第六話 悪役令嬢、宇宙帝国軍大将と張り合う
俺は腹を括って立ち上がり、クルリと振り返って
「なにかご御用かしら?」
不機嫌さを隠しもせずそう答えて、肩にかかった綺麗で長い髪を左手で軽く払う仕草をいれる。
目を開けるとそこには青緑色の髪の毛の先端しか見えなかった。
おっと、思った以上に小さかった。
ラフィリアはそこそこ背の高い設定で168センチある。
相手はたしか160ちょいだったか……。
俺は視点を下げて少年にしか見えない人物の顔を見た。
俺が目線を下げたことに、いや、どちらかと言えば女性に見下ろされたのが少し癇に障ったような顔をした。
少年は先ほどより少しむすっとした声で
「……大変恐縮だが、講堂にはどっちにいけばよろしいか?」
予想通りの人物がそう質問をしてきた。
若干15歳で宇宙帝国軍大将となったライヴァーン・セイナーであった。
まるで少年と見紛う容姿。
サラサラの髪、大きな目。
繊細そうな陶磁器のように白い肌。
多くのお姉さま方を魅了してやまなかったこのゲームのショタ枠である。
ライヴァーンのシナリオで賛否両論があったのはゲーム終盤にはある程度成長すること。
少年から青年へ、そのわずかな時を楽しむ派と
永遠の少年がいいんだよ!!派に分かれてライヴァーン戦争が起こったとか起こってないとか。
さて、どう答えたものか……。
ライヴァーンは自尊心が高い、いわいる俺様系キャラだ。
12歳から特別待遇で帝国軍に召集されて宇宙海賊相手にド派手な武勲を立て、お飾りとは言え宇宙帝国軍大将までなった人物だ。
その能力も高いが同じくらいプライドも高い。
どう考えても口の悪い俺とは相性が悪い。
ここは知らないということにしてやり過ごす方がいいだろう。
俺は首を横に振って両手を天に向けて知らないジェスチャーを入れながら
≪ごめんなさい。知らないわ》
「子供の来るところではなくってよ。坊や」
と口にした。
……
はぁ……やれやれ。
俺はそっとライヴァーンの方を見る。
あ、少し俯いて顔を真っ赤にしてプルプルしてる。
おねーさま方がお熱を上げるのも少し分からなくもない。可愛らしい仕草だ。
そんな現実逃避をしていたら
「……こう見えて私は宇宙帝国軍の大将の地位にある。たしかにまだ若輩者ではあるが、君ごときに坊や呼ばわりされる筋合いはないな」
おっしゃる通りで。
彼は意外と紳士だった。いきなり襟首掴まれてもおかしくない状況なのだが少年は必死に耐えた。
謝るべきだろう。謝るべきだ、ここは。これ以上敵対するのはよくない。
≪間違えましたわ。ごめんなさい≫
「あら?それは失礼なことを言いましたしたわ。学院に飛び級制度があったなんて知らなかったんですもの」
……もうダメだな。
俺は心の中でため息をついた。そりゃ死ぬわ。こんなことばっかり言ってたら死ぬに決まってる。
少年を見ると先ほどまでの怒りが内側にしまわれ恐ろしいほど冷たい目でこちらを見ていた。
殺気がこもる。ってのはこんな目なんだろうな……。
「……ほんとに失礼な奴だな。こう見えて私は君と同い年だが?」
先ほどと打って変わって恐ろしいほどに静かな声がこの場を支配した。
はぁ……この場は腹を括ろう。
俺は面と向かってその冷たい殺気に対峙する。
こういう場合、引いたらダメだ。ライヴァーンは臆病者を嫌う。
こうなれば対等に渡り合わなければ見下される。
「あら?失礼。人を外見だけで判断するのは失礼でしたわね。謝罪は致しますわ」
俺は謝罪する意思のないのを強調した上でゆっくりと頭を下げて謝罪をする。
ライヴァーンの怒りはさらに加速したように見えるが、こちらがおとなしく頭を下げれば手出しはできまい。
俺は顔を上げた際にわざと口の端を少し上げて見据える。
挑発したのに気が付いたのだろう。抑えた怒りがどっと噴き出したのが見えるようだ。
「……大した精神力だな。お名前を伺ってもよろしいかな?レディ」
立ち上る殺気を漂わせたまま、ライヴァーンが聞いてくる。
冷たい少年ヴォイスで大人ぶった喋りをされるとちょっとクる物があるな。
「人に名を尋ねるのに自らは名乗らないのは、貴族としては恥ではなくて?」
尊大に見下して俺はそう言う。もうどうとでもなれだ。
ライヴァーンの口に邪悪な笑みが浮かぶ。
あ、そういうの見たことあるー。人って怒ると最終的に笑うよねー。
「ライヴァーン。対宇宙海賊特別艦隊司令、宇宙帝国軍大将ライヴァーン・セイナーだ」
「リィンエイム・ガイアシュナン公爵の長女、ラフィリアと申します。以後良しなに」
俺は優雅にお辞儀をして挨拶をする。さすがにガイアシュナンの名は知っていたようだ。
少し怒りが落ち着いた表情になり
「なるほど……公爵家のご令嬢だったか。なかなか豪胆な女性のようだ」
「閣下!!こんなところに。勝手にうろうろされては困ります」
少しおとなしそうな若者が息を切らせながら走ってくる。
ライヴァーンの世話係兼副官のシーリッド君だ。
不遜で自信家のため敵を作りやすいライヴァーンのせいで気苦労の絶えない好青年だ。
脇役のため若手声優を起用したのだが、その声優が鰻登りで人気が上昇してそれに引っ張られるように人気が上がったとか。
「ふん、道を教えてもらわずにすみそうだ。では失礼する」
ライヴァーンは俺に厳しい視線を送ると、息を整えているシーリッドを置いたまま踵を返して立ち去っていく。
シーリッドはそれを慌てて追いかけ
「あ、閣下、待ってください、そっちじゃありませーーーん」
……シーリッド君乙。
彼らが見えなくなったのを確認して俺はその場にう案〇こ座りをして
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……。しんど……」
大きくため息をついた。




