49 クレアの情報 【side アルタイル】
オレは、ヴィクトル王太子殿下とキアナ王女殿下がウィンザルト国で行われたカール第一王子殿下の結婚披露宴から帰国したと報告を受けると、すぐさまヴィクトル王太子殿下の執務室に向かった。
執務室に向かう廊下の重厚な絨毯をゆっくりと一歩ずつ踏み締めながら、両窓から見える景色のうち、北の空だけに視線を流す。
(あの空の先にいるはずの、クレアのその後の手がかりはあったのだろうか)
今回の目的は、結婚式で祝いの言葉を述べに行くのではない。ウィンザルト国でのクレアの様子を調べてもらうという意味の方が大きかった。
ウィンザルト国とは友好国というわけではない。お互いが時々、留学生を送り合ったり、国の状況を確認するために人の往来は多少あり、表面上は軍事力や国の豊かさを確認して相手が脅威国になっていないか確認するだけの関係だった。だから、ウィンザルト国に行ってしまったクレアの情報は全く入ってこなかった。
王城の中に閉じ込められているだろうとは、推察できたが彼女が生きているのか死んでいるのかそれすらわからない状態だ。
だから、堂々とウィンザルト国に訪問できるというこの機会を逃すわけには行かなかった。
入念にチェックして、精霊がいるとしたらどの場所にいるのかレクナ王国にいる時から情報を何年もかけて集め、準備をしてきていたのだ。
オレと同じ志なのは、ヴィクトル王太子殿下もキアナ王女殿下も同じだったし、ベルガモット公爵家に恩を感じているせいか、国王陛下も黙認してくれている。
オレは、ヴィクトル王太子殿下の執務室の扉を開けると、すでにキアナ王女殿下もソファに座って報告書を手にしている。
彼らのやる気もオレにとって支えになっている。
身近にいる味方であり、クレアに命を助けてもらった仲間でもあり、とても有難い存在だった。
「さぁ、早速、報告を行おう。アルタイル、そこに座ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
オレは、一礼するとヴィクトル王太子殿下が指し示したソファに腰を下ろす。
残念ながら、クレアを見つけることはできなかった……そう報告を受けると思っていた。
なぜなら、目の前の二人は眉間に皺を寄せていたからだ。
「アルタイル、朗報だ。クレアに会えたぞ!!」
ヴィクトル王太子殿下が真剣な顔をして眉間に皺を寄せていたのは、どうやらオレを驚かせるための演技だったらしい。
オレがクレアが生きていたことがわかり、安堵して息を吐き出してから破顔すると、王太子殿下は立ち上がって「良かったな」と肩を優しく叩いて一緒に喜びを分かち合おうとしてくれる。
キアナ王女殿下も上機嫌で、ウィンザルト国で見て来たこと、仕入れた情報を報告し始める。
「クレアはね、例の衣装をまだ身に着けていたわよ。可哀そうに、精霊だからといってやって来たままの衣装でずっと何年も過ごしているのね。でも、あなたにとっては、嬉しい情報よね。ほぼ毎日のようにクレアとお揃いの衣装を身に着けていたということになるんだもの!!」
オレの心臓は跳ね上がった。
クレアがウィンザルト国に入城した時のドレスを今もずっと着てくれていたなんて。
隣にはいてあげられないけれど、これからも毎日、仕事以外は彼女とお揃いの深緑色の縁取りされた衣装を着続けようと心に決める。
「なぁ、アルタイル。お前がいつも同じ服を着ているから、あのデザインの衣装に名前が付いているのは知っているのか?」
「あぁ、もちろん知っていますよ。『クレアデザイン』でしょう?」
オレが何着も何年も仕立て屋で注文しているせいか、注文する時に『クレアと同じデザインで!』と説明していたせいか、いつの間にかあのデザインの衣装は『クレアデザイン』と呼ばれるようになった。
さすがにオレと同じ色を仕立てる人はいないけれど、色味を変えて注文する人が時々いるらしい。
どうやら、『クレアデザイン』を着ている人は、『一途に想い続けています』という意思を表しているらしく、意中の人と出かける時に着用すると恋が成就する確率が上がるらしい。
そんなジンクスがあるならば、オレのクレアへの想いもいつか叶うのだろうか。
「私ね、アルタイルの絵姿もクレアに見せたわよ、きちんとね!!」
キアナ王女殿下はオレからのお願いごとを引き受けてくれて、きちんと伝えてきてくれたらしい。オレは、もしクレアを見つけることができて、会話する機会があるなら、オレの近況を伝えて欲しいと依頼しておいたのだ。
いつか再会する時に、アルタイルだと認識してもらえないと辛いから、今のオレの絵姿を画家に描いてもらい、それをクレアに見せる機会があったら見せて欲しいとお願いしておいたのだ。
「騎士団の副団長をやっていることも、このデザインの衣装を今でも着ていると伝えてきたわよ!」
「ありがとうございます!!」
オレは、二人に感謝を伝える。でも本題はこれからだ。
「クレアは元気でしたか? 虐待などされていませんでしたか?」
オレの質問に対して、ヴィクトル王太子殿下もキアナ王女殿下も急に視線をそらし口を閉ざす。
やはり、入城した時と同じで雑な扱いを受けているのだと瞬時に悟ってしまった。




