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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第六章]オルレアン連合総合軍事演習
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公開演習、初日③


「三日目のリンクス同士の模擬戦を相手してもらっても構わないかな?」


 目の前にいるクラリス殿下からそんな言葉が出てきました。


 皆さん唖然です。私も少し驚きました。


「いやいや待って。いや、待ってください! どこででも相手にしてはいけないリンクスとパイロットですチハヤは!」


 すぐに反応したのはアルペジオです。私の容赦ない戦い方とは、相手を踏み躙るような戦い方ですからね。平気でドローン使って位置を特定して後ろに回って狙撃なり強襲なりしますし。おおよそ騎士らしくない戦い方ですし。エリザさんも続きます。


「そうですわ! チハヤとやり合うのは止めて下さい!」


 二人とも一瞬だけ目を合わせる。もしクラリス殿下と私の模擬戦が実現してしまったら。そして、為す術なく一方的に呆気なくクラリス殿下が敗北してしまったら?

 その後に起こり得るでしょう光景を想像したくないのでしょう。


「それは、どうして?」


「…………公開演習でお見せしてはいけない……です」


 理由を訊ねられ、視線を反らしながらも答えるアルペジオ。そもそも、あの速度と動きについて行けるリンクスは高スペックのリンクスが運用されがちな騎士団のリンクスでもごく僅かでしょう。

 《プライング》相手にするのに、単純な戦力比で市街地での射撃戦という条件で《マーチャーE2》が五機。《E2改(パッチワーク)》で数機必要と判断されています。《フランベルジュ》でパイロット次第。

 それ以外のデータですと、やはり帝国との交戦記録。《銀狼》との交戦ですね。だいたい接近戦でボロボロですが。


 それらを総合すれば、搦め手でリンクス五機は必要。《プライング》と同等の性能を有する機体ならば一対一においては接近戦の方が勝率は高い。


 ―――と、判断されています。


「そ―――」


「殿下。三日目の公開演習では相対する部隊は決まっております」


 クラリス殿下が何かを言おうとしましたが、後ろに控えていた栗色のベリーショートヘヤーの女性―――ステファニーさんがそれを遮りました。鋭い目で私を一瞥して、クラリス殿下に向かっていい放ちます。


「予定の変更は相手方にも失礼です。それに、いくら実績のあるパイロットとはいえ、殿下が相対してよい身分の方ではありません。何も家柄のない異世界人など殿下の相手は務まりません」


 まあ、異世界人で専用機預かっているとはいえ肩書きなしの裏口入隊な一兵士でしかないですからね、私。一応、軍隊の階級的扱いとしては戦時任官の少尉。詳しく言うと准尉相当官。実際と実態は下士官にも劣る一兵卒。もしくは炊事係兼任用務員。


「ちょっとあなた。私の部下を侮蔑するつもり?」


 その物言いにアルペジオが食いつきました。同僚が侮蔑されたからでしょう。


 私はその通りだと思うのですが、口にはしません。アルペジオに黙れと逆にお叱りを受けそうですし。


「事実でしょう」


 短く鼻で笑うステファニーさんに対し、アルペジオはそうねと肯定します。


「孤児院育ちで家柄も何もない異世界人よ、彼女は。―――でもね、それを覆せるような人物よ。彼女は『機体性能がいいから』って否定するけど、リンクス操縦は天賦の才って言えるぐらい上手で私が《フランベルジュ》に乗り換えた時、彼女のマニューバを参考にしたほどよ。その人柄だって、生まれを気にしないで接してくれるわ。話はちゃんと聞いてくれるし、気を使ってくれる。コーヒーや紅茶を淹れるのも上手だし、頼む前に持ってきてくれるほど。訓練だって気を抜かずに真剣に取り組む。そこらの家柄だけで騎士団に入ったり役職手に入れるような連中とは違うわ」


 べた褒めじゃないですか。


「《セラフ騎士団》団長―――クラリス殿下の演習相手として務まるか、なんて愚問よ。小隊長としては相対させたくはないけれど、充分務まる腕よ」


 私の名において保証するわ、とアルペジオは啖呵を切りました。

 ストラスールの王女様が保証する、なんて言いきったからでしょう。ステファニーさんは口をパクパクさせました。どこか図星か正論かがあったんでしょう。


「ふふ、それはますます興味が沸くな?」


 そう口を開いたのはクラリス殿下です。どこか楽しそうにステファニーさんを見ます。


「ステファニー。私は是非彼女と戦ってみたいんだ。こんな人物で、短期間でいろいろと戦果を出している人だぞ? この人が噂通りの戦い方をするとはとても思えない、―――だから戦ってみたい」


 気になって仕方ない、と言いたげです。


 私としても三日目は暇ですし、別に構わないのですけれど。

 ちらり、とアルペジオへ視線を向けると――――その表情はいけません。私以外見えてないのでいいのかもしれませんが。


「私が所属するフォントノア騎士団は、公開演習の抽選から外れているのですが……」


 とりあえず諦めて貰うべく口を開く。

 機体と装備、ペイント弾は持ち込んでいますが、予定変更で参加はとても出来ないでしょう。


 三日目のリンクスの公開演習は総合軍事演習で最も注目が集まると聞きます。それこそ騎士団から地方の一部隊までが応募するほど人気の演目とも。

 まあ、先程口にした通り私の所属するフォントノア騎士団は抽選落ちしてますが。


 まあ本音は、私や《プライング》の機密事項が広まる可能性は出来る限り避けたいからですが。


「そこは私の権限をフルに使って、エキジビション設ければいい」


 さも当然のように言わないで下さい。本当に実行しそう。


「お待ち下さい殿下。それでは――――」


「それぐらい問題ないだろう? リンクスの戦闘時間は―――」


 そして部下のステファニーさんと言い合いを始めました。私の意見は聞かないか、聞く必要はないか。


 少し言い合って、ステファニーさんがこちらに向きました。


「ではこうしましょう。こちらは殿下と私、そしてそこのレイラを含めた三機。彼女は一機での相対です」


 そう隣に立つ明るい茶髪の女性を指しながら提案しました。レイラと呼ばれた女性は目を見開いて私も?と無言で自分を指しました。巻き込まれです。

 少し同情。


 私不利ですね、なんて呑気に思うのと、


「彼女が不利ではないか!」


 憤慨するクラリス殿下の声が飛ぶのが一致しました。一対一(サシ)がお望みだったのでしょう。


「そんな不粋な事をするな!」


「こんなぽっと出の、得体のしれない人物と殿下を一対一で戦わせる訳にはいけません。いくら腕の覚えがあるパイロットとはいえ、異世界人。それなりの能力は見せてもらいませんと」


 そうステファニーさんは言いました。


 殿下と相対したいのならば、私達を倒してからにしなさいとでも言いたげです。むしろ言ってますか。


 そうする理由はきっと、まあ色々とあるのでしょうが、恐らくは殿下が負けてしまう事は起こしてはいけないという保身じみた考えでしょう。クラリス殿下の意思に関係なく。


 クラリス殿下を見ると悔しげで不満げな顔を浮かべています。


 そんな表情を見ると、なんとか叶えて差し上げませんと、と思ってしまうのが私という人間でして。


 どうしたら殿下の納得のいく事が出来るでしょうか? 装備と戦い方でなんとか―――出来ますね、はい。よくよく考えたら一対複数とかいつも訓練でやってるじゃないですか。


 それに思いの外、いい案が浮かびました。なら当日実行すればいいですね。


「いいでしょう。その条件で」


 優雅に微笑みながら快諾します。


「…………え?」


 間抜けな声を上げたのはステファニーさんです。断ると思っていたのでしょうから当然です。


「待ってチハヤ。これは断って?」


 何かひきつった笑顔で私の肩を掴むアルペジオ。


「貴女の戦い方は不味いわ。王族に泥を塗る気? やめてそれはやめて本当にやめて」


 焦りながらも小声で引き留めにきました。きっと冷や汗だらだらでしょう。

 ああ、見てて面白いですよね、アルペジオの反応。


「いや、良くないだろう。三対一だぞ? こちらなんて数的有利で卑怯だぞ」


 不満を隠す事なく言うクラリス殿下。


「戦闘で卑怯なんて言葉はありませんし、私は思いません。それで無様に負けるなら私が弱かっただけです」


 そう答えて、ステファニーさんを見据えて啖呵を切ります。


「別に構いませんよ? 三対一でも」


 そうして、三日目の午後。リンクスの模擬戦にて。

 急遽、第一騎士団 《セラフ騎士団》団長、クラリス・エルフィンストーン殿下率いるリンクス三機小隊と、第八騎士団 《フォントノア騎士団》所属パイロット、チハヤユウキこと私のエキジビションマッチが公開されることが決まりました。


 アルペジオが頭を抱えたのは言うまでもありません。


 もちろん、私はこぴっどく怒られましたとも。





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