発見文書 No.014
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発見文書 No.014
種別:夏休み日記
担当:加藤雅人
日付:昭和62年8月2日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
自転車で遠くに行った。
夏休みに入ってから、毎日すこしずつ遠くまで行くことにしてる。7月21日は家から1キロの神社まで。7月25日は3キロの公園まで。7月28日は5キロの川まで。今日は10キロ先の隣町をめざした。
地図はお父さんにもらった。1万分の1の地図。折りたたむと手のひらサイズ。これをポケットに入れて出発した。朝の7時。すずしいうちに出ないと暑くなるから。
県道を走った。車はまだ少ない。トラックが1台通って、風がぶわっときた。
最初の3キロはいつもの道だから知ってる。コンビニがあって、ガソリンスタンドがあって、大きな交差点がある。ここまでは20分。
でも3キロをすぎたあたりから、道がへんだった。
地図と合わないんです。地図だと、3キロ先に右に曲がる交差点があるはずなのに、まっすぐだった。交差点がない。
地図をもう一回見た。まちがいなく交差点がある。でも道はまっすぐ。
そのまままっすぐ走った。1キロくらいで、知らない道になった。見たことない景色。田んぼしかない。
5キロくらい走ったところで、ふりかえった。来た道をもどれるか確認しようと思って。
道がなかった。
うしろを見たら、田んぼしかなかった。さっき走ってきた道がない。
パニックになりそうだったけど、がまんした。自転車をとめて、深呼吸した。お父さんが「迷ったらまず落ちつけ」って言ってたから。
地図を見た。でも地図の中の道も変わっていた。さっきまであった交差点が消えてて、知らない道がふえてた。
——いや、地図って変わらないですよね。印刷してあるんだから。でもぼくには変わっているように見えたんです。もしかしたら最初から見まちがえてただけかもしれないけど。
とにかく、引きかえすことにした。来た方向にもどればいいと思って、自転車を反転させて走った。
10分くらい走ったら、祢古沢の町に帰ってきた。行くのに30分かかったのに、帰りは10分。おかしい。
でも帰ってこれたからいい。
家についたら9時だった。出発してから2時間。10キロも行ってないのに2時間かかった。
お母さんに「隣町に行ってきた」って言ったら「早かったわね」って。2時間で往復10キロは早いか遅いかよくわかんないけど、お母さんは気にしてなかったみたいです。
昼ごはんはチャーハン。お母さんのチャーハンは卵が多くてすき。お父さんはまだ仕事から帰ってなかった。
午後、地図を見なおした。交差点はちゃんとあった。朝見たときと同じ場所に。
やっぱり、朝は見まちがいだったのかもしれない。道に迷って焦ってただけかも。
でも、一つだけ、へんなことがある。
自転車のメーターを見たら、今日走った距離が42キロになってた。
10キロ走ったはずなのに42キロ。
メーターがこわれたのかもしれない。安いメーターだし。
でも42って数字が気になる。夏休みは42日間。
関係ないか。ぐうぜんだ。たぶん
担任教師の赤ペンコメント:
雅人くん、自転車でどこまでも行くのね。安全には気をつけてね、ヘルメットはかぶっていますか。道に迷っても落ちついて帰ってこれたのはえらい。お父さんの教え、ちゃんと守っているのね。……42キロ。42日。先生も、その数字の一致に気づいてしまいました。
【カセットテープNo.2 8月2日】
「雅人くんの日記を録音した。この子はぼそぼそ話す。声が小さい。でも自転車の話になると早口になった。(間)道がなくなった話。地図が変わった話。行きは30分で帰りは10分。空間がゆがんでいる。——この町の空間が。日記を読むたびに思う。この子たちが見ているものは、それぞれちがう。音、色、数字、空間、時間。ぜんぶちがう角度から、同じことが起きている。同じ——何が?(長い間)テープがもったいない。止める。晩ごはんは牛丼。汁だくにしてもらった」




