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その日の勤務を終えた隼人は、まだ明るい時間帯だったこともあるけれど、まっすぐアパートに戻らず、しばらく街なかをブラブラ歩いた後、自宅から少し離れた公園のベンチに座って悶々としていた。
もう一年近く経つが、彼はいまだに先の人生をどうするか決めあぐね、悩み続けているのだった。加えて、何時間か前に楽しそうにしゃべっていた渋沢といい、プロ野球のドラフトの騒ぎがいらだちに拍車をかけた。それを嫌悪するのはもちろん父親の影響でだが、野球に限らず自分が得意とするスポーツに打ち込めている選手たちへの嫉妬心もおそらくはあった。
この日は風が強く、道端に落ちていてバラバラになった新聞紙の一枚が、隼人の足もとに飛ばされてきた。
ふとそれに目をやると、そこにも今日の夕方に開始するドラフト会議について、大きい見出しで、その紙面すべてを使って書かれていた。
ドラフトが世間の大きな関心事となるのは、大概その年の高校野球にスター選手がいて、甲子園での全国大会で好試合が多くて盛り上がったときだが、この年もやはりそうだった。さらに、四年前も人々を魅了した夏の大会で優勝投手となり、ドラフトで一位指名されながら、今どき珍しく意中の球団ではなかったためにそれを拒否して大学に進んだ選手や、そのもう一年前に二年生で甲子園で大活躍したものの、肩の故障で三年になると試合にあまり出ることができず、ドラフトでもどこからも声がかからない憂き目に遭ったにもかかわらず、大学でピッチャーから外野手に転向すると、そのリーグのホームラン記録を塗り替えるという奇跡的な復活を遂げた選手など、実力もさることながらドラマ性に富んだ指名候補者が数多くおり、報道も連日ドラフトの話題で持ち切りといった状態で、注目がまさにハンパではなかったのである。
長い期間暑かった夏と、ここ数日急激に下がった気温のせいで、まだそこまで低い温度でないのに寒さが身に応えるうえ、季節柄公園を覆い尽くさんばかりにある大量の落ち葉と、無残な姿になった一枚の新聞紙という、目の前の物悲しい風景が、もしかしたら自分もいたかもしれないスポーツの華やかな場所が遥か手の届かない地点となってしまった現状の己を象徴しているようで、隼人になんともいえない敗北感を味わわせた。
「くそっ!」
新聞紙を思いきり踏みつけ、隼人は勢いよく腰を上げた。
そのときだった。彼は雷にでも打たれたかのごとく、目を見開いて固まった。そばを通りかかった猫が何事かと視線を向けた。
そして隼人は一言つぶやいた。
「そうか」




