者の役に選ばれることが多かった。でも、それでちやほやされることが何だか嫌になり、悪役を演じてみたいと思っていたのだ。
「真登香は何の役すんの?」
担任にそう聞かれた真登香は、
「私は脇役をします」
と答えた。
こうして決まった劇のタイトルは、「魔王と30人の勇者」。国を征服しに来た魔王を、30人の勇者が協力して倒しに行くというあらすじになった。
また、勇者は、大輔は「率先して戦う目立ちたがり」、貴雄は「仲間思いだがどんくさい」、鈴木博哉は「力自慢だがのんびりしている」、篠山実果子は「おしゃべりで陽気」など、それぞれの特徴を活かしたキャラクター設定になった。
俺はというと、悪役を演じることが嬉しくて、練習でも全力で悪役になりきった。悪役がこんなに楽しいなら、もっと早くから手を挙げれば良かった。
そんな中、真登香が
「悪いけど、台本の内容を変更してもええかな?」
と言い出した。
「どう変更したいん?」
「それは―」
そして学芸会当日になり、俺たちの出番が来た。
最初は、真登香たち住民がのどかに過ごしているところに、俺が演じる魔王がやってくる場面から始まった。
「きゃー、何者⁉」
住民役の1人の羽多野蘭がそう叫んだ。
「俺は魔王だ。作物が豊富なこの土地を征服して、お菓子の国を作ってやるのだ。ハーハッハッハ!」
俺は、大きな声でそう言い、舞台から去った。
「この大切な土地が、魔王に奪われてお菓子の国にされてしまう」
住民役の広川幸一がそう嘆いているところに、
「我々が、魔王を倒そう」
と、勇者たちが次々と登場。
「30人で力を合わせたら、この土地を取り戻せる」
片岡秀作勇者がそう言う。
「私たちも協力したい」
そう言う住民役の真登香に、村瀬愛子勇者が
「あなたたちを危険な目に逢わせてはいけないから、ここで待っていてください」
と言った。
こうして、30人の勇者は魔王を倒す冒険に出た。
「さて、どうやって魔王を倒すか、作戦を練ろう」
頭脳派の勇者、田代麻優美が言い出す。
「えー。考えるより、すぐ魔王をやっつけに行く方が早いって」
大輔勇者がそう言う。
「でも、魔王の居場所を特定して、どこから攻めてくるか分析しないと、30人でも全滅させられかねないでしょ」
「それもそうだな」
麻優美勇者の意見に、他の勇者達も賛成した。
「魔王なら、お城に居るんじゃないか?王様のことも心配だから、そこに行こう」
石野馨勇者がそう言いだし、勇者たちは歩き出した。
そして、勇者たちは城に辿り着いた。
「魔王の部下が見張っているかもしれないから、気を付けないと」
慎重な勇者、中森 等志がそう言った。
「何をしに来た」
魔王役の俺は、そう言い、姿を現した。
「まさか、魔王か⁉」
玉本賢太郎勇者がそう言い、勇者たちは皆、武器を持って身構えた。
「魔王め、王様はどうした⁉」
山根智紗子勇者が俺に聞いた。
「心配しなくても殺してはいない。テレビを観ながらお菓子を食っているさ」
俺は、不気味にそう笑った。
「そんな。俺達はお前を倒しに来た!絶対に許さないぞ!」
伊藤徹也勇者がそう叫んだ。
「俺は、王様を助けに行く」
貴雄勇者がそう言って走り出そうとするが、俺は
「させないぞ」
と、貴雄勇者を捕まえ、投げ飛ばした。
「くそ、みんなで魔王と戦うしかないようだな」
三浦渉勇者がそう言い、勇者たちが武器で攻撃を始めた。
俺は、その勇者たちの攻撃をかわし、素手で反撃をした。
「俺に勝てるとでも思っているのか、ばかな勇者ども!」
俺は、勇者たちをあざ笑うようにそう言った。
「諦めないぞ。30人で力を合わせて、魔王に勝つんだ‼」
博哉勇者がそう叫び、勇者たちは再び立ち上がる。
しかし、俺は勇者たちが攻撃を仕掛けてくる前に魔法をかけて、勇者全員の行動を止めた。
「こんなことで俺を倒せると思うな。この国はお菓子の国になるのだ。ばかな真似をしてくれたお礼に、お前たちを全員お菓子の国に招待してやる。ハーハッハッハ!」
「くそ、魔王め…」
こうして、勇者たちが1人残らず力尽きるところで幕が下りた。
「真登香、何でこんな結末にしたんさ?」
後日、俺は真登香にそう聞いた。
「最初は勇者たちが魔王を倒すハッピーエンドにしようと思とったんやけど、晴男の熱演を見て、魔王を倒したらあかんような気がした」
真登香は淡々とそう答えた。
「勇者に負けるもんやと思とったのに。俺、そんなに強そうやった?」
俺が勇者に勝つという設定に不満はなかったので真登香の台本に従ったが、疑問は抱いた。
「だって、晴男ってすごい武闘派やし、めっちゃ楽しそうに魔王役を演じとったから」
そう言われて、嬉しいような嬉しくないような…。
「それに、あの征服の理由何⁉︎」
魔王がお菓子の国を作ろうとしたという設定は最初の脚本通りだったが、気になっていたので聞いてみた。
「あんな理由の方がおもろいと思って」
俺は、いかにも残酷で邪悪な魔王を演じると思っていたのに。本番で演じた魔王役はとても楽しかったが、自分の中のイメージと違いすぎて困惑してしまった。
その頃、俺には雨野桜子という1学年下の気になる女の子がいた。ずっと話をしたいと思いながら、学年が違うこともあって、なかなかチャンスがなかった。
しかし、学芸会の後の頃に、休み時間の廊下で偶然彼女を見掛けた。
「あの、雨野さん」
これは希少なチャンスだと思った俺は、迷わず彼女に声を掛けた。
しかし、彼女は振り返って、相手が俺だと分かった瞬間、返事もせずに怯えた顔をして逃げて行ってしまった。
取って食うわけでもないのに何で逃げるんだよ。そんなに俺のことが嫌いなのか?俺って怖いのか?とショックだった。
「―ってことがあってさー」
あまりに悲しかったので、その日の放課後に貴雄に話したら、
「それは、学芸会でお前が演じた悪役が怖かったからやろ。あん時のお前を見て泣いた子もおったって、すごい話題になっとったで。あれ、俺から見ても怖かったもん。俺らよりかっこよかったけど。相手は年下の女の子やから、余計怖かったやろ」
と言われた。
そんなに怖かったか、俺が演じた魔王は。お菓子の国を作るために征服に来たのに。言われてみれば、周りが少し引いていたような気はした。
もしかしたら、俺を見て泣いていたのは彼女だったのかもしれない。ならば、学芸会の前に彼女に声を掛ければ良かったのかもしれないと、後悔した。
ただ、自分が張り切って演じたせいだと知っていながらも、あんな台本にした真登香のことを恨んでしまった。
「魔王役、強くてめっちゃかっこよかった」
ただ、その時一緒にいた貴雄の弟の泰雄には、そう言われた。
「ああ、ありがとう」
一応そう言ったが、男にそう言われて嬉しいような嬉しくないような…。
「お前が俺を投げ飛ばすシーン、めっちゃ練習したよな」
貴雄がそう振り返った。
「そうやったな。怪我させやんようにって力加減が大変やったわ」
俺も、そう振り返った。演技とはいえ、投げ飛ばす動きはしなければいけないので、その練習をしなければいけなかったのだ。息が合わないと失敗するので、俺と特に親しい貴雄を投げ飛ばすことになったのだった。
「俺、だんだんお前に投げられるのが楽しくなってきたんさ」
貴雄がそんなことを言い出した。
「何言ってんねん。それでか、お前が俺に投げ飛ばされて、なんか嬉しそうにしとったんは」
俺は、貴雄が気色悪いことを言いだしたとは思ったが、驚きはしなかった。
「ばれとった⁉」
貴雄にそう言われた。こいつ、あの演技のせいで変なことに目覚めてしまっていないよな?と、余計な心配をしてしまった。




