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この復讐は100%うまくいく  作者: 柿井優嬉


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「遅れてごめん」

 有里沙と、隼人に関するおしゃべりをした日の夜、奈穂子は待ち合わせをして彼と会った。確かに約束の時間は過ぎていたものの、遅れたといってもわずか数分だし、二人で話をするだけなのだから少々遅刻したところでどうってことはないのだけれど、隼人は慌てた様子でやってきた。彼女は有里沙との会話でそういう内容になったこともあって、改めて真面目だなと思ったが、その点について以前言及した際に彼は、親のしつけが厳しかったためで、根は真面目ではないと答えていた。

 二人が顔を合わせたのは、奈穂子が通勤で利用している鉄道で通る駅の近くにある、小さくて庶民的なレストランである。便利な場所にあるし、味もすごく良いのだが、中年の男性の店主に商売っ気がまるでなく、裏通りで目立たない外観だったりで、そこで会うときは座席が少ないので念のために必ず予約を入れるけれど、突然行ってもおそらく問題なく食事できる、穴場的な店なのだった。奈穂子だけでなく隼人にとっても党の本部や国会からそう離れておらず都合が良かったし、そもそも彼のほうがそこの情報を仕入れて、訪れるようになったのだ。ただ、二人が話し合いを行うのはいつもその店というわけではなく、多忙などでタイミングが合わないときは電話やメッセージでやりとりする場合もあった。

 隼人はその日、男女一人ずつの二人の秘書を引き連れていたが、彼らは奈穂子たちとは別のテーブルに腰を下ろした。それは毎度のことで、隼人は奈穂子とミーティングをする際、理以外の人間はその輪に加わらせないのだった。彼は信用されているようで、奈穂子が何回もお目にかかっているその秘書たちは監視するといった様子はまったくなく、くつろいで食事を楽しむのであった。

「ここのところほんとに忙しそうだね。それなのにごめんね、呼びだしちゃって」

 注文した料理にある程度手をつけて、落ち着いた頃合いを見計らい、奈穂子はそう切りだした。

「大丈夫。政治家になって、分刻みで動くのも、慣れてつらくもなんともないから、全然気にすることないよ」

「そう。頼もしいね」

 彼女は、その言葉を本気で思っているのか疑いたくなるくらいの、昼間になったのと同じ冴えない表情をしていた。しかし隼人は、気づいていないのか、それについて何も口にしなかった。

「平井から話がしたいなんて珍しいよね。それで、どういった内容?」

 その通り、彼女のほうから会う約束を持ちかけることはめったになく、隼人は忙しいのもあってだろう、早く用件を聞きたい感じで尋ねた。

「あなたさ、メディア批判したでしょ?」

「え?」

「それはやらないほうがいいって忠告したよね?」

「あー、あのときのか。でも、マスコミ嫌いな人たちからの支持を取りつけようとするような、中傷じみた話し方じゃなかったと思うけど?」

「それでも、メディアを悪く言って得することなんてないんだってば。説明したでしょ。たまに週刊誌で叩かれたりした芸能人なんかがマスコミを痛烈に批判するけど、本人のプラスになる結果になったためしがないって」

「わかってるよ。だけど、人のことをインチキみたいに散々言ったり書いたりして、腹が立ってさ。自分たちこそ、例えば新聞だったら配達や集金のパートといった末端で働いている人たちが最低賃金ギリギリの給料しかもらえないのを知ってて何もしないくせに、非正規の若者の集団が最低賃金を今の倍くらいにしろって訴えたりすると、もっともな話で、彼らを見殺しにしている政治家たちは早急に対策を講じろ、って記事を掲載したりしてよ。そんなら自分たちが率先して給料を高くしてやりゃいいのに、自らのことは棚に上げて、なんでもかんでも政治家のせいみたいな重箱の隅をつつく批判ばっかりで、ふざけるなっつうんだ。そう思わないか?」

 いらだった隼人に対し、奈穂子は彼にもそうなるよう促すかのごとく、落ち着いたまましゃべった。

「そんなの、今に始まった話じゃないじゃない。マスコミってそういうものでしょ。それに、自分からさらに批判されるほうに向かっていったんじゃないの? ねえ、最近まったく私の言うことを聞き入れてくれないよね。そんなんだったら私、意見する意味ないよ。もうこの役割、辞めてもいい?」

「え? 本気で言ってんのかよ?」

「もちろん冗談なんかじゃないよ。それを伝えたくて、今日は来てもらったの」

「……そっか、残念だな」

 ほんの少し間はあったものの、隼人は言うほど残念そうではなく、あっけらかんと表現できるくらいだった。

「あれ? 引きとめてくれないんだ?」

「何だよ。やっぱり本気じゃなくて、試したのか?」

「違うよ。だけどてっきり『話し合って納得したことはちゃんとその通りにするから、続けてほしい』とでも言われるんじゃないかと思って、そうなったらその場で考え直そうか判断しようって決めてたの。今の状態のままなら本当に辞めるよ。だって、くり返しになるけど、意味ないんだから」

 隼人は、引きとめればよかったであるとか、どうしようかといった、動揺したり考えを巡らせる雰囲気はなく、冷静にその言葉を受けとめて、口を開いた。

「平井には感謝してるよ。俺もだけど、特にシロの人気や評価が高いのは平井のおかげだ、間違いなく。今までしてくれたことにケチをつけるところは一切ない。でも、政治家って、なってみると想像していた以上に思い通りできなくて、全部言われたようになんてやれないし、俺は平井のあやつり人形でもないからさ」

「……そう」

 奈穂子は視線を落としてつぶやいてから、再び隼人を見た。

「わかった。じゃあ、今、ここでさよならね」

「え? せめてもう少しゆっくりしてからにすれば?」

「いい。ちょっと疲れてて、早く帰りたいんだ。ごめんね、忙しいところをわざわざ来てもらったのに」

「それはいいけどさ」

「自分のぶんの支払いをしてそのまま行くから、じゃあね」

 彼女は立ち上がった。

「もう連絡しても会ってくれないのか?」

 相変わらず落ち着いて、隼人は訊いた。

「暇なとき食事くらいなら付き合ってもいいけど、政治に関しての意見はどんなに頼まれてもしない。いいんだよね?」

「ああ。仕方ないもんな」

「……バイバイ」

「今までありがとう」

 そして奈穂子は隼人に背を向け、会計を済ませると、少し速い足取りでレストランを後にしていったのだった。


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