52.接触
家臣の登場に夫が様子が…
「父上から何も聞かされていない」
そう言いベンチに座り頭を抱える夫。私はどうしていいか分からない。夫が落ち着くまで隣で夫の再起動を待っていると、永人のクラスが移動を始める。副担…いや夫の補佐官?は永人と手を繋いで次のブースに移動していった。
意味が分からないが副担?補佐官?は生徒に囲まれていて、永人に直接害は及ばないと判断した。
それに永人は昔から危機察知に長けているから、副担が変な気を起こしたら恐らく気付くだろう。
とりあえず今は夫の方が危うい。
やっと顔を上げた夫はいきなり帰ろうと言い、私の手を引き出口に向かう。まだ半分しか周っていなくて、密かに楽しみにしていた私は気分ダダ下がり。そんな私に気付かない夫はタクシーに乗り込み、運転手に《あそこ》の本部へ向かう様に伝える。
運転手のおじさんは一見普通のカップルの行き先が公安警察本部で驚いた顔をしていた。
《あそこ》まで結構な距離があり車内では夫が難しい顔をして考え中。こうなったら夫は話しかけても反応しないから、大人しく目的地に着くまで口を閉じて座っていた。
タクシーが止まり目が飛び出しそうな料金を払い、本部の入口に着くと井鷺氏が待っていた。何があったのか明確に分かっていないが、夫のイレギュラーな行動は全て報告しなければならない。だからタクシーに乗った時点で井鷺氏にメールしてあった。
入口で待ち構えていた井鷺氏が目の前に来ると険しい顔をしている。
少し前にクラトスカへの帰国が決まり、普段難しい顔をしていた井鷺氏の表情筋が緩んだのに、また逆戻りしている。そんな井鷺氏に案内され応接室に入ると、予想通り大川氏も居てただならぬ空気に泣きそうになる。
席に着いた夫の第一声は
「何故あの者がここに居るんですか?あなた方は知っていて私に伝えなかったのですか?」
怒りを含んだ夫の声に身が縮む。普段は私の様子に敏感な夫は、私が怯えている事に気付かない。その様子を見た井鷺氏が私に別室で待つか聞いてくれる。その言葉でやっと夫が私の事に気付いた。そして抱きしめて気付けなかった事を謝る。
まだ動揺する夫が少し落ち着いた所で、井鷺氏が夫から何があったのかを聞こうとしている。どうやらこの件について井鷺氏は聞かされてないようだ。それ比べ大川氏は落ち着いている事から何か知っていそうだ。夫も同じ事を思った様で矛先を大川氏に向ける。
すると大川氏は大きく息を吸い
「おっしゃる通りクラトスカから貴方の補佐をしていた正俊(仮名)氏を滞在させて欲しいと、クラストカ国王からの依頼がありました。しかしこれは私も香里さんのからのメールで知り、上に問い合わせ初めて知りました」
大川氏もそれなりの役職なのに知らないなんて、どれだけの重大案件なんだ。そう思っていたら夫が声を荒げて
「知っていながら何故親である私達に断りもなく、息子に近づけた!公安が動かないと学校職員に職に就けるわけがない」
夫の言葉でハッとした。そうだ何故主の夫に会いに来ず、永人に接触したの?
「もしかして永人を(先に)クラトスカに連れて行く為?」
そう呟くと夫が立ち上がり大川氏の胸ぐらを掴んだ。井鷺氏が止めに入ると大川氏は手で井鷺氏を制し
「落ち着いて下さい。目的はそうではありません。今から順を追って説明しますから、とりあえず落ち着きまずは奥様を気遣いなさい」
困惑と驚きそして恐怖を感じた私は涙が溢れ止まらない。井鷺氏が手を取り夫と離れたソファーを勧めてくれた。夫は出会ってから温厚でどちらかと言えば中性的で弱い印象。そんな夫が本気を出すとギャップが半端なくてとても怖い。震えが止まらない私の横に井鷺氏が立ってくれる。
井鷺氏の心遣いに感謝しつつ、必死に心を落ち着かせ大川氏の話に耳を向ける。
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