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第十四章 大きいことはよいことだ  1 UKとUSA

英国(ユナイテッド・キングダムーUK)と米国(USA)。人種も言語も同じながら、大きな違いがあるものです。筆者が見た違い、そして共通点。


   第十四章 大きいことはよいことだ


 1 UKとUSA


 イギリスのあらゆるトウィッチャーにとって、三脚と望遠鏡は今やまさに標準装備と言ってよい。しかし、こういう道具を持ち歩いているバードウォッチャーをイギリス国内で見かけたら、まずまちがいなくアメリカ人と思ってよかった時代は、つい二〇年ほど前のことではなかっただろうか。

 北アメリカには何回か出かけているが、一九六〇年代に初めて訪れた時から、イギリスと異なる探鳥の方法にいたく印象づけられたものだ。

 私はイギリスで、遮蔽物やハイドを作り、鳥に見えないように遮蔽物の背後を歩いてハイドに入り、ハイドの中からすぐ近くで鳥が見られるようにするという仕事をやってきた。

 一方アメリカでは、保護区域の中のアスファルト舗装の一方通行路を車でゆっくり走る。メキシコ湾のサニベル島では延長一八キロ、NASA(アメリカ航空宇宙局)のケープ・カナベラルにあるメリット島では延長一九キロ、等々である。車は私たち専用の「ブラインド(イギリスではハイド)」ということになる。そして車から、少々距離のある位置にいる足の長い水鳥たちを見る。

 水鳥を呼ぶことばからして違っている。たとえばシラサギ類は、アメリカでは「ウェイダー」;渉禽類と呼ばれる。イギリスではシギやチドリ類をさすことばだ。あるいはオオハシシギ、イギリスではウェイダー;渉禽類と呼ばれるたぐいだが、アメリカでは「ショア・バーズ」;浜辺の鳥、と総称されている。車から「ウェイダー」や「ショア・バーズ」を見るわけだが、何種類もいるさまざまなサギ類は道路わきの溝で餌を漁っていて、私たちが車から降り、カメラを向けてもまるで無関心な様子で、飛び立ちもしなかった。

 ところどころには高い観察塔が立っていて、無料で使える望遠鏡が備え付けられている。ケベックから川をくだったトルモンテ岬のように、渡り途中のハクガンの大群を見るには、採餌しているところから二キロ半も離れたビジターセンターの観察台を利用するほかはない、というようなところもある。まったく正しいやり方だよ、と私たちがうけあったので、カナダの友人であるエリックとルスのクーパー夫妻は喜んでくれた。

 この場所からはるか南にあたるシャーク・バレイ・トレイルには、巨大なコンクリート-の観察塔があった。塔を巻くようにつけられた傾斜路には段差がないので、車椅子の友人がいっしょだったとしても、車椅子を押して上がることができる。眼下にひろがるはてしない草の海には、マホガニー、ヤシ、オークなどが点在し、島状の小さな丘のようにこんもりと盛り上がっていた。この場所こそ、五七〇〇平方キロにも及ぶ、世にも名高いエバーグレーズ国立公園である。すぐ下にはワニが集まってきているので、ワニの届く範囲から離れていられるのはけっこうなことだった。ワニたちはきっと、誰かが落ちてくるのを期待していたに違いない。


 ホレース・アリグザンダーは、私の九〇歳代の友人である。一九七四年に「わが探鳥歴七〇年」という本を書くことができた人物だった。ホレースは、奥さんのレベッカといっしょにフィラデルフィアに住んでいて、私たちをおおいに歓迎してくれた。ホレースは、イギリスの保護区ではいつも長い道のりを歩いて鳥を見ていたものだ。歩かずに鳥を見ることができるのは、アメリカでのホレースの生活にとって、ありがたい福音ともいうべきことだった。

 アメリカには、鳥や鳥が好きな人々にとっては、最大級、かつ最も優れた部類に属する保護区がいくつもある。うまくつくられた観察塔が備わると、こうした保護区はいっそう申し分のないものになる。塔の構造はそれぞれ異なっているが、どれも遠望がきき、広い範囲にわたって鳥が見られるようにできている。

 私は自分なりの鳥見のやり方に慣れているが、むろん、アメリカのバーダーも同様である。イギリスで、木造の小さなハイドにいっしょに座っている時、どうして彼らはすぐそばでよく見える鳥をまず楽しむかわりに、遠くて見えにくいものを無理に見ようとするのかとふしぎに思ったものだ。ほら、あの向こう岸の草のしげみのかげにちらっと見える頭は何だろう?棒切れかな?いや、違う。動いた!

 それにしても、彼らはイギリス式のハイドをもっと気に入ってくれてもよさそうなものだった。イギリスで私たちの保護区を実際に見てもらう時と同じように、アメリカ各地でスライドをまじえた講演を十二回にわたって行った時も、私はハイドの効用をおおいにほめた。こうした講演は、東はバーダーにとってのメッカとも言えるコーネル大学の鳥類研究所から、南はフロリダで、「スノーバード」の「ストリームライン(註)」の大会で行われたもの、そして西海岸のずっと北にあるシアトルで、バーバラ・ピーターソンが主催した夕食会などである。

(註;「ストリームライン」は大型のキャンピングカーのこと。引退後、夫婦で長期旅行を楽しむ時などによく用いられる。特に冬、積雪地方から雪をさけて、フロリダのような暖かい南のリゾート地で過ごす人々のことを「ユキヒメドリ(スノーバード)」と呼ぶ。)

 アメリカではどうしてハイドを作らないのだろうか。

「こわされてしまうからだよ。アメリカの保護区のほとんどは自由に利用できるから、イギリス方式のブラインドは長くもちはしないさ」。

「でも、カナダでは作っているよ。カナダに比べて、合衆国のマナーがとくべつ悪いってわけでもないだろうに。自然の保護区域の中では、人はもっと礼儀正しくするとは思わないかい。きみだって、保護区の観察路がきれいだって自分でも言ったじゃないか。イギリスのハイドは一つだって、深刻な破壊事件にあったことはないんだ。中にはもう四〇年もたっているのもあるんだよ」

 長い付き合いのアメリカ人バーダー、トルーマン夫妻と何年か前にかわした議論である。夫君のチャーリーは、一時は教師をしていたこともあり、現在は農場の仕事を引退している。奥さんのキャサリンは、引退した弁護士である。どんなことに対しても、この二人が心からの興味を示すところが私は好きだった。

 ウェスルトンのわが家、サフォーク・パンチ・コテージで、クリケットの国際優勝試合をテレビで見ていたチャーリーは、五日もかけて行われるこの試合をなんとか理解しようとして苦労していた。五日間だって・・・・ああ、神様!

「ハーブ、ここへ来てもう一回説明してくれよ」 一見なんの得点にもならないようなクリケットの動きのすばらしいポイントを私が説明した後で、チャーリーは言った。そして、お茶のために試合が中断されると、ため息をついた。

 ジャネットとカトラーのボールドウィン夫妻も、私たちとともに過ごし、招待されたり、お返しに招いたりしたたくさんのアメリカ人カップルのうちの一組である。彼らの農場はニューヨーク州中央部にあるが、近くの湿地の保護区に、彼らのことばによれば「ミンズメア的な」木造のブラインドやその他のものを建てようと提案しているところだった。ここは、北米に多い渓流を水源にした何千もの小さな池のひとつで、ビーバーのダムのために広がったものだった。

 ほど遠からぬころ、トルーマン夫妻、ボールドウィン夫妻と一緒に、所有者のティオガ少年少女クラブをスポンサーとして、私とジョーンは二週間の最高のワーキング・ホリデーを過ごした。この時に、長いこと行ってみたいと思っていたアメリカのライ市を訪れることもできた。ロング・アイランド湾を下ったところにある町だ。ここの教会には、私たちの故郷の町、サセックス州ライのステンドグラスの窓がある。私たちが結婚したセント・メアリ教会の窓と対になるものだ。

 「I♡NY」;ニュー・ヨーク大好き というステッカーを車のリア・ウィンドーに貼るほどの勇気は、さすがになかった。しかし、セントラル・パークの遊歩道では森林の鳥をたっぷりと楽しむことができた。ロング・アイランドのジャマイカ・ベイは、これとはまったく対照的な湿地の保護区で、ここもまた素晴らしい場所である。この偉大なニュー・ヨーク州そのものにも、「I♡NY州」というステッカーがあればいいのに、と思った。市街地から渋滞のないハイウェイを北に向かうと、さほど遠からぬところから、キャッツキルとアディロンダクの山々をおおう何百キロもの森林地帯を通ることになる。カナダの国境まで続いているものだ。

 前回、この州と、おとなりのバーモント州のニュー・ハンプシャーに旅行した時は、秋だったので、木立の葉むらを透かし見て、もっぱら渡り途上の小鳥を探してすごした。ちょうど紅葉のさかりで、オークやサトウカエデの葉が、まるでほのおのように丘陵地を赤や黄色に彩っていたものだ。今回の旅では、森林は新緑のさなかで、木々は秋の色どりがほのかにうかがわれる若葉をまとっていた。変化に富む樹種の多さは驚くほどで、四〇〇㎡に二〇種類もの樹木を見ることもよくあった。サトウカエデ、カバ、松、シャグバーク・ヒッコリー、アイアンバーク等々。木々の多くは花をつけ、昆虫が群れていた。三六種類ものヒタキ類が繁殖しているのもふしぎではない。

 開けた土地も、なにもだだっ広い穀物の畑ばかりではなかった。小さく仕切られて、生け垣のある美しい畑も多く、健全な状態だった。放置されて野生に戻るに任された耕地もあり、カケスが穴を掘ってドングリなどをためこむため、樹木が育っていた。小さなオークや、風に吹き寄せられた種子から生えた若木が灌木林になり、大柄の野生の七面鳥がこっそり森から出てきて餌をあさるにはちょうどよかった。もっと小さいウズラの一種、コリンウズラもこうしたやぶを餌場にしている。

 コリンウズラは、狩猟鳥としてイギリスに導入されたものがミンズメアでも記録されている。私たちのところのバードウォッチャーは、森からひびいてくるこの鳥の聞きなれない大きな声に混乱してしまったものだ。ミンズメアでは、コリンウズラは長くは定着しなかったので、本来の生息地で再会できてよかった。

 熱帯雨林を別とすれば、アメリカの混交林ほど多くの種類の鳥を見たり聞いたりできたことはない。もっとも印象的だったのはキツツキの仲間で、ヨーロッパ西部の九種類とくらべ、実に二一もの種類がいる。その上、見るのがはるかに楽だった。がっちりした体つきのモズモドキ(ヴィレオ)の仲間もヨーロッパにはいない。また、五五種類にものぼるアメリカムシクイの仲間は、大部分がカラフルで、ヨーロッパのムシクイ類とはだいぶ異なっている。ヨーロッパのムシクイ類はもっと種類が少ないが、どれもごく地味な色をしているので見分けにくい。かつて、偉大なるロジャー・トリー・ピーターソンをして混乱に陥れ、LBJ(Little Brown Jobs)―ちっちゃい茶色のやつめら、とこの類を呼ばせた連中である。まったく、その通りであった。

 マイク・マクヒューとスコットランド高地への探鳥ツァーの一つに同行した時、ホテルに大型バスが到着し、みるからにアメリカ人らしい旅行者の一団がぞろぞろと降りてくるのを見ていたことがある。私は乗客のひとりに、バスの横に「ABCツァー」と掲示してあるのはどういう意味かと聞いてみた。

「いざ、血塗られた古城へ(Another Bloody Castle)ですよ」 彼はけろりとして言ってのけた。

 この人たちが鳥を見に来たのではなくて残念だった。しかし、もし探鳥旅行であったとしたら、我々のLBJばかりではなく、もっと色が鮮やかな小鳥たちにも悩まされたに違いない。イギリスの森では、小鳥の声を聞いたが、姿が見られなかったという場合、それがただのシジュウカラだ、と賭けてもよい場合がけっこう多いのだ。

 もし声を立てず、木のてっぺんでちらりとシルエットを見かけただけ、という場合には、「またABC鳥だよ」とよく言ったものだ。「また、いまいましいズアオアトリさ(Another Bloody Chaffinch)」 賭けの勝算は、むろん、シジュウカラやズアオアトリがいちばんありふれた種類だということである。

 




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