発見文書 No.057-序
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発見文書 No.057-序
種別:編集者作業日誌
記録者:浅川静
日付:2025年3月
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2025年3月21日(月)
出版社より、奥武蔵市で発見された文書群の編集を担当するよう依頼された。
依頼の経緯が少し不明確だった。上司の川村から「あなたに頼みたい人がいる」と言われたが、頼んだのが誰なのかを聞くと「覚えていない」と言われた。川村さんが案件を忘れるのは珍しいことではないが、少し引っかかった。
受けることにした。正直に言えば、手が空いていた。先月まで担当していた料理本の入稿が終わって、次の案件がまだ決まっていなかった。ノンフィクションの編集は久しぶりだ。
整理番号:令7-03-19-A
発見物件:段ボール箱一点
内容:ミニディスク32本、写真33枚、VHSビデオテープ8本、ノート5冊、日記原本1冊、その他
帰りにスーパーで食材を買った。夕飯は麻婆豆腐を作った。味が濃すぎた。
2025年3月23日(水)
発見された文書を受け取りに施設跡地へ。
解体業者の田中さんから段ボール箱を受け取った。思ったより重かった。
車に積んで事務所に戻った。途中、コンビニでコーヒーを買った。ホットの方にしたが、もうアイスでよかったかもしれない。暑くなってきた。
事務所で箱を開けた。中身を一点ずつ確認していく。
MDのラベルを見ていたとき、ラベルなしのものが一本あった。他のMDは日付が書いてある。これだけ何も書かれていない。
机の引き出しにしまった。
2025年3月25日(金)
内容物の目録を作成した。
別件の校正ゲラ(「はじめてのビーガンレシピ」再校)が戻ってきていたので、午前中はそちらを片付けた。レシピ本の校正は数字の確認が多い。分量のミスは致命的だ。
午後から段ボール箱の目録に戻った。
赤ペンが一本、箱の底に入っていた。インクが乾いていない。
引き出しにしまった。
帰りに同僚の中田さんとラーメンを食べた。味噌ラーメン。もう少し薄い方が好み。中田さんが最近離婚したらしく、延々とその話を聞かされた。
2025年3月28日(月)
「祢古小学校 夏休み日記」原本を最初に確認した。
表題を見た瞬間、なぜか既視感があった。以前に見たことがあるはずがない。
山田翔太。7月21日。裏山で赤い風鈴を見た。
読み終えて次の篇を開いた。読み続けた。気づいたら夕方になっていた。6時間、読み続けていた。昼食を食べ忘れた。
腹が減った。コンビニでおにぎりを二つ買って食べた。
2025年3月30日(水)
日記の全篇を読み終えた。
別件のメール対応(「ビーガンレシピ」の著者から写真の差し替え依頼)を処理してから、日記の8月31日の篇を再読した。
「このにっきを、だれかに読んでもらえますか。よんだひとは、つぎのにっきをかいてください」
「つぎのにっきを書く者」として、私が想定されているのかもしれない、と思った。
思って、すぐに否定した。日記が書かれたのは1987年だ。
ただの偶然だ。それだけのことだ。
帰宅して風呂に入った。湯船に浸かっているとき、プールの塩素のにおいがした気がした。
明日は月末。「はじめてのビーガンレシピ」の著者校正の締切。坂本さん(著者)がすごく丁寧な人で、赤字も的確なのだけど、量が多い。明日中に終わらせないと。




