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発見文書 No.013

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発見文書 No.013

種別:夏休み日記

担当:山口百合子

日付:昭和62年8月1日


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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】


 8月になりました。


 わたしは朝おきたらまずカレンダーを見ます。残りの日数をかぞえるためです。夏休みはあと31日あります。たくさんあると思ったけど、もう10日すぎてるから、思ったほどでもないかもしれません。


 今日はすごく暑かったです。お母さんが「今年いちばんの暑さね」って言いました。


 わたしの部屋にある温度計を見たら、34.2度でした。


 34.2度というのはすごく暑いです。ふだんは30度くらいなので、4度も高い。


 でもへんなことに気づきました。温度計の数字がかわらないんです。


 朝の8時に見たとき34.2度。お昼の12時に見ても34.2度。夕方の5時に見ても34.2度。


 ふつう、朝はすずしくて昼にあつくなって夕方にまた少しさがります。でも今日はずっと34.2度。温度計がこわれたのかもしれません。


 お父さんに「温度計こわれてない?」って聞いたら、「どれどれ」って見て、「32度だぞ。ふつうだ」って言いました。お父さんが見ると32度で、わたしが見ると34.2度。渡辺くんが「お父さんが見ると時計が合ってて、自分が見ると合ってない」って言ってたのとおなじかもしれません。


 あ、渡辺くんの話を知ってるのは、今朝公園であったからです。ラジオ体操のあとに少し話しました。渡辺くんは「数字がへんだ」って言ってました。わたしもそう思います。


 お昼ごはんはそうめんでした。そうめんにきゅうりとハムとたまごをのせて食べるのが好きです。でも今日のめんつゆが妙にあまかった。お母さんに「あまくない?」って聞いたら「いつもどおりよ」って。いつもと味がちがう気がしたけど、あんまり言うとうるさがられるのでやめました。


 午後はひまだったので庭に出ました。


 庭にある温度計(お父さんが百葉箱みたいのを作って入れてる。お父さんはこういうのが好きです)を見たら、やっぱり34.2度でした。お父さんが朝見たときは32度だったはず。


 ためしに温度計のとなりにコップの水を置いてみました。15分後に触ったら、ぬるくなってました。32度の空気だったらこんなにぬるくならないと思います。34.2度なら、なるかもしれない。


 やっぱり34.2度なんだと思います。わたしのまわりだけ。


 夕方、買い物についていきました。スーパーのなかはエアコンがきいてて涼しかった。スーパーの温度計を見たら「25度」って表示してありました。これは合ってる気がします。涼しかったから。


 でも外に出たら、また34.2度の空気になりました。体がわかります。肌にまとわりつくような暑さ。


 夜になっても34.2度でした。8時にも、9時にも、10時にも。お母さんが「今夜は涼しいわね」って言ってましたけど、わたしにはぜんぜん涼しくなかったです。


 日記を書いてるいまも暑いです。扇風機をまわしてるけど、生あたたかい風が来るだけ。


 あしたも34.2度なのかな。ずっとこの温度なのかな。


 なんで34.2度なんだろう。34度でも35度でもなくて、34.2度。この数字に意味があるのかな。


 お母さんに「体温計かして」って言ったら、「どこかぐあい悪いの?」って心配されました。「だいじょうぶ。ただ測りたいだけ」って言ったら「へんなこ」って笑われました。


 体温は36.5度でした。ふつう。


 でも温度計は34.2度



担任教師の赤ペンコメント:

百合子さん、8月に入りましたね。暑い日が続きます。水分はちゃんととってね。温度計の数字が動かない、というのは——先生の時計も、ときどき止まって見えることがあります。すぐ動きだすんだけれど。34.2度。何の数字なんでしょうね。


【カセットテープNo.2 8月1日】


「百合子ちゃんの日記を録音した。おだやかな子だ。淡々と話す。淡々としているのに、34.2度の話になると声がすこしだけ高くなった。……34.2度。何の数字だろう。何かの——いや。数字に意味をさがしてもしかたない。渡辺くんの話が出てきた。数字がおかしいと感じている子が、少なくとも二人。(間)今日は本当に暑い。職員室の温度計を見た。31度。窓の外の百葉箱を見た——見なかった。見に行こうとしてやめた。なぜやめたのかわからない。アイスコーヒーを飲んだ。氷がすぐ溶けた」

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