苺タルトと、偏食な君〜後編〜
「なんだ、久しぶりに呼び出した思えば我儘娘の可愛い我儘にこのご老体を付き合わせるのか」
……そう言いながらも嬉しそうじゃないの、口が緩むの必死に抑えてるくせに。
私はそう思いながらも言わなかった。この男は1度機嫌を損ねると色々面倒なのよ。
「改めて言うわ、シノアくんの誕生日を祝う料理をあなた達2人に作って欲しいの。
本当は私が作りたかったのだけど、苺タルトを作っただけで情けないことに体力の限界よ。
だから、お願い。彼に、懐かしの味がする料理をあなた達2人の力を合わせて作ってあげて」
そんな私のお願いに、2人はきょとんとした顔で見合わせて、視線が私の方へと戻る時にはにこやかな笑顔に戻り、
「もちろん、喜んで。そうすること2人が喜んでくださるのなら」
と、変わらず穏やかにアルトは言う。
そして、そんなアルトの師匠の返事は、
「我儘娘も良い加減にして欲しいものだ。まあ、今回は致し方ないか」
相変わらずのツンデレ振りだった。
誕生日おめでとうと彼にそう告げれば驚いたような、きょとんとしたような表情をするものだから、思わず笑ってしまった。
彼は高価なプレゼントを嫌う。
だから、私は手料理を振舞おうと考えたのだが、いかんせん体力がないもので苺タルトしか作れなかった。だが、きっと先代と2代目の専属シェフの2人が力を合わせて作ったものなら食べられると信じてる。
案の定……。
「……美味しい」
涙を流しながら、美味しそうに口に頬張り、それからは黙々と食べていた。
その姿を見て満面の笑みを浮かべるアルトと、先代シェフはふんっとつれない態度を見せながら何処か嬉しそうにしていた。
シノアくんは余程美味しかったのか、2時間も掛けてゆっくりと食事した。私はタイミングを見計らって、苺タルトを取りに行く。
いつもはメイドがする支給作業を私がしているところを見て、食事が終わっていたシノアくんはそんな私を驚いたように見ていた。
そんな彼に私はこう話しかけた。
「本当はね、手料理を作りたかったんだけれど、本命作るだけで疲れちゃって作れなかったんだ。……ごめんね、シノアくん」
そう言った後、私はシノアくんの目の前で苺タルトを切り分けて、一切れを乗せた皿を彼の目の前へとおく。
それから、満面の笑みで言ってやった。
「苺タルト、好きって言っていたでしょ」
その言葉に嬉しそうに頷いて、彼は苺タルトを一口、大きく口を開けて頬張った。
苺タルトだけでそれだけ喜んでくれる彼が愛しいとまたそう思った。
それに……。
……その姿を見て、ああこの人と結婚して良かったって再確認出来た。
「美味しいよ、シャリーさん!」
その一言だけで、心がとても満たされたような気がした。
読んでくださりありがとうございました。
こんなに読んで頂けるとは思っていなかったので、とても嬉しく思っています。
食いしん坊な私と、偏食な君はこれで完結です。
この話を評価をしてくださった方、ブックマークしてくださった方、ありがとうございます。
全8話と短い話でしたが、読んでくださりありがとうございました。