表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/88

発見文書 No.074

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


発見文書 No.074

種別:フィールドノート補足メモ(録音外)

記録者:阿部(記者)

日付:2000年8月13日


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【2000年8月13日、録音終了後に阿部記者が手書きで残した補足メモ。MDには収録されていない】


録音を止めた後、Kが話し続けた。


止めてよかった、と思った。これは記録してはいけない気がした。


でも、書かずにはいられない。


Kが言った。「今の話をしてもいいですか。今日のことです。8月13日の、今日のことです。今も起きていることです」


Kが窓の方を向いた。廃校になった祢古小学校の方角。


「教室にいます。今もそこに。ずっと。8月13日の朝から」


Kが、静かに語り始めた。


「教室で目を覚ましました。いつ眠ったのか、覚えていません。教卓の上に、40冊の作文ノートが積んでありました。一番上は翔太くんの。


黒板を見たら、日付が書いてありました。8月32日。私の字でした。


カレンダーを見たら、9月のページが破り取られていました。


子供たちが来ました。ドアが開いて。でも40人じゃなかった。もっとたくさん。昭和20年の子どもも、昭和32年の子どもも、昭和62年の子どもも、みんないました」


「全員の顔が——」


「同じでした。みんな同じ顔。私の子どもの頃の顔でした」


Kが自分の手を見た。


「手が透けていました。骨が見えていました。子どもの手になっていました」


Kが立ち上がり、部屋の隅の古い棚へ歩いた。引き出しを開けた。


中から一枚の紙を取り出した。ひどく古い紙。触れるだけで崩れそうだった。


Kがその紙を俺に差し出した。


受け取った。


震える文字で、こう書かれていた。


「助けて。ここから出して。もう92年目の8月です」


筆跡を見た。Kの筆跡と一致していた。


「これは——」


「私が書いたものです」


「いつ書いたんですか」


「わかりません。もしかしたら——これから書くのかもしれません」


Kが続けた。


「黒板に新しい日付を書きました。8月32日。その下に、『夏休みの思い出 その2』。子供たちが嬉しそうに原稿用紙を取り出しました。私も取り出しました。8月32日の担当として。教師として。児童として。最初の一文を書きました。


『今年の夏休みは、とても楽しかったです』


でも最後の一文は、もう決まっていました」


「最後の一文?」


「——先生、昭和62年の夏休みは、まだ終わっていません」


Kが、こちらを見た。


「阿部さん。原稿用紙を、お持ちですか」


持っていなかった。


「なければ、なんでもいいんです。今日の日記を、書いてください」


「俺が?」


「あなたが来た日から、41冊目が始まるんです」


Kは、静かに笑った。


「よく来ましたね」


俺はフィールドノートを開いた。新しいページに日付を書いた。


2000年8月13日。


最初の一文を書いた。


「今年の夏休みは——」


書きかけて、止まった。


チリン。


窓が閉まっているのに、音がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ