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発見文書 No.041

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発見文書 No.041

種別:夏休み日記

担当:北村ひろみ(児童)

日付:昭和62年8月31日


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【以下は「祢古小学校 夏休み日記」原本より。 この篇のみ、通常の原稿用紙ではなく、学校の便箋に書かれている。 筆跡鑑定の結果、担当者(北村ひろみ・児童)本人のものと一致した。 ただし、担任・北村ひろみとの筆跡比較では、 「酷似している」という結果が出ており、確定的な区別ができなかった】


 今年の夏休みは、とても楽しかったです。


 7月21日に夏休みが始まってから、毎日いろんなことをしました。家族で海に行ったり、友だちとプールで泳いだり、おばあちゃんの家に泊まりに行ったりしました。


 一番楽しかったのは、8月の最初に行った海水浴です。お父さんとお母さんと弟と4人で、電車に乗って海に行きました。海の水は、ちょっとしょっぱかったけど、気持ちよかったです。砂浜で、大きなお城を作りました。弟が、お城に旗を立てました。赤と白のしましまの旗でした。


 波が来て、お城がこわれそうになったので、みんなで守りました。でも、大きな波が来て、お城は海に流されてしまいました。弟は泣いちゃったけど、お母さんが「また作ればいいよ」って言ってくれました。


 お昼ごはんは、海の家でラーメンを食べました。海で泳いだあとのラーメンは、すごくおいしかったです。弟は、かき氷を食べました。いちご味で、真っ赤でした。わたしも一口もらいました。つめたくて、あまくて、おいしかったです。


 プールにも、たくさん行きました。学校のプールが、7月24日に開きました。25メートル泳げるようになりたくて、毎日練習しました。最初は、15メートルくらいしか泳げなかったけど、夏休みの終わりには、25メートル泳げるようになりました。


 友だちの山田くんや、佐藤さんや、田中くんとも、いっしょに泳ぎました。みんなで、だれが一番長く息を止められるか競争しました。山田くんが一番長くて、1分も息を止めてました。すごいなって思いました。


 おばあちゃんの家にも行きました。おばあちゃんの家は、山の中にあります。夜は、すずしくて、星がきれいに見えました。おばあちゃんが、昔の話をしてくれました。戦争のときの話や、お母さんが子どものころの話を聞きました。


 おばあちゃんの家の庭には、大きな柿の木があります。まだ青い柿がなってました。「秋になったら、オレンジ色になるよ」っておばあちゃんが言いました。秋に、また来たいなって思いました。


 夏祭りにもいきました。金魚すくいで、赤い金魚を2匹すくいました。わたがしも買いました。花火がきれいでした。赤と青と緑の花火が、空いっぱいに広がりました。


 自由研究は、「夏の色をあつめる」にしました。毎日一枚ずつ、その日の色を絵の具で作って、画用紙にはりました。いちばん好きな色は、8月の空の色でした。青いような、すこしだけ赤いような、名前のない色でした。


 夏休みは楽しかったです。お母さんのカレーも、おばあちゃんのそうめんも、海のラーメンも、ぜんぶおいしかったです。


 9月になったら、2学期が始まります。みんなに会えるのが楽しみです。


 先生にも会えるのが楽しみです。


 先生、昭和62年の夏休みは、まだ終わっていません。


 このにっきを、だれかに読んでもらえますか。


 よんだひとは、つぎのにっきをかいてください。



担任教師の赤ペンコメント:

ひろみさん、よく書けましたね。海のラーメン、おいしかったでしょう。25メートル泳げるようになったの、すごい。おばあちゃんの柿の木、秋にはオレンジ色になりますよ。——秋に。


最後の三行について、先生はコメントを書くことができません。


読んだ人が、次の日記を書いてくれると信じています。


先生はずっとここにいます。


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【浅川静・編集注】


この篇について、一つだけ書く。


北村ひろみ(児童)の作文には、怪異が一つも書かれていない。


赤い風鈴も、セミの声も、砂嵐の顔も、音のない雨も、逆の色も、止まった温度計も、消えた鳥居も、■に変わる文字も、白紙も、何もない。


海とプールと花火とおばあちゃん。カレーとそうめんとラーメンとかき氷。


味の描写が、戻っている。


8月24日から消え続けていた食事の味が、この一篇で全部戻っている。しょっぱい海の水。おいしいラーメン。つめたくてあまいかき氷。お母さんのカレー。おばあちゃんのそうめん。


これは——あったかもしれない夏休みの日記だ。あるべきだった夏休みの日記だ。


怪異がなかった世界の、ふつうの夏休み。


そのふつうが、最後の二行で壊れる。


「先生、昭和62年の夏休みは、まだ終わっていません」「このにっきを、だれかに読んでもらえますか」


ふつうの夏休みの作文が、呼びかけで終わる。


この篇を読み終えたとき、私は泣いていた。それだけを記録する。

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