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【完結】精霊なので愛されても困ります  作者: 龍 たまみ
第一章 転生と出会い
2/65

2 六歳の子供との出会い

「お、お父様……見て下さい……出てきてくれましたよ……」

「どうやら私たちを見て驚かせてしまったようだ。アルタイル……もう少し後ろに下がるよ」

「はい。お父様」


 私を見ていた二人分の双眸(そうぼう)は、ゆっくりと後退していく。


(なんだ……私を襲おうとしていたわけではないのね)


 私は、まだ警戒心を解くことはできないけれど、ここがどこだかよくわからなかったのでグルッと360度一周その場でまわってみることにした。


(えっと……空が見えないし、どうやら室内のようね。誰かの家?かしら……)


 よくよく遠くにある物を見ると、ソファーに机、黄色の花が品良く飾られた花瓶も部屋の隅に飾ってある。

 そこで、先ほどの目の前にあった瞳4つ分が実は人間だったということが判明する。


「あれ? なんでさっきあんなに怖かったのかしら?」


 すぐ近くにあったのは、瞳……。

 なんだか縮尺がおかしいような気がして、自分の手足を見てみる。


「……これ、私の手足では……ないわ!」


 手足の色も以前より白くてきめが細かいし、手足もスラーっと伸びてしなやかな感じがする。

 そこで、肩越しに自分の右後ろにチラチラと視界に入るものが気になり、首を右後ろに向けてみる。


「は、羽?! 私に羽が生えているわ!!」


 そっと手で触ってみると、羽の感触が確かにある。まるで絹の表面を触っているかのように滑らかだ。


「わ、私……人間以外の何かに生まれ変わったってこと?」


 どうやら、神様に会う事なく勝手に転生させてもらったらしい。しかも羽の生えた何かに。


「まぁ……人間の手足があるのだし、昆虫に生まれ変わったわけでは無さそうよね」


 私が自分の姿をキョロキョロ見て、確認していたのを見て何かを悟った人間のうち一人が、小さい方の人間に声をかけている。


「アルタイル……お母様の部屋から手鏡を借りてくるから、ちょっと待っているんだぞ。決して近づいてはいけないよ。びっくりさせてしまうからね」

「はい。お父様」


 そう話している声が私にも聞こえてきた。


(彼らは人間よね? ……ということは、私の身体のサイズが小さくなっているということね……どうやら、言葉も理解できるようだから、次に近づいてきたらちょっと話かけてみようかしら)


 私は、同じ部屋にいる人間が敵意がないことがわかると、父親らしき人物が別室から戻ってくるのを待ってみた。


 手鏡を手にした男性が、戻ってくるとアルタイルと呼ばれていた子供にその手鏡を手渡した。


「アルタイル。いいか? 驚かせないようにゆっくりと近づいてご挨拶をするんだよ」

「はい。お父様」


 聞き分けのよい子供は、手鏡を手にしてゆっくりと私に近づいてくる。

 子供の背中には、小さくかがんだ状態の父親が子供の両肩に手を乗せたまま一緒についてきてくれる。


「あの……これ、鏡です。ぼくが鏡を持っていますので、どうぞお使いください。精霊様」


(え? 今、精霊って言った?)


 私は、驚いて手鏡を垂直に持って私に向けてくれている鏡に遠慮なく自分の姿を映し出してみる。


「せ、精霊だわ……」


 私は、感嘆の声を漏らす。

 スミレ色のふわふわの髪に、透き通っているけれど光の当たり方で色味が変わる美しい羽。

 とても可愛らしくて絵本の世界から飛び出してきたような美しい精霊の姿が鏡の中に映し出されている。

(そう……私は精霊に生まれ変わったのね。……ここは以前と同じ地球ではなくて別世界。まるで物語の世界のようね。……そういう世界に私、転生したのだわ)


 自分が何者か理解できれば、あとは新しく生まれ落ちた世界を知っていくだけだ。


「すみません。あなたのお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」


 私は、鏡をずっと持っていてくれたアッシュグレーの髪にブルーサファイヤのような瞳の子供と、その父親に名前を問うてみる。


「お! お父様!! 精霊様がぼくに話しかけてくれました!」

「あぁ、良かったね。さぁ、ほら自己紹介をしてごらん」


 父親に促された子供は、手に持っていた鏡を下に降ろして私の方に向き直り背筋をピンと伸ばす。


「ぼくの名前はアルタイル・ベルガモット。六歳です。ぼくの後ろにいるのは、父のランバート・ベルガモットです。精霊様、生まれてきてくれてありがとうございます」


 私は、生まれてきたことを最初に感謝してもらえて、とても嬉しくなる。

(良かった。何となくだけど歓迎されているのよね?)


「精霊様、お名前をお聞かせいただけませんでしょうか?」


 アルタイルと同じ髪色で浅葱色の瞳を持つランバートと紹介されていた人物が、私の名前を尋ねてきた。

(名前? 精霊として生まれたばかりなのだから、きっと名前はないのよね?)


「名前はまだありません」

「そうでしたか、精霊様。失礼いたしました」


 ランバートは、聞いてはいけなかったのだと反省して少し委縮しているように見える。


「すみません。私に名前をつけていただけないでしょうか?」

(この国の素敵な名前なんてわからないのだし、人につけてもらったほうがきっと素敵な名前を考えてくれそうだもの!)


 私は、上目遣いでベルガモット親子を見つめる。

 その言葉に反応したアルタイルは、頬を赤く染めて喜んだ。


「お父様!! 聞きましたか? 精霊様のお名前を決めてもいいんですって!!」

「あぁ、じゃあ素敵な名前を考えないといけないな。少しだけ考えるお時間をいただけますか?」


 私は優しそうな親子に出逢えたことがとても嬉しく、首を縦にふった。 

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