プロローグ 〜フィルの過去〜
大陸の北に国にあるノースホルム国。
この国は、一年を通して気候が安定して穏やかである為、農作物や畜産に力を入れている国であり自然豊かな国である。
この世界は、大小すべての国が世界政府という世界中の国の代表が組織している政府に属していてこのノースホルム国も例外ではない。
このノースホルム国は広大な面積を誇るが、山や畑が多く、面積の割には人口が少ない。
そのノースホルム国の中でも北に位置する小さな町の宿屋の一室。
そこで一人の少年と少女が言い合いをしている。
「フィル君、最近よく笑うね?」
「笑ってる訳じゃない! 怒ってるんだ! どうすんだこれ!!」
フィルと呼ばれる黒髪の少年は黒い瞳を見開き、頬を震わせながら無邪気に言ってくる銀髪の少女に対して声を荒げる。
そんな中、肩まである少女の銀髪はフィルの怒声に反して窓から入ってくる風に優しく揺らされる。
また、窓から差す光によって少女の透き通るような白い肌が照らされ、青い瞳が空を表すように映し出される。
そこにある二人の姿、そのすべてがフィルと対象的だった。
そんな少女に声を荒げるフィルはかつて『サイレントフォース』と呼ばれる世界政府の治安維持部隊の中で実力者トップ5にて形成される『能力者』グループに所属し『永遠の炎』の異名で闇の世界で恐れられていた。
『能力者』
かつて、この世界は魔法という物が存在していた。
しかし、はるか昔に世界をすべて無に帰そうとする邪神とこの世界を創造した創造神が戦った際、創造神に人類と魔法を司っていた精霊が協力をして邪神を倒した。
その時に創造神も精霊達も力を使い果たし、この世界から姿を消す。
それでこの世界から『魔法』という存在が消えた……はずだった。
近年になり、一部魔法を使える者達が生まれている。
それが能力者と呼ばれる者。
そして、能力者は能力の発動……つまり魔法を使う際、瞳が能力と同じ色に発光する。
なぜ、フィルが『永遠の炎』と恐れられていたかと言うとフィルの能力は『火』であり、想像するだけで炎が出て自由に操る事ができる。
また、フィルのある復讐に対する執念を表し『永遠の炎』と呼ばれていたのだ。
しかし、そんな風に恐れられていたフィルだが今はその面影もない。
能力者は神の使いとされ、世界政府の管理下におかれ、世界平和の為に治安維持部隊のエージェントとして雇われる。
この世界では、一般的な武器と言えば剣や槍、バトルアックスなどで近接武器がほとんどであり、遠距離からの攻撃方法と言えば弓矢くらいだ。
しかし、弓矢は名人といえど、気象や風に命中率が影響される。
だが、能力者は遠距離からでも自分の意のままに能力を操って目標を倒すことができる上に使いこなせば範囲攻撃もでき、近接戦闘にも対応できるとまさにこの世界において戦闘のエキスパートである。
その力は世界平和を守る為、監視下に置かれ世界の為に尽くすにあるとされ、能力が発現した段階で世界政府に届け出る事になっている。
ある程度の決まった人生を送る事になるが、その報酬は一般的な家庭では考えられない金額であり、また世界平和を維持する名誉ある仕事として世間では尊敬の対象となっている為、一般的には憧れの職業として扱われている。
「あんまり怒ると眉間にシワが残りますよ?」
「余計なお世話だ! それに誰のせいで怒っていると思っているんだ!!」
ベッドに座っている少女は『う~ん』と言葉を口にしながら、右手の人差し指を口に当て難しい顔をしながら考え込んでいる。
見た目は大人に近い少女だがその見た目と裏腹に子供っぽい行動を取る。
「……分かった! もしかして私?」
「当たり前だ!! セラ以外に誰がいるんだ!」
(だいたい二人しかいない部屋で俺がセラ以外に誰に怒るって言うんだろうか。この場面で俺がセラ以外に怒っていたとしたら俺はおかしな人だろう)
フィルはそんな風に思いながら首を左右に振るのだった。
そんなフィルと一緒にいるセラと呼ばれる少女。
彼女はフィルと出会った一年前以前の記憶ながい。
セラがフィルと出会った時に覚えていたのは名前と年齢だけだった。
そんなフィルとセラは十三歳。
世間では十五歳で大人として見られる為、二人とも大人に近い。
しかし、今の二人のやり取りは到底年齢相応に見えないものだった。
「はぁ~……」
フィルはベッドに座っているセラと、部屋一面見渡し溜息を付く。
なぜなら、今から宿を出ようと外に買い出しに行って戻ってきたところにセラが部屋を花でコーディネートしていたからだ。
「でも、キレイでしょう?」
フィルの神経を逆なでするかのようにセラが言葉を発する。
すると、フィルの顔がみるみるうちに赤くなる。
「キレイでしょう? ……じゃない!!」
フィルはこの一年このように毎日セラに振り回されているのだった。
かつてのフィルを知っている人物が見たらびっくりする光景だろう。
「あっ、フィル君あんまり怒ると能力が暴走しちゃうよ?」
「だから、誰のせいで怒ってると思っているんだ!」
「フィル君、どうせなら前の花火みたいにキレイな能力使ってくださいね?」
「俺は見世物じゃねぇぇぇ!!!」
そこにある姿は幼い少年と少女の痴話喧嘩。
『永遠の炎』と呼ばれていた面影もなく、フィルとセラ、二人の少年と少女は言い合いを続ける。
そんなフィルは五歳の時に能力が覚醒した。
その時、フィルの両親は喜び、すぐに街の市長に世界政府に連絡を取ってもらい世界政府から使者が送られてフィルの能力の確認に来るはずだった――。
――――――
「フィル、あなたはすごい才能の持ち主なのよ?」
「そうだぞ! フィル、おまえは我が家の誇りだ!」
そう言って能力が覚醒したフィルを両親は褒める。
しかし、両親と離れて暮らさないといけないと子供ながらに気づいていたフィルは素直に喜べなかった。
「……大丈夫よ。お母さんとお父さんはいつでもあなたの事を想っている。必ず会いに行くから」
「そうだ。私たちはフィルの事を大切に想っている。なぁに、すぐにフィルの近くに引っ越すさ」
「お父さん……お母さん……」
フィルの不安を察知して両親が抱きしめる。
そんな両親の腕の中で、フィルは目を閉じ両親の温かさを感じていた。
『コンコン』
その時、何者かが玄関でドアを叩く音が響き渡る。
「もう来たのかしら? はーい」
フィルの母はそう言ってノックされた音のする玄関に向かった。
「どちらさ――」
次の瞬間、フィルの母は突如現れた黒づくめの男にナイフでお腹を刺され、フィルの母の血が一面に飛び散る。
「た、助けて……」
「マリア!?」
フィルの父はフィルの母の名前を叫びながら駆け寄る。
しかし、フィルの母マリアを刺した男はとどめと言わんばかりにマリアの喉を切り裂く。
「や、やめろ~!!!!!」
首から血が噴き出すマリアを見たフィルの父さんはマリアの元に駆け寄り抱きしめる。
しかし、次の瞬間フィルの母マリアを刺した男の後ろから別の黒づくめの男が現れその男がフィルの父の背中を刺す。
「ぐっ!?」
そう言ってフィルの父もその場に倒れる。
そして、黒づくめの男は倒れたフィルの父にとどめをさすように首を掻っ切る。
いつもの見慣れた空間に広がる見慣れない赤い色。
そして広がる鉄錆の臭い。
フィルはその赤いものが広がる様子をまるでフィルは悪夢を見ているかのように眺めていた。
さっきまであった平穏は一気に崩れ去り、フィルの目の前に広がるのは両親の亡骸と両親の血。
和やかな家庭は一転して壊された。
そしてフィルの中で何かが壊れた。
「今回のターゲットはガキか。まぁ覚醒したばっかのガキだし大丈夫だろうけど気を抜くなよ、相棒?」
「あぁ、まぁいざとなった俺ら二人の能力を遣えば大丈夫だろう」
「確かにな。そこのガキ! 大人しくしてろよ?」
黒づくめの男二人はニヤニヤと笑いながらフィルに近寄く。
(コイツラガトウサントカアサンヲ?)
フィルの心の中で自分とは思えない声が響く。
「よし、いい子だ。素直に言う事を聞いて俺達について来い」
(ナゼ? ナゼトウサントカアサンシナナイトイケナイノ? ホントウニシンジャッタノ? ……ジャアオマエタチモシンジャエ!)
フィルの中で何かが弾けたのを表すように、フィルの身体の周りを赤い炎が覆う。
「な、なんだ!? 能力の暴走か!?」
「おい! やべぇぞ! こうなったらやっちまおう!」
黒づくめの男二人は慌てふためき、自らの能力である風と水の魔法を発動させる。
でも、それはフィルには全く関係なかった。
二人の発動した魔法は、フィルを覆う炎の壁の前に無残にも消え去る。
フィルは能力の暴走により、身体に巡る力を能力へ変換し発動していた為、男が放った風の刃だけでなく本来なら相性の悪い水球でさえかき消したのだ。
「い、いったいなんなんだ!?」
「た、助けてくれぇ!」
次の瞬間には炎が二人を覆いすべてを焼き尽くす。
二人だけでなく、フィルが過ごしてきた思い出が詰まった家も全部フィルの父と母の血と同じ赤い炎が一面を焼き尽くす。
そして、フィルは黒づくめの男二人が燃える姿を見ながら気を失った――。




