第30話② 六大魔王降臨 後半(★イラスト有)
その日の夜。
瑠璃温泉、ホテルびわ荘。
三人は訓練の汗を温泉で流し、浴衣姿で団欒室へ戻っていた。
夕食は近江牛のステーキ。腹一杯食べて満腹である。
雷太はソファへ身体を投げ出し、腰へ手を当てる。
「生き返ったぁ……。料理もうまいし最高やなあ。温泉なかったら、明日もう動けへんで。」
姫乃は冷蔵庫から取り出した水を飲みながら、呆れたように言う。
「訓練が終わった直後まで、もう一回雷脚するって騒いでた人が何言ってるのよ。」
「新しい技を覚えたら使いたなるやろ。」
「木に突っ込んだタケルよりは、うまく止まれたしな。」
タケルはアイスを食べる手を止めた。
「まだ言うの?もうツッコまないよ?今は風脚使いこなしてるからね?」
「三回は言う。タケルがずっこけるところ珍しいもんな。」
「依絵さんも三回見て笑ってたし。」
「もう忘れてよ……。あの技結構難しいんだからね?」
三人の間に、久しぶりの明るい笑い声が戻った。勝家との力の差は、まだ大きい。それでも、昨日までにはなかった技がある。次に戦えば、少なくとも一矢は報いられる。そんな小さな自信が、三人の胸に生まれていた。
◇
同じ頃。
安土城魔王学園校長室。
信長は椅子へ深く腰掛け、勝家からの報告を聞いていた。
「勇者三名。いずれも若く、未熟。されど伸びしろは大きいものと見受けました。」
勝家が深く頭を下げる。
「特に中央の剣士。敵の動きをよく見ております。」
「ほう。」
信長は楽しそうに扇子を開いた。
「やはり、面白き者どもじゃの。」
ルシフェルの声が頭の中へ響く。
『今のうちに潰しておくか?』
「急くな。若木は、伸びてこそ切り甲斐がある。」
『趣味が悪いな。』
「そなたにだけは言われとうないわ。勇者もののお約束じゃよ。勇者を倒してもすぐ次の勇者が現れる。それなら、コントロールできる間は泳がせておくのが一番じゃ。」
『そう言ってる内に手が付けられんようになるやもしれんぞ?』
勝家は、また校長が一人で言い合いを始めたと思い、黙って視線を逸らした。
信長は咳払いを一つする。
「勝家。」
「はっ。」
「そなたは今後も、わしの側におれ。そして各地で何かあれば、魔馬で駆け付けよ。六人のうち、誰かが窮地となった時もじゃ。」
勝家は胸へ拳を当てた。
「この勝家。いずこへなりとも馳せ参じまする。」
『便利な使い走りだな。』
「聞こえておるぞ、ルシフェル!」
『勝家には聞こえていない。』
「なお悪いわ!」
勝家は、いよいよ校長の具合が悪いのではないかと少し心配になった。
信長は扇子を閉じる。
その音が、校長室へ鋭く響いた。
「では始めようかの。」
空気が変わる。ルシフェルの声からも、先ほどまでの笑いが消えた。
『本当に、六人とも呼ぶのだな?』
「当然じゃ。学園が一校だけでは、天下統一とは呼べまい。それにそろそろ十兵衛にも会いたいしのう。」
『すこしは理由が校長らしくなってきたな。と思ったら十兵衛?あのいっしょにおった明智光秀とかいう奴か。』
「そうじゃ。あやつはああ見えて頭は誰よりも切れる。わしへの忠義も厚い。よい参謀になってくれるじゃろうよ。」
『本能寺の変は明智光秀がお主を殺したことになっておるが?』
「歴史は勝者が作る、じゃ。本能寺の変の勝者は秀吉。敗者はわしと光秀。本来はただそれだけのことじゃ。それを後世まで面白おかしく騒ぐからおかしなことになっただけじゃ。」
『まあ、確かに勝者が敗者を謀反人と呼ぶことなど普通だからな。しかし冤罪を着せられて光秀の子孫が450年も苦しめられたのはさすがにやり過ぎだな。』
「殿、其れがしは?」
「勝家は、わしの近衛大将じゃ。わしの身を守れ。」
「はっ。この勝家、命に代えましても殿の命守ってみせまする。」
『勝家は他に使い道なさそうだしな。』
「だからそういうのやめろ。」
信長は立ち上がり、安土の夜空へ手を伸ばした。
「目覚めよ。わが六大魔王。」
◇
その瞬間。
滋賀県内の六か所で、巨大な黒い魔法陣が同時に展開した。校庭を覆い。校舎を包み。夜空へ届くほどの黒い光の柱が立ち上がる。一つ。また一つ。
安土城魔王学園を覆うものと酷似した巨大な結界が、県内各地の高校を呑み込んでいった。
結界の内側。六つの闇の中で。六人の男が、ゆっくりと目を開く。
伝説の忍者。猿飛佐助。背後に妖狐王九尾。
若き名将。蒲生氏郷。背後に獣王ライオンキング。
信長を裏切り、滅びた武将。浅井長政。背後に竜王ドラゴンロード。
謀反人の名を背負った知将。明智光秀。背後にエルフ王。
主君への忠義を貫いた官僚武将。石田三成。背後にドワーフ王。
そして天下を奪った男。豊臣秀吉。背後に魔蟲王アラクネ。
六人の背後には、それぞれ異なる魔王級魔族の影が重なっていた。人の魂と魔王の力がゆっくりと一つに結ばれていく。ちなみに勝家は背後に鬼人王オーガキングが結合している。
信長は安土城の天守から、遠く立ち上がる六本の黒い光を見渡した。
「これで六つの魔王学園が生まれた。ここより先天下統一の始まりじゃ。」
ルシフェルが静かに笑う。
『大魔王校長らしくなったではないか。』
「今頃気付いたか。フフフ。ハハハ。アーハッハッハッハッハッハ!」
◇
ホテルびわ荘団欒室。
タケルが二つ目のアイスへ手を伸ばそうとした、その時だった。
三人の腕時計型情報端末が、一斉に激しく鳴り響いた。
ピーピーピーピーッ!
「えっ?」
三人が同時に立ち上がる。大型モニターが自動で起動した。
勇者本部。依絵も菊理も、顔色を失っていた。
「緊急事態です!」
依絵が叫ぶ。
「県内六か所で、新たに大規模な魔力反応を同時に確認!」
菊理が地図を表示する。滋賀県内へ、六つの赤黒い光点が浮かび上がった。
「すべて高校を中心として。巨大結界が拡大中です。反応規模はすべて魔王級。」
雷太がモニターへ詰め寄る。
「六って……。勝家みたいなんが、あと六人おるってことか?」
思金子は答えなかった。否定できなかった。月夜実が静かに指示を出す。
「勇者本部。警戒態勢を最高レベルへ。関係機関へ通達。一般人の避難を最優先してください。」
「了解!」
依絵と菊理が一斉に端末を操作する。
その時。
団欒室のテレビ番組が突然中断された。
緊急速報。
赤い帯が画面を横切る。
『滋賀県内の複数の高校で、安土城高校と同様の巨大結界が発生しました。警察、自衛隊および県の対策本部は、周辺住民へ直ちに避難するよう呼び掛けています』
中継映像へ切り替わる。夜空を貫く黒い光。結界に呑み込まれていく校舎。避難する人々。サイレン。混乱する道路。
姫乃は口元へ手を当てた。
「そんな……。」
タケルは、先ほどまで見つめていた神剣を強く握り締めた。
「僕たちやっと勝家さんと戦う方法を考え始めたばかりなのに……。」
ボソッ(でも他の戦国武将さんにも会えるのかな?誰がくるのか楽しみ、いや心配だなあ。ウフフ。)」
雷太が叫ぶ。
「くそう、やられたわ。」
モニターに映る六つの赤い光点。そのすべてが、勝家に匹敵するかもしれない。
思金子が静かに告げる。
「六大魔王。降臨を確認しました。」
姫乃は震える声で呟いた。
「これから……。いったいどうなっちゃうの……?」
# 第一編 大魔王校長誕生編 完
ここまでお読みくださり有り難うございました。第二部開始まで少しお時間いただくかも知れません。出来るだけ早く再開できるようにいたしますので、よろしくお願いいたします。
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