第四話 悪役令嬢、初っ端から絶望す
驚いて目を見開く俺。
黄色い声に気づいた男性は少し困った顔をして声を上げた生徒たちに軽く手を振ってから艶のある唇に人差し指を当てて「しーーーーっ」のポーズを取る。
「きゃあああああああ」
さっきの女生徒たちがピョンピョン跳ねながら悦び、同じように「しーーーーっ」のポーズを取った。
男が正面を向いて正門に歩き出した時、立ち止まって驚いている俺と目が合う。
俺はすかさず目を逸らして回れ右をすると早足で歩き始める。
心の中は穏やかではない。
なんせここで彼と出会うということは……
彼はこのゲームの隠しキャラ、5人目の攻略対象だ。
宇宙アイドルグループの一人でその人気はグループ№1。
中性的な顔だが男性らしいスタイルでその人気を博している。
普通にゲームをしていると登場しないが、とある条件で入学してくる。
その条件は最初の星系経営ステータスの評価が「C」だった場合だ。
ちなみに、俺は今回「S」で先に進めている。
この初期ステータス「C」の状態はいわいる途中END、ゲームオーバーが近いことを指しており
ここからしばらくは本気で経営立て直しのため頭を使わねばならない状態だということである。
つまり現在ヒロインであるアイレーンの成績は落第寸前ということを示していた。
「まずい、まずいぞ。想定外、というかなんで考えていなかった?自分のステータス上げに夢中になって……」
俺は軽く絶望し
「俺がアイレーンではないことを失念していたなんて……」
とてつもないまぬけであった。
俺は誰もいない校舎の影に入り落ち込む。
今まで思考してきたことはランクがSもしくはBでも達成できるプランだった。
だが、あいつ、宇宙アイドル ウォルフォード・セイレーンが現れたということは確実にランクC。
なにより奴がいるということは……
「おんやぁ、お嬢さん顔色悪いでんな?ええお薬売りましょか?いやいや違法のアレな奴ちゃいますって。気持ちがすっきりする点は同じですけど、ちゃーんと薬剤流通の認可おりとるやつやから安心安全や」
圧の強いよく響くいい声は俺には聞き覚えのある声だった。
パッと姿勢を正し優雅にそちらを向く。
「いいえ、結構よ。気軽に話しかけないでくださるかしら?」
俺は声の主をキッと睨みつけた。
いや、見ただけなんだけどね。
そこにはこれまた背の高い、少し筋肉質な男が立っていた。
褐色の肌が他の生徒と違いとても目立つ。そして綺麗な金髪。だが髪質が剛毛なのだろう、ぴんぴんと逆毛立っている。
体格通り豪胆な顔立ち。気持ちの良い笑みを浮かべてこちらを見ている。
こいつも攻略対象の一人、宇宙商人デクター・ファーノイド。
「なんや、思ったより元気そうで安心したわ。美人さんが困ってると助けたくなる性分なんやわぁ。ところで制服を着てるってことは新入生ってことやろ?」
「……ええ、そうよ。あなたも……ちゃんと制服を着れないようだけど生徒のようね。貴族としての身だしなみもできないようだけど」
俺の口から嫌味込みの挨拶がこぼれ出る。
……もっと温厚にしゃべりたい。
デクターは上着は肩にかけシャツの胸元は第三ボタンまではだけて立派な胸筋が見てくれとアピールしていた。露出の高いがっちりマッチョ系キャラだ。
だが意外にも知的で計算高い。
俺の初攻略キャラで一番の推しキャラだ。
「なんや、連れないのなぁ。せっかく公爵さまの令嬢さんと一番に仲良うなって一緒にランデブゥしようかと思ったのに」
軽口を叩いている割に目つきは鋭い。品定めをされているのがひしひしと感じられる。
仲良くなるまではこういう飄々とした男だが親密になると一転男気あるれる不器用な男と判明する。いい奴なんっすわ。
俺は心の中でそう考えながら
「ふん、あなたみたいな軽薄そうな方とは関わりたくないわ。では失礼いたします。買収貴族さん」
俺の口から素敵な嫌味が飛び出す。
ああ、こりゃ敵対関係ですわ。
心の中で涙がでた。
これ以上いらぬことを言わぬために俺は黙って軽く会釈をしてこの場を去ることにする。
「ははは、思ったより骨のありそうでおもろそうなおねーちゃんや。今後は同級生やなんか困ったことがあったら相談したってや。コレ次第でなんでも都合つけまっせ」
右手の親指と人差し指で円を作ってニヤリと笑う。
俺は振り返ることなくその場を後にした。
まだ入学式もはじまってないのにこうも主要キャラと遭遇するとは。
基本、アイレーンでは入学式後にそれぞれと出会うイベントが起こる。
「こういうところも違うのか」
俺の絶望はどんどんと広がっていく。
今まで考えてたプランは水の泡。というかこのまま行くと俺の死は確定するんじゃねーのか?
俺は少し気分が悪くなる。
「ラフィリア!!探したよ。こんなところにいたのか!!」
俺はさらに聞き覚えのある声を聞き、少しうんざりして声の方にゆっくりと振りかえった。