3 精霊の家
「精霊様……失礼いたします! 部屋を移動したいので、ぼくの胸ポケットに入れても構いませんか?」
私がコクリと頷くとアルタイル・ベルガモットと名乗る男の子は、両手で私をすくい上げて胸ポケットに入れる。
どうやら手の上に持っていたら、つぶしてしまうかもしれないと考えたのだろう。優しい手つきで手触りの良い生地のポケットに入れると私を別の部屋に移すために別室に向かって歩き始めた。
「ぼくね、こんなに素敵で可愛らしい精霊様が生まれてくるなんて思ってもいなかったんだ」
「そうだな。あの店の店主の冗談だと思っていたんだがな」
アルタイルと父親は廊下で横並びに歩きながら、どういう経緯で家に私を連れてきたのか話始める。
(確かに私も生まれ変わるとしても、なぜ卵の中から生まれたとか、どうやってこの家に来たとか知りたいわ)
「先週ね、王都でお祭りがあったの。その時に”魔女Kのたまご屋さん”という屋台が出ていたんだ」
アルタイルは、胸ポケットの中にいる私が大声でビックリしないように、少し小さい声で話かけてくれる。
「大小いろんな大きさの卵が店先にあってね、何が生まれるかはわからないけれど鳥だったり、ドラゴンだったり、あなたが必要としている物が生まれますってフードを被った若い魔女が言うんだ」
(へぇ~さすが、精霊が卵から生まれてくるだけあって、魔女もいるしドラゴンもいるなんて、本当に物語の世界みたいでウキウキしてくるわね)
「でもさ、魔女だよ? 何となくうさんくさいなと思ってはいたんだけれど、ぼくに必要な物が生まれてくるなら買ってもいいかなって思ったんだ」
「そうだな。しかも卵によって金額が異なるって言うんですよ。それで、アルタイルが選んだ卵は金貨1枚」
私は、金貨1枚の価値がわからないので首を傾けてみる。鶏の卵を買うわけではないから、妥当な金額なのか法外な金額なのかすら判断がつかない。
(とりあえず、金貨なのだから高価な買い物だったということね)
「ぼくが手のひらサイズの卵を選んだら、魔女さんがね。素晴らしい卵を選びましたね!って言ったの。だから、ずっと生まれてくるまで毎日観察していたんだけれど、さっきは驚かせちゃってごめんね?」
「私もてっきり鳥かなぁ~と思っていたんですけど、まさか精霊様だとは思っていなくて大変失礼いたしました」
「だからね、精霊様のお部屋がまだ用意できていないの。それで申し訳ないんだけれど……」
アルタイルはそう言いながら、到着した部屋の扉を開ける。
「しばらくぼくの部屋にあるドールハウスで我慢してもらえませんか?」
アルタイルは私を胸ポケットからそっと取り出して、彼の手のひらに乗せると、部屋中にすでに置かれていた木製のドールハウスのリビングにちょこんと下ろしてくれる。
「わぁ~、素敵~」
私は、思わず感嘆の声をあげた。ドールハウスとは思えないくらい可愛らしい薄い葉っぱ柄の帯が入った壁紙に、窓にはレースのカーテンだけでなく薄緑色の遮光カーテンもかかっている。さらにカーテンと色を合わせたと思われるソファーまで設置されていた。
「まるでお姫様になった気分!!」
私は、前世の子供のころに読んだ絵本のお姫様のような部屋を与えられて、気分が舞い上がる。
「そうでしょ? このドールハウス素敵でしょ? ぼくのお母様が少しずつ買いそろえたり、手縫いで手作りしたりして仕上げたお部屋だから、精霊様に気に入ってもらえてぼくも嬉しい!!」
アルタイルは、溢れんばかりの笑顔でブルーサファイヤのような瞳をキラキラさせて、私が気に入ったことが嬉しいと教えてくれた。
「ねぇ、精霊様。ここはぼくの部屋なんだけど、あちらの机で勉強したり、あそこの寝台で夜は寝ているから何か心配なことがあったらいつでも起こしていいからね」
「どうもお気遣いありがとうございます」
生まれたばかりで右も左もわからない私を大事に扱ってくれるアルタイルとその父親に、素敵な家族のもとに生まれてくることができて本当に幸せだと感じていた。




