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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン1(2019)

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74/113

第72話 エキシビション(vs難波City)②

(簡易人物メモ)

南紀ウメスタ選手一同

栗田靖: 南紀ウメスタSC 監督

下村健志: 南紀ウメスタSC 選手兼コーチ

小野沢和浩: 難波CityFC 所属GK

岩井旋律: 難波CityFC 所属FW

佐山ウーゴ: 難波CityFC 所属FW


ーーーーーーーーーー

 2020年3月、難波CityFCとのトレーニングマッチは、彼のクラブが擁する強力な攻撃陣を相手に守り切った南紀ウメスタSCが前半を0-0で折り返した。


 栗田の指示通り、大西と江崎の二人がかりでサイドアタッカーである#10岩井旋律いわいせんりを封じ込めることに成功し、中央に陣取るストライカー佐山さやまウーゴにも単独でゴールを割らせなかったのは、南紀ウメスタ守備陣の奮闘の結果である。


 一方で攻撃については、アディソンのドリブル突破は脅威となり、西野による決定的なシーンも作ることができたが、難波Cityの守護神#01小野沢を突破できてはいなかった。


 後半に入るにあたって、南紀ウメスタは、前半チームと連携の取れていない手塚を変えて#08三瀬を投入。これにより、昨シーズン好調を維持した3トップが揃う形となり、かつ元々MFでもある三瀬はボールのポゼッションにも寄与する形となった。


 しかしそれがある意味、裏目に出てしまう。守りに入った難波Cityはよりシンプルなカウンター主体の攻撃となったことで、個の力の影響力が強まった。大西が岩井を捕まえきれなくなり、突破を許す場面が増えると、後半15分。


 左サイドを突破した岩井がシンプルなクロスを上げると、待ち構えていた佐山が頭で押し込み、難波Cityが先制に成功する。坪倉もマンマークにはしっかりついており、ヘディングシュートのコースは厳しいところではなかったが、GK礒部の手をすり抜けてしまった。


 それを受けて後半25分、南紀ウメスタは疲れの見えている大西を下げて大橋を投入。長身の大橋を中央に置いて、榎本を右センターバックへ配置し直した。こういう時に攻撃的な交代カードを切れれば展開を変えられるのだが、選手層の薄さが惜しまれる。



「良い練習試合だなあ」



 栗田の呟きに、負傷中のため試合に欠場している下村がピッチから目を離した。



「どこがですか、負けてますよ」


「わあってるよ。負けている理由だよ」


「選手交代が裏目に出て、前半持ち堪えていた守備が突破されたってことでしょう」


「…お前、コーチだろ。誰のせいで負けてると思ってる?」



 誰のせい? 下村は考え込んだ。先制点は直接的に見ればGKが止めるべきシュートであったような気もする。しかしゴールを割らせなかったとしても、決定的な場面であったことに違いはない。であれば、そもそも相手から見た左サイドを突破されたことが理由だろうか。



「…負けてる原因はな、平と小久保だよ」


「え?」



 栗田の言葉に下村が驚いた。守備陣ではなくて攻撃陣の問題であると栗田は指摘したのだ。それを抜きにしても、平と小久保はチームの中で最もパフォーマンスに安定感のある二人である。どこかに問題があるようには思えなかった。



「下村、相手チームのキーマンは誰だと思ってる?」


「…佐山ウーゴですかね」



 チャンスメイカーとして岩井は脅威であるが、失点に直結する脅威と考えれば佐山のほうが厄介だ。坪倉の守備は悪くない、それでも結果としてゴールを奪われているため外側からの対応が難しい。


 しかし栗田はその意見を真っ向から否定した。



「ちげえよ。難波CityFCで最も厄介なのは、GKの小野沢だ」


「小野沢?」


「岩井や佐山にやられるのは負けに繋がらねえよ。それ以上に点を決めればいいんだからな。…問題は前半の西野のシュートがあいつに止められたことだ。あれが入ってれば、ほぼ想定通りだった」



 いくら守備をしても得点を奪えなければ勝てない。まず対処すべきは小野沢であると栗田は言った。



「言ってることはわかりますが、なぜそれで平と小久保が? 平はしっかり相手選手をケアしながらボールを前線に配給してますし、小久保だって持ち味を生かして前線で潰れ役になってるじゃないですか」


「ーーーだから、それが負けてる原因だって言ってんだよ」



 意味がわからないと言葉を待つ下村に対して栗田はため息をついた。



「このチームはな、みんな自分で自分のプレイを型にはめすぎなんだよ。ボランチは守ってパスを展開するもので、背の高いFWは相手のマークを引き付けて周りの味方を生かすもの? そんなの誰が決めたんだよ、俺は指示してねえぞ」



 昨シーズンは、それこそパズルのピースみたいに自身の役割でプレイに線を引いても、勝ちに繋がっていた。


 なぜなら「得点を決める役割」である真田宏太さなだこうたというエースがいたからである。


 最後には真田がゴールを決めるから、そこまでレールを割けばいい。真田がいなかった時も相手チームの質によって、なんとなくゴールに近い選手が点を決められていた。


 しかしここからは違う。相手選手のクオリティが上がり、こいつのプレイは危険だ危険でないと瞬時に判断されてしまうレベルに近づいている。特に難波CityFCともなれば、関西リーグに片足を突っ込むクラスの強豪である。


 ではプレイの危険性はどこで決まるのか。



「こいつがボールを持ったらゴールを決められちまうと思われるかどうかだよ。平と小久保はな、その怖さが一番ない。逆にあいつらが自分で点を決めようと思ったらどういうプレイになると思う?」


「平は…ポジションをもっと前にする、もしくはドリブルで自らボールを持って行く。小久保は…相手の裏をとるような動きが増える」


「そういうことだ。そうすりゃあ…三瀬は低い位置でボール運びなんてしなくて済むからゴールに近い場所でプレイできる。小久保が点を取りに行けば行くほど、三瀬のマークは手薄になるから貧弱なフィジカルでもゴールに迫れる。ーーーそれが途中投入の三瀬を使ってゴールに近づける方法だよ。間違ってもボールポゼッションを高めるなんて話じゃないんだ」



 下村は言葉を失った。栗田の言うことは筋が通っているように思えた。しかしすぐに我に返るとベンチから立ち上がった。



「ならそう伝えればいいじゃないですか! 何をクイズみたいなことをやってるんです」


「あのなあ…こりゃプレイの質とか選択肢とかの話じゃないんだ。言うなればサッカー選手としてのマインドの話だよ。そんなのは初めから持ってないとおかしいんだ。勝つためにはまず自分でゴールを奪う。それが難しいとなった時に初めて他の選択肢が生まれんだよ」


「それはそうかもしれませんが」


「できてる選手だっているじゃねえか。アディソンと西野は多分そういう気持ちでやってるぜ。あと三瀬もそうだ。あいつ、多分今頃舌打ちしながらボール運んでるぜ」



 他人事のようにケラケラと栗田が笑う。アディソンと西野はピッチに出る資格はある。しかしながらその技術レベルは単独で難波CityのDF陣を突破できるほど成熟していないということだ。



「その点、三瀬はこういう相手には向いてる。空気を読まないで無駄なフェイントだのテクニックだのを披露して意表をつくほうが、小野沢みたいなフィジカルで守ってくるGKには有効だろうさ。そこを他の選手たちが理解しねえとな」



 こればかりはもう口先でどうのこうのして、その場だけプレイが改善しても意味がない。今日は練習試合なのだ。


 自分の望むプレイができない三瀬がイライラしたような仕草で無理やりミドルシュートを打ち込むと、それを難なくキャッチした相手GKの小野沢が特大のパントキック一発で、ウメスタ陣営のバイタルエリアにボールを落とした。


 ボールを追いかける坪倉が佐山に突き飛ばされたが、レフェリーの笛は吹かれない。


 1対1となった佐山が、飛び出した礒部に真っ向勝負を挑んで思いきり右足を振り抜くと、強烈なシュートがゴールの左上に突き刺さった。



「お」



 俯く選手もいる中で、最終ラインの榎本が手を叩きながら大声を出している姿がベンチからも見えた。



「えのもとお、ありゃ良い選手だなあ、しっかりお前の穴を埋めてるじゃねえか」



 一方前線では、途中交代で体力の有り余っている三瀬が、平やアディソンになにやら喚き散らしていた。先程栗田が指摘したことを理解しているとは思えなかったが、おそらく本能的には近いものを感じているのだろう。



「まぁ、諦めてる選手がいねえのは救いだな。今日は観客いねえけど、前より顔つきはずっといい」


「とは言っても2点差はまずいですよ。なんとかしないと」


「昔の自分たちに負けてるみたいで気持ち悪いか?」



 栗田の言葉に下村が首を傾げた。



「難波Cityは見てる限り、本来1-0を得意とするチームだ。過去のデータはあまりに相手が弱すぎてそういう結果になってないだけでな」



 鉄壁を誇るキャプテン小野沢を中心に全員で守って、カウンターから岩井が敵陣を切り裂き、佐山がゴールを奪う。組織で守り個の力で点を取る。昔のイタリアのようなチームだと栗田は評した。



「シンプルだが、大崩れせずに勝ち点を積み上げられる。佐山の個の力が通用する限り、なかなか厄介な相手だよ。坪倉もよくやってるが、やっぱフィジカルに差があるから確実に無失点で抑えにいくっていうのはむずそうだな」



 関西府県CLで再度相見えることを想定しながら栗田は眼鏡の位置をずらした。


 後半アディショナルタイムまで南紀ウメスタは相手のゴールに迫り続けたが、最後まで難波Cityのゴールを割ることは叶わず。



「しゃあねえ、明日からの練習で修正しようや。いい薬にはなっただろ」



 栗田は軽く背伸びをしてから立ち上がった。


 頼りになるのかならないのかわからない指揮官の背中を下村はとりあえず追いかけようとして、足の痛みで改めて座り直す。


 0-2で南紀ウメスタSCは、難波CityFCに敗れた。






つづく。

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