あとがき
はじめまして&こんにちわ。この作品を書いた、作者の雪宮鉄馬です。このたびは、本作品を最後までお読みいただき、まことにありがとうございました。皆様に読んでいただけたことを、とても嬉しく思っております。
今作、「千年の約束を君に」いかがだったでしょうか? まだ読んでいないけど、とりあえず「あとがき」から読んでみた。という方は、是非はじめから読んでみていただけると幸いです。「あとがき」には多少のネタバレも含みますので……。
さて早速ですが、「あとがき」と言う名の「作品解説」に行ってみたいと思います。
まず、この物語を書き始めた最初の動機は、恋愛ものを書いたことがない。ならば挑戦してみようじゃないか、と言うところからスタートしました。舞台が平安時代なのは、まず最初に水干姿の主人公のイメージが浮かんできたからです。ここから膨らませる形で、物語の骨子が組みあがっていきました。
もっとも、平安時代の恋愛小説といえば、紫式部の『源氏物語』という、ある種の金字塔があります。わたしは、高校の古典の授業でやったところしか知りませんが、五十巻近い大長編のあの作品に、太刀打ちできるはずもなく、そこは独自のエッセンスを加えながら物語を作っていこうと決めました。
その過程で影響を受けたのは、ずっと昔に観た事がある、酒見賢一原作の『雲のように、風のように』というアニメです(ちなみに、原作の小説は『後宮小説』というタイトルです)。『雲のように~』は架空の中国王朝を舞台としているのに対して、こちらは架空の平安時代を舞台に物語進めて行きました。
その上で、「千年の約束を君に」と言うタイトルの通り、出会い~別れ~千年後に約束を果たす、と言う物語の展開は、予め考えていた部分です。では、別れの部分をどのようにするのか……。そこに、わたしなりのエッセンスを盛り込みました。それが、今作のもう一つのテーマである「朝惟の反乱」です。
非常に辛辣で残酷なシーンの連続に加え、次々と登場人物が死んでいく。もはや、これは恋愛ものなのか? と思った方も少なくないと思います。しかし、わたしとしては、争乱の果てに交わされる千年の約束に重点をおきたかったのです。つまり、わたしの主張としては今作は「恋愛小説」なのです。また、朝惟と桜が西寺で対面するシーン。ここで、二人が交わす言葉には、わたしの想いも込めています。戦を起こすことが正しいことなのか、政治や為政者とはどうあるべきなのか。そういった堅苦しい話ですので、その解釈は読まれた方にお任せしたいと思います。
逆に言えば、本作は「恋愛パート」と「軍記パート」の二軸で進め、そのどちらにも、桜と春が係わり合いを持つという、非常に面倒な内容になっているとも言えます。そのウェイトをどちらにおいたのか、と訊かれると、わたし自身は「恋愛パート」に非常に時間をかけましたが、文字数的に言えば、「軍記パート」の方が多いと言う結果になってしまいした。
そうして、出来上がると、なんとこれまで書いてきた小説でもっとも長編であり、また、苦手な三人称文体と、時代背景に合わせてカタカナ語を使わない(一箇所だけ、使ったことがありますが)という、縛りにとても苦戦しました。
平安時代の時代考証なのですが、これは手元の資料と、ネットで随分調べ上げながらやっていきました。所々、実際の平安時代と違うところは、わたしの調べが足りない部分です。あと、五巫司や、何故か一月の儀式であるはずの「賭弓の儀」がサクラの咲く季節に行われていたり、平安末期には崩壊している羅城門や西寺が出てくるところなどは、意図的に物語に沿うように改変しました。また、セリフなども、なるべく現代語に近いしゃべり方をさせるように、注意しながら書いていきました。
ちなみにお気づきになられた方も多いと思いますが、今回の登場人物の名前にも、ある法則(?)があります。と言っても、十五歳の女の子たちだけに限った話ですが、桜・椿・茜・桔梗・葵・譲葉・梓(最終話のみ登場)の七人の名前は、総て和歌に登場する季語の植物から取っています。
また、清浦朝惟の名前は、奥羽の武家で有名な清原氏(奥州藤原氏)と源頼朝の名前を文字ってつけています。そして、桜の母、香子の名前は、紫式部の本名と言われる「藤原香子」からとっています。これになぞらえる形で、中宮定子と中宮彰子を文字って、苓子と藤子とつけました。更に、文屋、壬生、大江、曽根と言う名前は、総て百人一首の歌人の苗字を拝借しています。もっとも、実在の人物とは何の関係もありません。
書き終わって思うことは、ただひたすらに暗い物語に仕上がってしまい、読んでくださった皆様を、欝な気持ちにさせてしまったのではないか、という心配です。もしも、この物語を読まれて、ご気分を害されたとしたら、本当に申し訳ありませんでした。
なので、気が早いですが、次回作は恋愛ものにリベンジします! 明るく、誰が読んでも「恋愛もの」だと言ってもらえるような、そういう小説にします。もう構想も練ってあるので、近々執筆開始しようかと思っております。今回の反省点と課題を次に生かせるよう、努力したいと想っております。
最後に。本作をお気に入り登録して下ったみなさま、評価ポイントをつけて下さったみなさま、そして、本作を読んでくださったみなさま、本当に、本当にありがとうございました。ご意見・ご感想などは、いつまででも受け付けておりますので、思うところや批判がございましたら是非、気軽に一筆お願いいたします。
では、次回の明るい小説でまたお会いできることを願いつつ……。
雪宮鉄馬 2010/3