プロローグ ~フィルとセラの出会い~
「それ!!」
セラは一時収まったやりとり後、フィルが宿を出る準備をしている隙をついて花びらを集めて窓から外にまいていた。
「何やってんだ!! 全く!! あ~!!! おい、行くぞ!」
「だってキレイじゃないですか! それにいつもフィル君はバタバタし過ぎです」
「そんな呑気な事行ってる場合か! 誰のせいだと思っているんだ! 誰の!! 目立つ事してたら捕まるぞ!!!」
「それはダメです! 行きますよ!」
「誰のせいだ、誰の!! 行きますよじゃねぇ!!」
フィルが慌てて荷物をかき集めていると、セラは何も持たずに部屋の出口のドア前で待機していた。
(なんで俺が……)
荷物と言っても世界を転々としている二人には大したものもないが、フィルはそんな事より何もしないセラに呆れていた。
フィルは不満に思いながらも少ない荷物をかき集め、急いでセラとともにドアを出て宿屋の受付に鍵を返し外に出る。
「フィル君、街の外まで競争です!」
「だからあんま目立つ事すんなっての!」
「イジワル……。まぁいいです。今日はこの良い天気に免じて許してあげましょう!」
フィルの忠告をおかまいなしにセラは鼻歌を歌いながらスキップをする。
(走るなってのもそうだけど目立つ事するなって言ってるのに)
フィルは内心でそんな風に想っていたが、言うだけ無駄だと諦め後を追う。
フィルはセラの鼻歌を聞きながら昔を思い出していた。
そなぜなら、二人の関係はセラの歌から始まったのだから――。
―――――――
「アジト?」
「そうだ。我々世界政府に反旗を翻す組織のアジトの一つを見つけた。そこを壊滅させるのが任務だ」
フィルは両親を殺され能力が暴走し黒づくめの男を殺して気を失った後、次に意識を取り戻した時はベッドの上だった。
フィルは気を失った後、家に来る予定だった世界政府の使者に保護されたのだった。
そしてフィルは後からある事実を聞かされた。
両親を殺したのは世界政府に反旗を翻す組織という事に――。
身寄りのないフィルは世界政府の管理下に置かれエージェントとして活動した。
その目的は、
『両親を殺した黒づくめの男の組織に復讐する為』
その為にフィルはすべてを犠牲にして世界政府のエージェントとして働いた。
そうして来る日も来る日も体を鍛え、感情を捨て、ただひたすら自分を鍛え、最初はうまく扱えなかった能力も徐々に制御できるようになっていった。
そしてフィルが十二歳の時にはエージェントの中でもトップ5が集まるグループ通称『サイレントフォース』に属していた。
「なんで俺が? 壊滅させるなら俺じゃなくてエージェント達放り込めばいんじゃないですか?」
「はぁ~……おまえって本当に十二歳?」
フィルの上司でもあり、エージェントナンバー2のフレイヤ=オースティン。
サイレントフォースの副リーダーでありながらチャラい性格ではあるが、任務は着実にこなし『雷』を操る能力者でありその実力は折り紙つきとして有名だ。
そのフレイヤはさっきまでの真剣モードから普段モードに切り替わっていた。
「一応そうなっています」
「はぁ~……可愛くねぇな」
「別に可愛さなんて生きてく上で必要ありませんから」
「ったく……まぁこれはセフィ姉からの命令だ」
「セフィリアさんの?」
セフィリア=ウォレット。
サイレントフォースのリーダー。
女性ながら『氷』の能力を操り、扱う能力同様に冷静沈着な性格でどんな事にも慌てず、常に効率的な方法を選択する。
それが例えどんな冷酷な判断でも……。
「あぁ、何やら黒の組織『月の影(ムーンシャドウ』が絡んでるらしい」
「!? ……俺が行きます」
―――――
「か、勘弁してくれ!!」
フィルは両親を殺した黒の組織のアジトに数人の部下とともに乗り込んだ。
組織の主要メンバーは不在だったのかフィルにかなう敵はいない。
フィル達世界政府のエージェントは次々とアジトの内部を制圧していく。
「おまえらはそう助けを求めた人でも殺すだろ」
フィルは抑揚のない感情のこもっていない声で言葉を放つと、炎を繰り出し男の周りに覆わす。
その声はそこにはかつて、自分の両親が殺された事に対する復讐のしか考えていないフィルの心の闇を表すような低い暗い声だった。
「……死んで後悔しろ」
「ひっ、ひっ、ぎゃあああああ!!!」
次の瞬間、炎は男を覆った。
その炎はのたうち回る男を逃す事なく男を包む。
そして最後に残ったのは男の断末魔だけだった。
「隊長!!」
明らかにフィルより年上のエージェントがフィルを隊長と呼びながら走ってくる。
フィルは小さいながらも『サイレントフォース』の一員であり、一般のエージェントと行動する時は当然リーダーとなる。
もちろん、この事に不満を持つエージェントもいたがフィルの実力の手前何も言わない。
「どうした?」
「それが、ある一室で敵の能力者らしき者が敵味方関係なく攻撃しているんです! 俺達では手に負えません!」
「……分かった。俺が行く。お前たちは退却の準備に移れ」
「はっ!」
フィルは命令を下すと、部下に教えられた場所の部屋に向かう。
建物の中は戦闘の影響で至るところで火が上がっていて、中は火と煙が充満している。
でも、敵の能力者を逃すと可能性がある以上、フィルには引くという選択肢はない。
フィルは組織に復讐する為だけに生きているのだから。
しばらく走ると、敵の能力者がいるという一室に辿り着いた。
フィルは警戒しながら部屋へ足を踏み入れる。
「こ、これは……」
目の前にあるのは一人の銀髪の少女の姿。
見た目はフィルと同じくらいの年で白いワンピース姿で透き通るような白い肌。
少女の周りには光の膜があり、炎も煙も寄せ付けていない。
その姿はまるで天使を思わせるようだった。
しかし、少女の周りには本当に人だったのかと思うくらいに干からびた死体が無数に広がっている。
そして周りは火に囲まれていて、まさに天国と地獄を象徴しているかのようだった。
フィルがその様子に呆気に取られていると少女はフィルに気づき振り返る。
「おまえはいったい何者――」
フィルが少女に問いかけようとした瞬間、少女は俺に微笑みかけ口を開いた。
フィルはその微笑みを前にして動けなくなった。
「あの日流した涙
涙に宿る想いを
あなただけが知っている
その想いを抱えて
あなたは孤独に生きる
気づけば暗闇の中
あなたは一人歩む
あなただけが知っている
悲しみ苦しみは
誰にも想像できない
あなたにも光は差すはず
太陽はみんなに微笑みから
だから目を背けないで
あなたにも光は訪れる
あなたは一人じゃないよ
周りを見てみて
きっと見つかるはず暗闇を照らす道筋が
怖がらずに進んでみて
新しい世界が待っているはず
君が流した涙
涙に込めた想いを
あなただけが知っている
その想いを力に変えて
あなたは一人生きる
暗闇を進むあなた
一人の世界に生きる
あなただけが知っている
悲しみ苦しみ
いつまで抱え込みの
あなたは一人じゃないよ
たくさんの人達がいるから
背を向けないで見てみて
分かり合える人もいるから
あなたは一人じゃない
気づいているはず
目を背けているだけ
あなたはただ逃げているだけ
怖がらすに進んでみて
新しい自分が見つかるから――」
口を開いた少女は突然無防備に歌いだした。
でも、フィルはそんな少女を攻撃する事なく、ただただ佇みその歌を聴いていた。
その透き通るような歌声はフィルの閉ざされた心に響く。
何年もの間深く閉ざされた心。
それを少女の歌声がゆっくりと開いていく。
そして、フィルの頬を熱いものが流れる。
(これは……俺にもまだ感情があったのか?)
両親が殺されてからずっと感情を捨て、自分を捨て、復讐の為に生きてきたフィルにとって両親が殺されて以降、流さなかった涙。
フィルが涙を流していると少女が『ニコ』っと微笑む。
「おまえは……」
フィルが問いかけようとした瞬間、少女は糸が切れた人形の様に気を失い倒れ込む。
「!?」
フィルはその少女を咄嗟に抱き止めた。
そして少女を抱え、燃え盛る建物から脱出する。
フィルはそのまま『サイレントフォース』に戻ることなくその場を去った。
それがフィルとセラの出会いだった――。




