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発見文書 No.016

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発見文書 No.016

種別:夏休み日記

担当:前田晃

日付:昭和62年8月4日


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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】


 写真を撮りに行った。


 ぼくは写真がすきです。お父さんのカメラ(ニコンFM2。マニュアルの一がんレフ。重い)を借りて、なつ休みの写真をたくさん撮ってます。フィルムは自分のおこづかいで買ってる。1本36まいどりで480円。高い。だから一まいも無駄にしたくない。


 今日は朝から河原に行きました。川の写真を撮るためです。夏の川は光がきれいで、水面がキラキラします。絞りをf8にして、シャッタースピードを1/250にして、ピントを合わせて——パシャ。


 いい音。シャッターの音がすきです。


 10枚くらい撮りました。川と空と橋と、川原の石と。1枚だけ、川の中に立ってるサギを撮りました。サギは白くて、ぴくりとも動かなかった。


 ——ここからがへんでした。


 ファインダー(カメラを覗くところ)をのぞいて、川を撮ろうとしたとき。


 ファインダーの中の景色が、肉眼で見えている景色とちがっていました。


 肉眼では、夏の川。青い空。緑の木。ふつうの景色。


 ファインダーの中では、空が赤かった。


 松本さんが日記に書いていた「名前のない色」——それに近いかもしれない。青じゃなくて、赤に近い、でも赤とも言えない色。ファインダーをのぞいたときだけ、空がその色になっていました。


 ファインダーから目をはなすと、ふつうの青空。のぞくと、赤い空。何度やっても同じでした。


 レンズにフィルターがついてるのかと思って確認したけど、なにもついていません。レンズはきれいでした。


 こわかったけど、シャッターを切りました。赤い空の写真。


 ——でも現像してみないと、写真に赤い空がうつっているかどうかはわかりません。フィルムカメラだから。その場で確認できない。


 そのあと何枚か撮りました。


 ファインダーの中で、もっとへんなものが見えました。


 川の中に、人がいました。


 肉眼では、だれもいない。サギもどこかに飛んでいってしまった。でもファインダーの中には、川の中に立っている人がいました。子どもです。白い服を着てました。背中をむけて立ってて、顔は見えませんでした。


 シャッターを切りました。


 もう1枚、もう1枚。


 ファインダーの中の子どもは動きませんでした。ずっと川の中に立って、向こう岸を見てました。


 ファインダーから目をはなしたら、やっぱりだれもいない。


 その子が——佐藤さんの日記に出てきた「白い水着の女の子」と同じ子なのかどうか、わかりません。白い服だったから似てるけど、水着かどうかは見えなかったし。


 フィルムがもったいなかったけど、あと5枚ぜんぶその子を撮りました。


 現像するまでどうなってるかわからない。


 ファインダーの中だけに見える子ども。カメラを通してだけ見えるもの。


 帰ってからお父さんに「カメラのファインダーで見た景色と肉眼の景色がちがうことってある?」って聞いたら、「パララックス(視差)のことか? 一眼レフなら起きないぞ」って言われました。一眼レフは、ファインダーで見える景色とフィルムに映る景色が同じしくみだからだそうです。


 じゃあ、あの赤い空と、あの子どもは、フィルムにも映っているかもしれない。


 現像は来週出す。


 今日のばんごはんはぎょうざでした。お父さんが焼くぎょうざは底がパリパリでおいしい。お母さんが焼くとやわらかくなる。お父さんの方がすき。お母さんにはないしょ。


 カメラをふいてからしまった。レンズにちっちゃい赤い点がついてた。ふいてもとれなかった。レンズのなかがわについてるみたい



担任教師の赤ペンコメント:

晃くん、写真の趣味、すてきですね。ニコンFM2はいいカメラです。先生は詳しくないけれど、お父さんがいいカメラを持っているのね。ファインダーの中の景色が違う、という話——先生もときどき、窓ガラスを通して見た外の景色と、直接見た景色が、少しだけ違って見えることがあります。ガラスのゆがみのせいだと思いますけれど。現像したら見せてね。


【カセットテープNo.2 8月4日】


「晃くんの日記を録音した。カメラの話になると声が変わる。(間)大人みたいな声になる。好きなことを話すとき、子供は大人になる。(紙をめくる音)ファインダーの中に見えた白い服の子ども。佐藤さんのプールの子。同じだろうか。写真に残っているなら——記録されているなら——。記録は残る。声も。文字も。写真も。残す。残さなければ。なぜ今そう思ったのかわからないけど、残さなければならないと、強く思った。素麺を食べた。つゆが甘かった。いつもより」

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