輪廻
マウラのマンションのソファ、あれがエデンだとするならば、それは、一瞬のうちに破壊されるものだ。受験も一段落し、マウラの誘いにマンションを訪れる。ドアをノックするまでもなく、開け放っていたので、そのままはいると、何もない真っさらな空間で、奥に制服を着たマウラが裸足で立ち尽くすだけだった。僕は、泣き出しそうになった。
よぉ、なんでそんなに感情に浸ってんだよ!
そんなことはないさ。
僕が自然と涙を流しているのをマウラは察知し背中を擦られたので、お互いにその場で座った。
しょうがないことはしょうがないんだよなぁ。
まぁ、そうだな。
僕は言葉に詰まりながらも、マウラの言葉にはちゃんと返事をした。
あのソファってどうなったんだ?
あぁ、捨てられたよ。臭いってね。
僕は、あのソファでの出来事をたくさん思い出した。そして、もうここでは何もやれることはないと悟った。
僕、もう行くよ。
今日は早いな。
こんなとこにいても仕方ないだろ?
そうだ、これを受け取って欲しかったんだ。
僕はマウラから確かに僕の上履きを受け取ると、裸足でローファーを突っ込みマンションを後にした。実質、これが僕の卒業式となった。
受験については、僕とミワは案の定、同じ地元の公立大学に進むことになった。とはいえ、簡単に進めるところでもないので、それなりの達成感は味わった。マウラはというと、宣言通り、実家に近い公立大学へ進む。マリは、首都地域の最難関大学に見事合格し、高学歴としての人生を歩むことになりそうだ。いずれにしても、自分たちの通った学校が、進学校であったので、それが取り壊されるのは衝撃的ではあった。奏以下下級生はというと、一駅分向こうの地区の都市部の私立高校などに特別編入されるらしい。詳しくは分からない。それにしても一様に、総合大学に進むのは、ミワには警察官という夢があるが、それも成り行きで、大した夢を持っていないからだ。それでも、なにかしらやっていれば、自ずと明らかになることはある。マウラが上履きを盗んだように。
卒業式にマウラに上履きを盗まれて以来、ようやくこの上履きを履くことができた。さすがにミワもマウラも、この時のためだけに上履きを買った。マリも、上履きをちゃんと返してもらっていたようだ。ただ、一同、靴下を履いていないのだけは一貫していたので、笑ってしまった。
今からこの学校をあとにする。もう二度と帰ってこれない場所だと分かっているから尚更、思い出に浸ろうなどとは考えなかった。あのソファをエデンと言い始めたのは誰だったか。ただ、マウラと会う限り、何度でもエデンは蘇らせることができると確信していたので、安心して旅立った。
◇
時は2063年。大学に入ってしばらくして、もしかしたら使い古した上履きならどこかのマニアが買ってくれるだろうと思い立ち、焼き砂糖名義でネットオークションで上履きを出品した。しばらく待っていると通知が来た。見てみると、なんとマウラ名義で100万円で決済されていた。突拍子もない出来事に、全身がザワザワとしたが、買ってくれる人がいるわけだから丁寧に梱包して送りその返信すると、あとで100万円を取りに来るので使うなと返信が来た。さらに首都郊外の駅で落ち合いましょうと来たので、日時と場所を決めた。その間、本当に100万円が振り込まれたので驚いたが、おそらくこれを使うとあとで何をされるか分からないから、触れることは一切なかった。
ついに、その日が来て、待合場所でしばし休憩していると、素足にサンダルを履いた女性がこちらへ近づいているのに気づいた。ふと見上げるとマウラだった。




