48 追加情報
ヴィクトル王太子殿下とキアナ王女殿下と再会を果たし、彼らは軽食や飲み物のある部屋に移動してからしばらくすると、手にグラスを持って、見る人によっては気味が悪いと受け取られそうなガラス瓶の飾ってある控えの間に戻ってくる。
「お兄様、足が痛いのであそこで少し休んでも構いませんか?」
「あぁ、もちろんだ。まだパーティーは始まらないからゆっくり休もう」
二人はそんな会話をしながら、私のガラス瓶の近くの椅子に腰を下ろす。
(いろんな国の要人と会話しなくて大丈夫なのかしら?)
レクナ王国でキアナ王女殿下の淑女教育を傍で聴いていたから、少しは理解しているつもりだ。
各国の王族、貴族が集まる場は最高の情報交換の場であり、政治が動く場であるから一秒たりとも気を抜いてはいけませんと家庭教師がおっしゃっていたはずだ。
それなのに、レクナ王国の王太子殿下も王女殿下も堂々と椅子に座って休憩を始める。
私は、二人の様子を見ていると、キアナ王女殿下はドレスの帯リボンの中から小さな紙切れを取り出した。
どうやら、考えがあって予め仕込んでおいたらしい。そんなお茶目な彼女の性格は小さい頃からあまり変わっていないようだ。
(うふふふ。あの紙は何かしら? キアナ王女殿下の台詞が書いてあるのかしら? それとも各国の王族の特徴とかメモを忘れないように持ち歩いているのかしら?)
私は、二人の様子をガラス瓶の中から静かに見守っていた。
すると、突然。
バッ
キアナ王女殿下が私に向かって、一枚の絵を手に持って何が記されているのか見せてくれる。
警備員や他の招待客からは座っているヴィクトル王太子殿下の身体の死角になるので、見えていないはずだ。
そこに描かれているのは、剣を帯刀し今、私が来ているレクナ王国から持ってきた衣装のお揃いの服を着たアルタイルの絵姿だった。ずいぶんと背が高くなり身体も鍛え上げられているように描かれている。
(わぁ!!)
キアナ王女殿下が再び口をパクパクと動かして、唇を動かし始める。
『これ! 今のアルタイルの絵よ! 騎士服以外はいつもこの衣装しか着ないのよ!! もう何年もね!! しかも今では自分のことをオレは……って言っているのよ!!』
面白い冗談だ。私とお揃いで作った衣装は十二歳のアルタイルの体格に合わせて仕立てたのだから、今のアルタイルが着られるわけがない。私は、キアナ王女殿下が私が笑顔になるようについた冗談だと思って、笑い返す。
『うふふふ。さすがに何年も同じ衣装だなんてありえないわ! でも、今の私とお揃いの衣装ね。嬉しいわ! それと……アルタイルがとてもカッコよくなっていて、びっくりしちゃったわ!! ぼくからオレに言い換えたのね。とっても似合いそう!!』
絵姿を見るだけで、ご令嬢がきゃあきゃあと騒いでしまうくらい素敵な男性がそこに描かれている。
いつの間にか少年だったアルタイルは、声変わりもして、体格ももっと男性らしくなっているはずだ。
自分の呼び方を「ぼく」から「オレ」に変えているのも、今の絵姿に当てはめるとよく似合っていると思う。
(オレは……って話す姿も見て見たかったな。それに、アルタイルも……そろそろどこかのご令嬢と一緒になる年齢よね……)
私は、彼の立派になった姿が嬉しくもあり、知らない男性になってしまったかのようで少し寂しさも感じる。
キアナ王女殿下は、私が少し物悲しそうな顔をしたのを見逃さなかったのだろう。私が安心できる言葉を再びかけてくれる。
『アルタイルに婚約者はまだいないわよ! ついでに兄も私もね!!』
明るいキアナ王女殿下の性格にとても救われる。どうやらレクナ王国の王族や貴族はゆっくり婚約者を探すのだろう。
『じゃあ、今日、見つけてきた方がいいんじゃない?』
私は、軽食が置かれている隣の部屋を指差すけれど、二人とも私の前の席でゆっくり寛ぎながら飲み物を飲み終えるまではそこに座り続けた。
「では、会場にご案内致します」
案内係が招待客に向かって移動を促し始める。
ヴィクトル王太子殿下とキアナ王女殿下もスッと立ち上がる。
そろそろお別れの時間が来たようだ。
キアナ王女殿下は最後に私に向かって、ちょっと考えた表情をしてからこう告げる。
『アルタイルはクレアに今でもゾッコンで夢中よ!』
『二人ともありがとう!』
軽く最後に交わした会話で、私はレクナ王国の二人の優しさを十分に堪能することができた。
(うふふふ、今でもゾッコンで夢中ですって?! もう何年も会っていないのだもの、そんな筈は無いわ。きっと私が喜ぶような言葉を伝えて、これからもウィンザルト国で元気に過ごせるように大げさに言ったんだわ)
その時、私はキアナ王女殿下の言葉をそう解釈し受け止めた。
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次回からアルタイル視点のお話が五話続きます。
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