発見文書 No.012
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発見文書 No.012
種別:夏休み日記
担当:木村正雄
日付:昭和62年7月31日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
夏祭りに行きました。
毎年7月の終わりにある、祢古沢神社のお祭りです。お父さんとお母さんと姉のかおりと、4人で行きました。姉はゆかたを着てました。ぼくはTシャツと短パンです。ゆかたはめんどくさいから着ません。
屋台がたくさん出てました。やきそば、たこやき、わたがし、りんごあめ、かき氷、金魚すくい、ヨーヨーすくい、射的。ぼくは射的がすきです。去年はコルクのたまでドラえもんの貯金箱を落としました。
今年もまず射的をしました。3発300円。1発目ははずれた。2発目でスーパーファミコンのソフトみたいなのに当たったけど、ぜんぜんたおれなかった。3発目もはずれ。がっかり。おやじが「にいちゃんおしかったな」って言ってたけどぜったいおしくなかったです。
やきそばを食べました。ソースがこくて、キャベツがしゃきしゃきしてました。300円。お母さんが「高いわね」って言ってたけど、祭りのやきそばは高くてもおいしいです。
それから金魚すくいをしました。
水槽に金魚がいっぱいいました。赤いの、白いの、赤と白のしましまのやつ。
一匹だけ、黒い金魚がいました。
すごく大きくて、ほかの金魚より2倍くらいありました。目が金色で、じっとぼくを見てるような気がしました。
「あの黒いのをすくいたい」って屋台のおじさんに言ったら、おじさんが急にまじめな顔になって「にいちゃん、それだけはだめだ」って言いました。
「なんで?」って聞いたら、「あれはだめだ」って、もう一回言いました。
理由を聞いても教えてくれませんでした。「ほかのにしな」って言うだけで。
しかたないから赤い金魚をねらいました。2匹すくえました。袋に入れてもらって持って歩きました。
でも歩きながら、ずっと黒い金魚のことを考えてました。なんであの金魚だけだめなんだろう。毒があるのかな。でも金魚に毒なんかないし。
神社の本殿のまえを通ったとき、お賽銭をなげてお参りしました。目をつぶってお願いしてるとき、風鈴の音が聞こえました。チリンって、一回だけ。
目をあけて見まわしたけど、風鈴はどこにもありませんでした。神社の軒下にも、屋台にも、ない。
姉に「風鈴の音した?」って聞いたら「してない」って言われました。姉は友だちとしゃべるのにいそがしそうでした。
帰り道、金魚の袋を持って歩いてたら、水の中の金魚がへんな動きをしました。2匹の赤い金魚が、袋の中でぐるぐる回ってました。同じ方向に、同じ速さで。時計の針みたいに。
家について金魚をバケツに入れました。バケツの水の中で、金魚がまたぐるぐる回りはじめました。
お父さんが「金魚はストレスで回ることがある」って言ってたので、そうなのかもしれません。
寝る前にバケツを見に行きました。金魚は回るのをやめて、じっとしてました。2匹とも同じ方向を向いてました。窓の方。外の方。
外を見ました。暗い空に星がいくつか。ふつうの夏の夜です。
金魚がなにを見てるのかわかんないけど
担任教師の赤ペンコメント:
正雄くん、夏祭り、楽しかったでしょう。射的は残念でしたね。来年こそ、ね。金魚すくいで2匹もすくえたの、すごいわ。黒い金魚のこと、おじさんが「だめだ」って言った理由、先生にもわかりません。でも、おじさんの言うとおりにしたのは正しかったと思います。
《黒い金魚は、まだ屋台にいます。毎年います》
【カセットテープNo.2 7月31日】
「正雄くんの日記を録音した。落ちついた声の子だ。やきそばの話をするとき、ちょっとうれしそうだった。金魚すくいの屋台のおじさんが黒い金魚を止めた話——あのおじさんは何を知っていたんだろう。(間)今日で7月が終わる。夏休みの折り返しにはまだ遠い。蝉の声が変わった気がする。(蝉の声)いや——変わっていない。同じ蝉が、同じ声で鳴いている。ただ、聞こえ方が少し。かき氷を食べた。いちご味。舌が赤くなった」




