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歴めろ。  作者: 武田 信頼
第二章:学校動乱編
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第八十一話:会議は踊る

ご無沙汰いたしております。


六月も中旬に差し掛かって参りました。

外は大変暑くなってきましたので、外回りの方は熱中症に気を付けてくださいませ。。。





           ※※ 81 ※※





 手賀沼てがぬままたいで結ぶ大橋には県道が通り、県内の大動脈とも言うべき国道にぶつかる。この辺りは、関東ローム層で出来た下総(しもうさ)台地と手賀沼周辺の沖積層が重なる小高い緩慢かんまんな斜面が続き、その山間部に水田や畑が広がっていた。

 その小高い丘陵のひとつに立つ、県立東葛山高校に始業のチャイムが鳴り響く。しかし、期末試験最終日である今日は、その役割に影響されることなく、見るともなしに見ていた校庭には、部活用具をかついで走っていく生徒や、別れの挨拶あいさつをして散っていき、あるいは居残いのこって談笑している生徒であふれていた。


 「平良、来たわよ」


 と、不意に灼が、しばし虚脱していた俺の袖を引っ張る。扉の向こう側に人の気配を感じて、意識を引きめた。


 「……ういっす」


 ガチャリとノブが回り、開かれた扉から高橋先輩が顔をのぞかせた。そして藤川先輩、野球部・部長、サッカー部・部長、バスケ部とバレー部の男女それぞれの部長と続き、最後尾は富樫だった。俺たち二年生と唯一の一年である灼が立ち上がり、会釈えしゃくを返した。ちなみに三年生は座ったままである。

 対面型に並べた長机の窓側は俺たちがすでに座っていたので、高橋・藤川先輩を始めとする諸氏は廊下側に座った。

 全員の着席を確認すると、対峙たいじする全員の顔が見渡せるように、端に座っていた会長がまず口を開く。

 

 「今期最後の生徒会・会議を開きます。

 議題は定期定例会で提出する『文化祭決算報告書』『部費の出納報告および生徒会執行部・文化祭損益計算書』の最終確認、そして次期生徒会長の生徒会役員による推薦人(すいせんにん)議決を取ります。手元にあるプリントを見てちょうだい」


 各々(おのおの)がプリントを黙読もくどくする間、その複雑な思惑がからまる沈黙を、


 「俺の仕訳した勘定と違うッ! この使途秘匿(ようとひとく)金って何だ」


 高橋が罵声ばせいのような声で破った。それを率直に灼が返す。


 「そのまんまの意味よ。今期の部費支出の中で、総額36万4562円分が領収書もなく、支払先も不明。

 高橋――あんた、仕訳の際に内訳を記載しなくて良いことに、全部『雑費』扱いしてたけど、レシートくらい確認したんでしょうね?」


 言葉に詰まった高橋を一瞥した灼は、その単純な反応に冷笑し、体育会系の部長たちに視線を移した。


 「特に()()()()()()粉飾決算ふんしょくけっさんは目に余るものがあったわ。いずれにしろ次期生徒会ではこれらを明らかにするつもりよ」


 ある者は視線を逸らし、ある者は「でたらめ言うな」と語気強く弾劾だんがいする。灼は全てを無視して、


 「高橋、もう一つあるわ」

 「()()を付けろ、一年のチビガキ」


 にらみ返しながら答える高橋に、全くひるむことなく大きな栗色の瞳に闘気を宿やどして、凜乎りんことした態度で続ける。


 「あんた、結局、会長からずっと指摘してきされてた仕訳ミス――13億4312万3002円合わなかった金額、『文化祭決算報告書』では雑収入と雑損失で相殺させてたわね。あり得ないわッ。

 まあ、あたしも『歴史研究部』の損益計算書を見て、初めて部が法人化してることに気付いたけど、本来は文化祭の準備金21億3432万円が差額として出るはずなのに――差異があるのは重大な責任問題よ」


 それを聞いた部長が、高橋先輩の作成した『文化祭決算報告書』を見て、不思議な表情で苦笑する。


 「『歴史研究部』の損益計算書、法人税等を見てたら確認できてたはずだがな。文化祭の準備金21億3432万円は俺の株利益だし、興行利益132億2001万円が個人寄付金だと控除が働かないから、俺と四字熟語、他8名で『歴史研究部』を密かに特定非営利活動法人にしたんだ。だから()()()()と記載されてたはず。それを不正算入しちゃあマズいなァ。転記した藤川も迷っただろう?」


 部長の言葉を受けて、


 「法人寄付金は原則として損金不算入だわ。まあ、私も双月さんに指摘されるまで気が付かなかったから、藤川には謝るわ」


 会長も頭を下げる。一連の矛先ほこさきが自分ではないことに、ようやく気付いて、藤川先輩は安堵あんどの色を示した。反して高橋先輩は無言のまま、険しい顔で灼をにらんでいる。

 

 「さて、と……」


 会長は手元のファイルから薄い冊子を取り出し、僅かに困った顔で藤川先輩に差し出す。


 「これは、双月さんが仕分け直した仕訳帳と勘定科目よ。期限が近くて申し訳ないのだけど、藤川に 総勘定元帳(そうかんじょうもとちょう)の転記修正してもらえると助かるのだけど……いいかしら」

 「り、りょ……了解した」

 「じゃあ、それを基に『文化祭決算報告書』を作り直すことが出来るわね」


 すぐに会長は気持ちを切りえて議題を進める。


 「次に、数日後に控えた定期定例会での次期生徒会長の信任選挙だわ。私、生徒会長の山科花桜梨(かおり)は生徒会規則第5条3項により、次期生徒会長に二年三組・谷平良君を推薦すいせんします。賛成の生徒会役員は挙手を」


 三年の四字熟語と二年の新庄めぐみが挙手をする。今全身に緊張と不安を感じて、細かくふるえている俺は、正面で藤川先輩が同朋どうぼうの気色をうかがいつつ、力弱く挙手をした事実に驚愕きょうがくした。恐怖に冷えた俺の脳裏に、三対一という安堵の結果が芽生える。

 しかし、会長は惜しむように首を振った。


 「高橋。第5条4項の規定で棄権するのかしら。それとも5項にのっとり、異議申し立ておよび2日以内に信任候補者を挙げるのかしら」

 「ここにいる二年の富樫が信任候補者だ」


 高橋先輩は、急な即答で強引に決断を下した。もはや会長に会話を続ける気はなかった。


 「満場可決ではないため、谷君の信任は保留。第6条の規定に基づき、富樫君の信任候補者を承認します。後は定期定例会で候補者の公開討論会と応援演説の後、全校生徒による信任投票となります。

 以上で、今期最後の生徒会・会議は終了ですが――他に何かありますか?」


 全員の思惑を表情から読み取りながら、会長は視線を動かす。察してさとって、


 「私たち現職生徒会の職務は以上となります。皆さんお疲れ様でした。以後は次期生徒会に引き継ぎます」


 宣言とともに、山科会長は山科先輩となった。





 会議も終わり、高橋先輩と藤川先輩以下、体育会系の部長たちが退室していった頃合いで、今の気分を余すところなく声にして、有元花散里(かざり)が机にした。


 「あー、もー。疲れたァー」


 はずみで、手に持っていた会議用のプリントが投げ出され、紙吹雪(ふぶき)のように散乱する。それを新庄が拾い上げながら、


 「あんた、ただ座ってただけじゃない」


 やれやれと言いたげに肩をすくめた。有元は頬を机に張り付けたまま、口を尖らせて抗議こうぎする。


 「だぁーて、あの状況で緊張の連続よッ! しかも高橋ってセンパイ、容赦ようしゃない双月ちゃんをずっとにらんでたし……。となりに座ってたあたしの身にもなってよォ」


 灼は見かけ通りの幼い表情を崩して苦笑する。会長は微笑して生徒会室の窓を少し開けた。冷気が舞い込み、室内の熱気をしずめると同時に、有元も冷静になっていく。


 「……双月ちゃん、おそわれたりしない、かな?」


 有元の倒れ込みの余波よはで、机上に散らばったプリントをそろえていた灼が、勝ち誇った顔でうすい胸を張る。


 「大丈夫よ。お義父さんの警察道場で、婦警さん相手に合気道やってるから」


 襲われる原因を示唆しさしたつもりだった有元は、微妙にれた答えが返ってきて、溜息ためいきらした。

 そもそも根拠のない可能性を話題にしていたので、興味はすぐに別へ移る。


 「それはそうと、まさかの三対一だったけど。どうして多数決で決まらないですか?」


 有元は、誰とは無しに、役員の誰かに質問を投げた。受けた四字熟語がパイプ椅子を折りたたみみつつ、無表情で答える。


 「金科玉条きんかぎょくじょう。生徒会規則第5条2項、次期生徒会長の推薦は現職生徒会役員の満場一致で可決とする。

 4項の棄権きけん以外は保留。あとは8条の推薦候補人が止む得ない事情で棄権した場合、第9条の生徒会役員による推薦候補人の取り下げ――」

 「やァーぱり、あの忌々(いまいま)しい高橋センパイ次第ってことじゃんッ」


 無益な抗弁こうべんと知り、会話に言葉を重ねて、それでも往生際(おうじょうぎわ)悪く、有元は突っ伏したまま、両手をバタバタと動かす。その頭にポカリッと、


 「こらッ! いつまでも遊んでないで、あんたも片づけをするッ」


 新庄めぐみが、もう一発とばかりにこぶしにぎって見下ろしていた。  

●有元花散里のうんちく


皆様、お久しぶりです。

お初にお目にかかる方は、これも一樹之陰です。


今回は会計・税務と入り乱れ、贈与の話まで突っ込んだ話になりましたが、

もともとの原因は『歴史研究部』が破天荒すぎるからでしょう。

本来、生徒会で話し合う議題ではなく、仮に現実になったとしても、

学校サイドの事務員さんや、学校運営に携わる偉い方々、会計・税務のプロの職分であって、あたしたち生徒が出る幕ではないと思います。。。。


では、実際問題として、模擬店の売上をどう管理するの?

生徒会の仕事は?


●学校と生徒会の間で文化祭予算を決める。

 

 だいたい、どこの学校も例年通りの金額だと思いますが、例えばタレントとか呼ぶとか、特別なことをする場合は予算編成方針を話し合います。

 そのお金は各学校または各自治体によりますが、生徒の皆さんが支払ってる学費の中の生徒費が当てられます。パンフレットに載せる広告費として商店街のお店さんからいただく場合もあります。


●機材をレンタルして出店するような場合には、模擬店代表者のサポートをします。


 ただし、模擬店でも材料の仕入れや機材レンタルの肩代わりなど、学校の支援や業者に依頼したりすると、売上にも法人税、消費税がかかる場合があるので、生徒会は十分に注意して学校の経理に必ず確認しましょう。

 基本、文化祭の模擬店は基準期間の課税売上高が1000万円を超えることはないので消費税の対象にはなりません。そう考えると『歴史研究部』は異常です。。。。。


●各模擬店実行者に対して収支明細と売上金の保管の徹底


 売上はそれなりに大変な額となるので、当然、金庫管理も必要となります。レシートや領収書は全て保管し、後日、収支明細とともに提出してもらいましょう。交通費や自動販売機など小額で領収書が得られない支払いはメモを取ってもらいましょう。売上は販売価格、売上数も提出してもらい、生徒会は帳尻があっているかどうか確認します。不正の発見に役立ちます。


●文化祭にかかる費用は、全て生徒会が自主的に管理・運営します。


 学校名で備品の購入や何かしらの費用としてお金を払ってしまいますと、学校の売上となり、課税対象となります。


●衛生面に十分気をつけ、保険所の指導に従って実施する。


長々と申し訳ございません。。。。生徒会の仕事の一部ですが、なかなか大変だと思います。


ともあれ、難しいことは学校がサポートしてくれます。安心して学生生活を楽しむ事を第一にしてくださいませ。。。。

  


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― 新着の感想 ―
[良い点] 使途秘匿金いこーる脱税だものねやばいやつ [気になる点] >「大丈夫よ。お義父さんの警察道場で、婦警さん相手に合気道やってるから」 ちんまいくせに強いのか 義父って? [一言] 億って桁…
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