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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン1(2019)

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第71話 エキシビション(vs難波City)①

(簡易人物メモ)

南紀ウメスタ選手一同

栗田靖: 南紀ウメスタSC 監督

小野沢和浩(初): 難波CityFC 所属GK

岩井旋律(初): 難波CityFC 所属MF

佐山ウーゴ(初): 難波CityFC 所属FW


ーーーーーーーーーー

 2020年3月。大阪府リーグの強豪、難波CityFCとのトレーニングマッチ会場であるJGRASS堺の更衣室にて、南紀ウメスタSCの一同を前に、監督の栗田が口を開いた。



「本来トレーニングマッチは相手に合わせた対策なんてのはやるべきじゃあないが、関西府県CLで実際に戦う可能性のあるチームだ。念の為、注意しとくべきヤツは伝えておく」



 まずはチームのキャプテンであるGKの小野沢和浩《おのざわかずひろ》。攻撃的なゴールキーパーで、個人の身体能力で止めにくる。実際に感じてもらうしかないとは思うが、FW陣は工夫が必要だ。また攻撃の起点にもなる特大のパントキックも要注意。


 次にチームの攻撃の中心を担うのが左ウィングの岩井旋律《いわいせんり》。突破力が売りサイドアタッカーだが、状況に応じてクロスも使い分けてくる。


 そしてセンターフォワードの佐山《さやま》ウーゴ。日系ブラジル人。屈強なフィジカルを武器に、頭でも足でもゴールをあげられる、いわゆるボックスストライカーというやつだ。



「この岩井と佐山の二人からチーム得点の7割が生まれる。この二人を抑えられれば…まぁ、それで勝てるわけじゃないが、いつもの相手とは違うと思わせることくらいはできるかもなぁ」



 しかしこれまでの対戦相手もそんなことは分かっているわけで、分かった上で止められないから二人でゴールを量産できているということに違いない。



「指示は事前に伝えてるが、まぁとりあえず俺の言う通りにやっとけや。その通りにならなかったら、そこからは好きにやっていいぞ」



 栗田の言葉に選手それぞれが頷いた。どうもこれは栗田の決まり文句らしい。



「俺はわかりやすくて好きっすね」



 佐山ウーゴのマンマークを命じられた坪倉が腕を伸ばしながら気合を入れ直した。



「ちなみに負けたら死ぬほど嫌味を言われるのでご注意を」


「容易に想像がつくなあ」



 高校時代の教え子であるMF若村の一言に、本日のゲームキャプテンを任された司令塔の平が苦笑した。実際に初日死ぬほど言われてただ縮こまっている選手が一番部屋の隅っこでいじけている。



「よし、あくまでトレーニングマッチ。本番の戦術とは違う分ハンデもある。でもそれは相手も同じかもしれない。言い訳無用だぜ、勝つぞ!」


『うぉーし!!』



 キャプテン平の檄に選手たちが呼応した。まもなくキックオフ。





**********



 前半は難波Cityボールから開始された。いつも通り岩井旋律は、すぐに後ろへボールを預けると、自らの主戦場である左サイドへ小走りで向かっていく。


 南紀ウメスタのシステムはぱっと見3-5-2。しかしボランチの片方を下げて、両WBは気持ち中に絞って立っているようにも感じる。3トップの内のヒョロいヤツは浅めの配置。



「事前の話とちゃうな…」



 両サイドを最終ラインに吸収して、5バックで守ってくるだろうと想定していたが、実際には変則の4-1-3-2だ。


 ウメスタは今年監督が変わったらしいのでその影響なのか、または練習試合なのでいつもと違うことをやろうとしているのか。


 いずれにしても守備人数を減らしてなんとかできると思っているなら、それは勘違いだと岩井は自陣の選手達に伝わるように手を挙げた。


 小野沢からピンポイントのロングボールが岩井のもとへ供給されようとした時、突然懐に潜り込んできた相手DFに倒された。レフェリーの笛が鳴る。



「すんません」


「おう、気にしてないよ」



 差し出された手を取って立ち上がると、ファウルを取られた背番号6が、一声かけてから速やかに最終ラインへ戻っていく。



「対策されてるな」


「ああ、今ので俺も分かったわ」


「それにマンマークじゃないか?」


「そうやと思う」



 セットプレイのボールを取りに来たチームメイトと短く言葉を交わして、岩井は離れた。


 いきなりGKからのロングボールで意表をついたつもりだったが、ファウルになったとはいえ相手の動きは予め想定されていたように迷いがなかった。


 それにうちの3トップに対してマンマークで守りにくるのも予想外だった。昨今のトレンドを意識しているのか分からないが、守備ブロックを形成してくる相手をどう崩すかという気持ちで攻撃のプランを考えていた岩井としては、アテが外れた形だ。



「…おもろいやん」



 予定と違う展開になったほうがおもしろい。難波Cityの10番はすぐに気持ちを切り替えて、先程挨拶代わりにかましてくれた#06大西と対峙する。


 味方の選択したプランは岩井ではなく、直接GKとウーゴの間を狙ったパスであったが、ここは相手GKが直接キャッチして、攻守が切り替わった。



「マンマーク慣れてるんか?」


「?」



 ボールが自分のエリアから離れるのを確認すると、やや気を抜いたように周囲に目を向け、同じく戦闘態勢を解いた大西に声をかける。



「あんたボランチの選手やろ。なんでセンターバックやってるん?」


「…DF足りないんだよ」


「おお、舐められたもんやな」


「今日の試合完封してDFに転向する気持ちでやってるよ」


「はは、そういうタイプか」



 南紀ウメスタボールに切り替わると、難波Cityは思いきった前線からのプレスによって、攻撃の起点となる#04平に前を向かせない。


 無理をするつもりがないのか、平はあっさりボールを下げると、DFラインからグラウンダーのパスが#07アディソンに渡った。



「おお」



 アディソンはボールを転がしながら緩急をつけたドリブルで中央にカットイン。対峙していた選手はついていけず、バイタルエリアまで侵入されたものの、そこから先のパスの出しどころがなかったのか、やや助走をつけて蹴り込んだシュートは小野沢が難なくキャッチした。


 その後、岩井はやや強引に下がってボールを受け取ると、味方とのパス交換からスペースを作り大西のマークを外すことに成功すれば、相手DFを背負って後ろを向いている佐山ウーゴにパスを出した。


 すぐにリターンパスを受けようと岩井はペナルティエリアに走り込もうとしたが、ウーゴは腕で相手DFである#02坪倉を押さえつけながら、反転して強引にシュート態勢に持って行く。


 おそらくオープニングシュートを相手に譲ったことを気にして、お返しする意味で強引にシュートで終わらせようとしているのだと思われるが、そんな流れとはまったく関係ない状況でも点を決めてしまうのが佐山ウーゴというストライカーだ。


 右足の強烈なシュートが南紀ウメスタのゴールに襲いかかるも、ボールは僅かにポストの上を抜けていった。


 ウーゴが岩井に向かって頭上で両手を叩く。今のプレイを繰り返せば決められるという自信の表れだ。


 一方、岩井としても大西の対処方法は見えてきた。抜かれないことを第一に考えすぎているのか、1対1でのプレッシャーは緩い。強引に突破できる自信はあるが、難波Cityとしてもこれはトレーニングマッチ。今のシチュエーションを考えれば、1対1で抜けない相手に対してどう攻めるかという方向でチームプレイを目指した方が有意義であろう。


 それを実践するかのように、再びボールを持った岩井は緩やかにボールを動かしながら、味方の上がりを待つ選択肢を取った。



「せんり!」



 チームメイトから名前を呼ばれて、咄嗟に足元へ意識を向けた時、ボールは足から離れていた。


 大西ではない。岩井の背後から近づいた#17江崎がボール奪取に成功すると、一気に南紀ウメスタの前線が動き出した。ボールを押し込まれ切っていない中でのトランジション(攻守の切替わり)、ショートカウンターだ。



「くっそ、そういうことかい!」



 嵌められたことに気がついた岩井は、ポジションを無視してボールを追いかける。


 マンマークだと決めつけたのが間違いだった。初めから相手は二人がかりでボールを奪うつもりで、#06大西が岩井に対して距離をとって守っていた理由は、こちらを遅攻に誘導し、二人目がボールを奪うまでの時間を確保するためだ。


 江崎からパスを受けた#11西野が右サイド深くまで侵入すると、ペナルティエリア内に陣取っていた#09小久保にボールを預ける。



「リターン!」



 岩井の予告通り、小久保は一瞬のタメを作ってから走り込んできた西野へボールを戻すと、そのままダイレクトで振り抜いたシュートは、横っ跳び一発、小野沢がゴールラインへボールを弾き出した。



「キャップ、ないす!」


「いやおまえやんけ!」



 岩井が無邪気にGK小野沢のファインプレイを讃えると、味方から次々とツッコミを浴びる。まさに決定的な場面であった。



「わーってる! 次はやらんよ!」



 散れ散れとチームメイトを元のポジションに戻すと、岩井は大きく息を吐いた。


 とても美しいカウンター攻撃であった。


 あんなの決められたらこの試合のハイライト間違いなし。完全に赤っ恥だ。



「ウーゴ!」



 その声に反応した背番号9は軽く手を挙げて、岩井の意図を察した。


 過ぎたことは仕方ない。ミスりましたごめんなさいだ。とりあえず先制点取ることだけ考えよう。その後は攻めも守りもシンプルにする。



「それにしたってなあ…」



 南紀ウメスタSC、良いチームやないかと岩井は心の中で拍手を送った。






つづく。

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