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この復讐は100%うまくいく  作者: 柿井優嬉


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 夕方を過ぎて暗くなってきた人通りの多い道を、一人で歩いているスーツの真面目そうな若い女性が、斜め前の方向から近づいてきた男性に、突然声をかけられた。

「平井さん」

 彼女が少し体を引いて、その声の主に視線をやると、自分と同じくらいの年齢に見える、知らない男だった。

 危険な雰囲気などはまったくなかったが、やはり不安もあり、恐る恐る奈穂子はしゃべった。

「だれ……もしかして、柴崎くん?」

 背の高さをはじめ、成長して当然変化はしているものの、中学生の頃と印象に大きな違いはない容姿、それに自身の記憶力の良さも手伝って、彼女はすぐにその名前が口から出てきた。

「うん。久しぶり」

 隼人は微笑んで答えた。

「どうしたの? 偶然? それとも……」

 たまたまこの辺りにいて、奈穂子に気づいて話しかけた、というのではなさそうだった。そこは奈穂子が籍を置く会社が目と鼻の先にある通りだ。彼女はその日の勤務を終えて、ビルを後にしてすぐだったのだが、こざっぱりとはしているけれど、オフィス街なのに隼人は普段着といった装いだし、声をかけてきた彼は、奈穂子を待ち構えていた感じだったのである。

「そう。多分考えている通り、偶然じゃなくて、平井さんに用があって来たんだ。きみに会いたくて、昔の同級生とか居場所を知っていそうな人に連絡して訊いたりして、勤務先がわかってさ。アポを取ろうかと思ったけど、電話やメッセージのやりとりだけで終わることになっちゃうかもしれないし、どうしても顔を合わせて話がしたかったから、失礼承知でこうしていきなりやってきたんだ。ごめんね」

「……まあ、いいけどさ」

 隼人が申し訳なく思っているのは顔にもはっきりと表れていて、彼女は恐縮してしまうほどだった。

「それで、用っていうのは?」

「うん。こんなことを口にすると、もっと戸惑わせちゃうだろうけど、俺のブレーンになってくれないかな?」

「ブ、ブレーン? って?」

 奈穂子は驚き、動揺して言葉が途切れ途切れになった。

「俺、政治家になろうと思ってて、それの。ただ、秘書になってほしいとかじゃなくて、難しくて俺の頭じゃちゃんと理解できない事柄を、きみができている場合に説明してくれたり、俺が求めた意見に、答えてくれたりするだけでいいんだ。それも、忙しくて無理なときなんかは断ってくれて構わない。極力、平井さんの生活や人生の邪魔にならないようにするからさ」

「……話が唐突過ぎるんだけど。政治家になろうと思うって、今は何をやってるの?」

 なんとか気持ちを落ち着かせ、状況を整理しようと努めながら、奈穂子は尋ねた。

「スーパーで、レジや品出しをするアルバイト。そこから政治家になろうなんて馬鹿げてるって思うかもしれないけど、本気なんだ。ふざけてはいない」

「……で、なんで私なわけ?」

「中学のとき、学校の勉強よりも本や新聞を読めってアドバイスしてくれたよね。いろいろあって、今は誰でもなれるくらいの社会的な立場でしかないけど、あの言葉がすごく役に立ったし、これから先も活きてくると思うんだ。とはいえ、やっぱり俺の頭脳はたかが知れてて、自分の力量のみだと困る場面が多々出てくるだろうから、助言してくれたってだけじゃなくて、俺が知っているなかで、賢くて、なおかつ、信頼できる人として、一番に頭に浮かぶ平井さんの力を貸してもらえないかと思ったんだ」

 奈穂子は考えてから、また質問をした。

「その話は、ほんとに本当?」

「うん。絶対に嘘は言ってない。誓うよ」

 隼人はずっと真剣に話していたが、一層引き締まった表情になった。その彼と奈穂子の周りには、彼女と同じように会社から自宅へ帰るところであろうたくさんの人が行き交っている。

「わかった、信じるよ。でも、困る。私、社会人一年目なんだよ。うちの会社はひどい残業を課したりはしないけど、慣れてないことや覚えなきゃいけないことがいっぱいあって大変なんだから。いくら忙しいときは断っていいって条件だとしても、負担はできる限り少なくしたいんだよ」

 隼人はわずかな時間沈黙した。そう口にしながらも、彼のブレーンの要請を引き受けてくれる言葉が続いてくるかもしれないと思ったからだが、どうやらそれは期待できなそうだった。

「そうだよね。仕事終わりで疲れてるだろうし、ほんといきなり現れて迷惑なお願いをしちゃって、ごめん。平井さんのことだから、大学に進んで、今年は新入社員である確率が一番高いとはもちろん考えていて、だから駄目元だったんで、まったく気にしなくていいよ。ブレーンを頼むのもあるけど、今言ったように平井さんがしてくれたあのアドバイスが俺に本当に大きな価値のあるものをもたらしてくれたから、そのお礼をちゃんと会って伝えたかったんだ。本当にありがとう」

 そして隼人はその再会における最後の一言を口にした。

「それじゃ、さようなら」


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