発見文書 No.074
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発見文書 No.074
種別:フィールドノート補足メモ(録音外)
記録者:阿部(記者)
日付:2000年8月13日
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【2000年8月13日、録音終了後に阿部記者が手書きで残した補足メモ。MDには収録されていない】
録音を止めた後、Kが話し続けた。
止めてよかった、と思った。これは記録してはいけない気がした。
でも、書かずにはいられない。
Kが言った。「今の話をしてもいいですか。今日のことです。8月13日の、今日のことです。今も起きていることです」
Kが窓の方を向いた。廃校になった祢古小学校の方角。
「教室にいます。今もそこに。ずっと。8月13日の朝から」
Kが、静かに語り始めた。
「教室で目を覚ましました。いつ眠ったのか、覚えていません。教卓の上に、40冊の作文ノートが積んでありました。一番上は翔太くんの。
黒板を見たら、日付が書いてありました。8月32日。私の字でした。
カレンダーを見たら、9月のページが破り取られていました。
子供たちが来ました。ドアが開いて。でも40人じゃなかった。もっとたくさん。昭和20年の子どもも、昭和32年の子どもも、昭和62年の子どもも、みんないました」
「全員の顔が——」
「同じでした。みんな同じ顔。私の子どもの頃の顔でした」
Kが自分の手を見た。
「手が透けていました。骨が見えていました。子どもの手になっていました」
Kが立ち上がり、部屋の隅の古い棚へ歩いた。引き出しを開けた。
中から一枚の紙を取り出した。ひどく古い紙。触れるだけで崩れそうだった。
Kがその紙を俺に差し出した。
受け取った。
震える文字で、こう書かれていた。
「助けて。ここから出して。もう92年目の8月です」
筆跡を見た。Kの筆跡と一致していた。
「これは——」
「私が書いたものです」
「いつ書いたんですか」
「わかりません。もしかしたら——これから書くのかもしれません」
Kが続けた。
「黒板に新しい日付を書きました。8月32日。その下に、『夏休みの思い出 その2』。子供たちが嬉しそうに原稿用紙を取り出しました。私も取り出しました。8月32日の担当として。教師として。児童として。最初の一文を書きました。
『今年の夏休みは、とても楽しかったです』
でも最後の一文は、もう決まっていました」
「最後の一文?」
「——先生、昭和62年の夏休みは、まだ終わっていません」
Kが、こちらを見た。
「阿部さん。原稿用紙を、お持ちですか」
持っていなかった。
「なければ、なんでもいいんです。今日の日記を、書いてください」
「俺が?」
「あなたが来た日から、41冊目が始まるんです」
Kは、静かに笑った。
「よく来ましたね」
俺はフィールドノートを開いた。新しいページに日付を書いた。
2000年8月13日。
最初の一文を書いた。
「今年の夏休みは——」
書きかけて、止まった。
チリン。
窓が閉まっているのに、音がした。




