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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン1(2019)

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第49話 ウメスタ戦略会議③

糸瀬貴矢: 黒船SC 代表

真弓一平: 黒船SC 管理部長

下村健志: 南紀ウメスタSC 選手兼監督

濱崎安郎: ASKグラーツ コーチ

木田: 南紀ウメスタSC データ収集班


ーーーーーーーーーー

 ここまで、オーストリア1部のASKグラーツとの協業を前提としたビジネスモデルを語ってきた糸瀬であったが、そもそも今の南紀ウメスタSCにJリーグで活躍できる人材はいない。ということは、当然ながらASKグラーツで受け入れるレベルの選手もいないということである。



「そこで次のプランね。儲かるクラブにするっていう最初の話に戻るんだけど、強さ以外にどんな儲かる要素があると思う? 真弓さん」



 指名された真弓が暫し考える。強さだけが儲かる儲からないの基準であれば、優勝を狙えるレベルのクラブ以外はすべて大赤字で経営危機ということになってしまう。しかし現実はそうではない。



「…あるんじゃないでしょうか。例えば、J1だと新潟はリーグでは中位から下位をいったりきたりしていますが、クラブ収益は安定して黒字であることは有名です。地域密着が成功してるから、観客動員数が確保できていて、地元企業の支援が手厚いから、ですよね」


「そう。要は『人気』のあるクラブは、強くなくても儲かってる。多くのサポーターがいて、それで地域が盛り上がっていれば、手を差し伸べる企業もどんどん出てくるという循環だよね」



 地元に支えられて存在するクラブチーム。これがJリーグの基本思想であり、あるべき姿だと言う人も多い。だからこそまだJリーグのチームが誕生していない和歌山県で、糸瀬らがクラブを立ち上げたわけであるが。



「人気を得る方法は地域密着以外にもあるよね。例えば、ヨーロッパのチームが日本の選手を獲得する時に金目当てだとか報道されるの見たことない?」


「あるある。ユニフォームの売上目当てでしょ、みたいなことっすよね?」



 海外サッカーファンの集まる掲示板の翻訳などを通して、木田も目にしたことがあった。


 ジャパンマネーと言われることもあるが、これは日本に限った話ではなく、ヨーロッパのクラブがサッカー発展途上国の選手を獲得する際によく揶揄されるネタである。



「でも選手の能力に関係なく、そのチームに所属してるだけで売上になるなら、これも糸瀬さんの言う再現性ですよね?」


「その通り。ビジネスの戦略として、ジャパンマネーを狙いに行くのは十分に合理的だよね」



 そしてこれを反対の立場でやろうって話だよ、と糸瀬は付け足した。



「Jリーグは世界基準で見たらブランド価値はないけどさ、日本代表はアジアでトップクラスのチームに成長した。だから日本のサッカーリーグは、アジアレベルで見たらブランド価値がある。憧れの舞台と思っている国はあるってことじゃないか?」


「それは、そうだと思います。アジアレベルではそのほとんどが日本と比べればサッカー後進国です」


「ーーー結論から言うと、タイでウメスタのブランドを築こうと思う」


「タイ?」



 まずアジアの中で注目したのは経済成長著しい東南アジアであった。その中でも最も自国サッカーリーグのランキングが高いのが、タイのプレミアリーグである。


 タイ自体はFIFAランキング100位程度と、決してそのパフォーマンスが目立っているわけではないが、年間1,000万人を超える観客動員数があり、かつ経済成長を主導するタイの財閥がヨーロッパのメガクラブを買収するなど、サッカーへの関心が極めて高い。


 そして何よりも。



「うちはもうすでにタイの財閥と接点がある」


「…ーーーあ、ホテルですね!」



 真弓の言葉に糸瀬が頷いた。現在黒船サッカーパークで建設中のホテルは、元々白浜のホテルがタイの投資家グループに買収されたことがきっかけであった。その買収した投資家ウォンキットグループはタイ財閥の一角であり、そして。



「彼らはタイリーグ2部『ラーチャブリーSC』っていうクラブを持ってるんだよ。だいたい各財閥はサッカークラブを持ってるものらしいね」


「…あ、そうか! そのラーチャブリーSCの選手をウメスタが獲得すれば…」



 ジャパンマネーならぬタイマネーの獲得ができるかもしれない。糸瀬は



「実はこのタイマネーはJリーグで札幌FCがパイオニアなんだ。彼らはタイの国家代表選手を獲得して、観光ツアーみたいなことにも活用してる。俺たちは二番煎じになるけど、それでもまだ十分に開拓余地は残ってると思う」


「確かに可能性はありますよね。ラーチャブリーの選手がJリーグで活躍できるかはわからないですが、プロの手前から一緒にやっていけるなら、チームにフィットする時間も作れるし、選手の見極めもできる。今のウメスタがアマチュアだからこそ優位に働くかも」


「そう。和歌山県とタイの2拠点をベースとした複合型の地域密着クラブ。これが俺の考える第二のプランだ」



 そして、このタイとのシナジーは移籍金ビジネスとしても価値があると糸瀬は補足した。



「それにタイリーグを馬鹿にしたものではないよ。2部だってれっきとしたプロリーグだし、今のウメスタからすれば格上だ。だからウメスタ側からラーチャブリーSCに選手を送り込めば、Jリーグ入り前のタイミングで市場価値をつけることもできる。そして、若手だけじゃない。Jリーグで活躍できなくなったベテラン選手を高額でタイに売却することだってできると思ってる」



 日本のベテラン選手が東南アジアのリーグに所属することも近年では増えてきている。そういった選手は日本人というブランド価値だけで移籍しており、直接現地のチームやサポーターとの接点はないことが多いが、現地にウメスタブランドが定着している場合は、仮にその選手が日本代表に縁がなくとも、憧れの選手として迎え入れられる可能性も秘めた話であった。


 時系列に並べると以下の通りである。


 まずはラーチャブリーに選手を送り込んで活躍させることでウメスタのブランド価値を創造する。


 次にラーチャブリーの選手がウメスタで活躍することで、タイからの売上を狙う。


 最後にウメスタのブランド価値を利用して、ベテラン選手を高額でラーチャブリーに売却する。


 このタイの動きと並行して、ウメスタの若手有望株をグラーツに売却し、グラーツでの活躍を通じて高めた市場価値を現金化することで、クラブの収益とする。


 これらすべての収益源がクラブに乗っかれば。



「日本で一番儲かるクラブが作れるっていう計算なんだけど…どうかな」



 ようやく糸瀬のビジネスプランの全容を伝え敢えて、コンテナハウスに静寂が訪れた。


 やがて濱崎が立ち上がって大きく手を叩く。



「素晴らしいプランです。今すぐその一員になれないのが悔やまれるほどです」



 真弓も木田も、そして下村も心の中では同じ気持ちだった。もちろん今糸瀬が語ったことは夢物語に過ぎないかもしれないが、仮にそれが実現すれば、日本のクラブサッカーの歴史において唯一無二なモデルになることは間違い無いだろう。


 川上ヨーロッパと川下(東南アジア)を押さえ、選手を流動的に動かしながら、複数の国とリーグを跨いでグループ全体の収益を取りに行くという糸瀬の戦略は、形式だけのクラブ間の提携などとは明らかに一線を画すものであった。


 ここからはみんなの力を借りたい、と糸瀬は頭を下げた。



「ウォンキットグループがこの事業計画に乗っかってもらわないと話が進まない」



 そのための鍵となるのが、まさに会議の冒頭で名前の上がった「真田宏太」という現リーグにおけるゲームチェンジャーの存在であった。



「真田をラーチャブリーSCに移籍させるつもりですか?」


「イエス。それができるかどうか、できたとして彼が活躍できるかどうか。そこはサッカー素人の俺にはわからない。それに本人が移籍を望むかどうかもわからない。…でもそれら全部まとめて、みんなで成し遂げて欲しい。俺はプランを描くけど、やるのはみんなだ」



 木田が立ち上がった。



「ラーチャブリーSCとタイ2部リーグのデータを徹底的に集めます。真田くんの活躍を裏付けられるかどうか、やってみます」



 真弓も立ち上がった。



「プロ契約するということだと思いますので、タイでのサッカー環境や年俸相場などの情報は私の方でまとめます」



 下村も立ち上がった。



「真田の説得は俺にやらせてください。それと現地で彼をサポートできる人や組織があるかどうか、Jリーグの伝で探してみます」



 濱崎はすでに立ち上がっていたので、そのまま口を開いた。



「さすがに僕もタイ語はちんぷんかんぷんですが、英語は叩き込みますよ。英語が話せれば、一定のコミュニケーションはできるはずですから」



 糸瀬はそれぞれの顔を確認してから、頷いた。



「ありがとう。今日の戦略会議はこれで終わります。改めてみんな、よろしくお願いします」






つづく。

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