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この復讐は100%うまくいく  作者: 柿井優嬉


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 隼人があんなにも奈穂子に感謝していたのは、中学時代のあのアドバイスによって新聞を見るのが習慣となり、おかげで、社会の多くにドラフトを取り入れるというアイデアのもとである、この記事を読んでおくことができたと思ったからだった。それがなくても、後に就職活動で必要だとかの理由で、新聞に目を通すようになった可能性もあるが、「ちょっと得」ではなく、「生きていくうえで非常に重要」だと認識させてくれた彼女の助言には、やはり意味があったのだ。なにしろ父の影響で大嫌いな野球に関係する内容のコラムだったのだから、就職のためなどでは読み飛ばしていた確率が高かったのである。

「今の話では、まだわかりにくいですね。弱い立場の組織や個人を優遇するなどの点について、もっと具体的に説明していただかないと」

 同じ男性議員が、再び隼人に問いかけた。ただ今回は、最初のよりもかなり慎重な口調だった。

 隼人は変わらず冷静ながらも熱さを感じさせる話し方で答えた。

「例えば、現在医師が不足していると言われますけれども、診療科によって状況はまったく異なっているんですよね。小児科や産婦人科、救急医療などは実際に人手が足りていない一方で、歯科は反対に余っているくらいです。また、都会に比べて地方の医師の数も相当に少なく、深刻な状態ですね。ですので、そういった人手の必要度が高い診療科や地域の病院から順に、新たに医師になられるなかから来てほしい方を選んで、指名していただきます。そして、指名された方はその病院に勤務していただくことになりますが、望まない診療科や地域になってしまう可能性が当然ありますから、何年か後に与えられるフリーエージェントの権利を行使することによって、希望の現場で働けるようにします。それでも指名された科や土地がどうしても嫌であったり、事情があってそこでは勤務できないなどのケースでは、無理やり働かせるわけにはまいりませんので、翌年のドラフトまで待っていただくことになりますけれども、次の年に指名された病院もやはり受け入れられなかったり、最初から望むところ以外は絶対に駄目だからドラフトにかかりたくないといった場合は、指名された病院に勤務してフリーエージェントが認められるまでと同じ期間の何年間かは、別の仕事をしていただいたりして、医師としては働けないようにする、というのが私が思い描いているものです。もちろん、これが実現するとなったら、多くの方の意見をうかがったりして、変わる部分は出てくるでしょう。これを一般の民間企業に当てはめると、フリーエージェントの際はライバル会社に移籍ということになりますから、情報流出などの問題で難しい業界も少なくないと思いますが、公務員や教員であるとか、同じようなかたちで実施できる職種はかなりあるのではないかと考えております。それから、今挙げさせていただいたのは、これから医師や公務員などで働こうとされている方の分配となるわけですけれども、異なるタイプのドラフトも頭にございます」

 他に議論するテーマなどがあり、これ以上膨らませられることはなく、その話は終了という格好となった。

 この番組は、出演者のほとんどが政治家の堅いテイストで、リアルタイムで観ていた人の数はたいしたことがなかった。しかし、スポーツのドラフト制度を一般社会にも取り入れるという斬新さやユニークさに加え、目にした経験が一度でもある人を集計したならばけっこうな数字に達するであろうプロ野球のドラフト会議で、各球団が欲しい選手を指名して名前が読みあげられる映像などによって、イメージがしやすいアイデアだったために、主にネットを通じての口コミで広まって知られるようになると、政治への関心が低過ぎると言われ問題視される日本の中高生の世代でさえ話題になるほど、世間に興味を持たれるに至ったのだった。

 それのヒントとなるコラムを書いた油井は、執筆当時は四十代後半、現在は五十代の後半で、温和で腰の低い「人の善いおじさん」といったキャラクターであり、テレビの旅番組に登場したりと多方面で活躍していたものの、そこまで有名でもなく、若者は知らないほうが確実に多かった。それが、今回の隼人の発言で注目されて、テレビのトーク番組など一時メディアで引っ張りだこな状態になり、知らない人はいないくらいに知名度が上がったのだった。

 そうした激変と言える状況に遭遇した彼は、心境を訊かれて、よくこう口にした。

「生きてると、思ってもないことが起きるものですねー」


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