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【完結】精霊なので愛されても困ります  作者: 龍 たまみ
第一章 転生と出会い
4/65

4 名前

 私は早速、用意してもらったアルタイルの部屋の中にあるドールハウスの室内を探検することにした。


 まず、キッチンに行ってみるとコンロの上に鍋が置いてあるし、カップボードの両開きの扉を開けると小さい食器がそろっている。さすがに調理する場所は本物ではないので使えそうにないけれど、ダイニングに置いてある木の椅子やテーブルは私にちょうど良いサイズだった。リビングにある暖炉の中を下から覗いてみると、上まできちんと煙突の煙が出せるように通り道がある。


(こんなドールハウスが前世で小さい頃に欲しかったけれど、高価だからと買ってもらえなかったわ。まさか自分が生まれ変わって住む事ができるなんて!)


 私は興奮しながら、今度はリビングのソファに腰を下ろす。ドールハウス用のソファだというのに、綿がたくさん詰まっていて座り心地がとてもいい。寝っ転がってお昼寝もしてみたいけれど、アルタイルが窓の外からドールハウスの中を覗き込んだ時に格好悪い姿を精霊がしていたらがっかりするかもしれない。


 そんなことを考えていたら、アルタイルがドールハウスをガタゴトと動かそうとする。


「アルタイル、どうしたんだい?」

「お父様、ドールハウスの断面が今、ぼくたちに見えている状態でしょう? 精霊様の気が休まらないかもしれないから、後ろの壁側に断面の切り口を持っていったらいいと思わない?」


「確かに! 精霊様にもはプライベートな空間としての配慮は必要だな。精霊様、少しドールハウスの家の切り口を我が家の壁にぴったり合うようにいたしますので少々揺れます。少しだけ、ご辛抱いただけますか?」


 心優しい親子は、私が頷くのを確認するとそっとゆっくりと上にドールハウスを持ち上げて、ぐるりと半回転させてからドールハウスの切り口をアルタイルの部屋の壁に押し当ててくれる。こうすれば、たしかに窓にカーテンをしてしまえば、アルタイルが覗き込んでも中の様子が見えない状態を作ることができる。


(とっても有難いご配慮だわ。ただ、水場はすぐ近くにはないのでお水だけは用意してもらったほうがいいかもしれないわね。手や顔は洗いたいもの。……でもきっと、この気遣いができる親子は、私が何も言わなくてもきっと後からお水なども運んできてくれそうだけれど)


「ねぇ、お父様! 玄関の扉を見て! ここに何か入れるってお母様がおっしゃっていなかったっけ?」


 アルタイルが開けてくれた玄関扉から私も室内側からひょこっと外に顔を出して、アルタイルが指し示している木製の可愛らしい玄関扉を一緒に眺めてみる。

(確かに……八角形にくり抜いてあるわね。何かをはめ込むための掘り込みみたいね。一体何を入れるのかしら?)


「あぁ、本当だね。そこには魔石をはめ込むって言っていたなぁ。えっと……侍女のマーサが魔石を片づけてくれたと思うんだけど、どこに置いてあるのかなぁ」


 どうやら、八角形の掘り込み部分には魔石が入るらしい。

(魔石って、前の世界には存在しない物質だから、どんな感じなのかしら? やっぱり宝石みたいな感じなのかしら)


 見た事がない魔石に私も胸を躍らせる。


「ちょっと、寝室を見てくるから待っていてくれるかい?」

「はい、お父様」


 私もコクコクと首を縦に振る。どうやら、このドールハウスの周辺には魔石を保管していないようだ。


「魔石をはめるともっと素敵なお家になるから、楽しみにしていてね!」


 アルタイルにも、私がソワソワと魔石を心待ちにしているのが伝わったのか私の前に手のひらを差し出してくれたので、彼の手のひらに乗って座って一緒に待つことにした。


「よし。じゃあお父様が戻ってくるまでに精霊様のお名前考えようかな」


 アルタイルは、手のひらの上で座っている私を見つめながら一生懸命、私の名前を考えてくれる。

 ずっと私を見つめたままだから、さすがに恥ずかしくなってきてしまう。

 でも、必死に良い名前を考えてくれている彼の思考の邪魔はしたくなかったので、私も赤面しながら静かに彼の次の言葉を待つ。


「クレア! クレアっていう名前がいいと思うけれど、どうかな?」


 突然、閃いたのかパッと表情が明るくなったと思ったら、私に名前をプレゼントしてくれる。


「うふふふふ。私もクレアって名前気に入ったわ! 一生懸命考えて名付けてくれてありがとう!!」


 私は、まだ可愛らしい表情のアルタイルにとびっきりの笑顔でお礼を伝えると、アルタイルは頬を染めて照れくさそうに笑顔を返してくれる。


「クレアに気に入ってもらえて、とっても嬉しいよ! 本当にぼくのもとに生まれてきてくれてありがとう!!」


 卵から何が生まれてくるかわからなかったのにも関わらず、出会う日を楽しみに待っていてくれた人がいると思えるだけで私の心はとても温かく満たされた。


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