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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第六章]オルレアン連合総合軍事演習
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公開演習、初日




 黒い尖鋭的なリンクス、《プライング》の狭いコクピット内。

 私はいつもの、バイク型の座席に跨がるのではなく横向きに座る形でモニターにウィンドウで映された映像を眺めていました。


 ウィンドウ表示されたそれには、今現在、公開演習で行われている戦車が行進間射撃している光景が映されていた。

 普通ならライブで見ることなど出来ない映像なのだけれど、このトリックは簡単。

 HALがセントリーロボットで捉えている映像を、《ウォースパイト》からの回線で《プライング》のモニターに映しているだけです。


『なかなかの精度と連射性を持っていますね。44口径120ミリ砲、及び自動装填機構搭載の戦車としては平均的な部類でしょう』


 コクピット内に、男性の淡々とした合成音声が流れる。当然、HALの声です。


『しかし、21世紀の日本陸上自衛隊の10式戦車ほどコンパクトではないですね。まあ、日本の地形が厳しすぎるのですが』


 そんな評価を聞きつつ、今行われている演習の中継を眺めるのを止めて、正面を見る。


 360度見渡せる全天周モニターは、《プライング》周囲の光景を映していました。

 私の正面―――機体の右隣には赤い優美な装甲を持ち、ツインアイを保護する透明なバイザーを装着したリンクスが二機、片膝立てた姿勢で座っていた。試作リンクス《フランベルジュ》です。

 左隣には均整の取れたシルエットをやや崩したリンクス、《マーチャーE2改》が、《フランベルジュ》と同じ姿勢で座っている。


 足元には―――《プライング》が保持するライフルより数メートル先に、これ以上近づかないようロープで仕切られた向こう側には、沢山の人集りが。子供、大人が入り交じってこちらを見上げていました。数としては大人の方が多いでしょう。カメラやフサフサの風防を付けたマイクを持っている人がそれなりにいるので多分マスコミ関係者。


 出たくないんですよねぇ……、なんて思いながら、人々を見下ろすのでした。



 オルレアン連合総合軍事演習当日。

 その一日目。

 朝から雲一つない青空の下、オルレアン連合軍の兵士たちが公開演習したり、兵器の展示をしていた。


 演習場では戦車や装甲車等の戦闘車両が展示走行や射撃していたり、戦闘ヘリが地面に設置された仮想目標へ対地ミサイルを放ったり、航空機が訓練弾を地面に落としたりしていました。


 展示スペースでは、小さい物はバイクから大きい物は人型機動兵器、リンクスまで展示されています。

 軍人と子供たちがバイクや車両の隣で写真撮影していたり、軍事マニアでしょうか、車両やリンクスをあらゆる角度からカメラで撮影する人も居ます。


 その中で一際目立つのは、オルレアン連合の騎士団所属リンクスのコーナー。


 本日やってきた10ある騎士団の内、七騎士団。各五機ずつが青空の下、一機(プライング)を除いて片膝立てた駐機姿勢で公開されています。

 来ていない騎士団は第三と第六。再編、及び錬成中の第五。


 それ以外の騎士団はここに機体を展示しています。


 大半の騎士団は量産機である《マーチャー》、その《E2型》のカスタム機がほとんどですが、一部の騎士団は独自のリンクスを生産、運用しているようでした。


 まずは。


 オルレアン連合、第一位国。《クナモアリル》(※封建的な制度の王政国家。オルレアン連合五大国で最も大きい国)が編成した第一騎士団、通称を『セラフ騎士団』。そこでは独自に生産したリンクスを運用しているようでした。

 五機いる内、四機はゴーグルタイプの頭部を持つリンクスでした。全機とも通信能力強化目的なのか、ツノ型のブレードアンテナを装備。避弾経始を考慮したのか湾曲した面と傾斜が混ぜられていて独特のシルエットをしている。左肩にはシールドを懸架していて左腕はほとんどフリー。大腿部は《マーチャー》と比べて肥大化していて、膝下の細さがアンバランスさを醸し出しています。


 私の視線を《プライング》に搭載された《ビビキ》が読み取ったのか、その四機の内一機を拡大。小さく《KL-06A アーバイン》と表記してくれました。インプットした情報から引き出してくれたようです。小さく注釈で、『該当機体、及び類似機との交戦記録なし』と書かれています。


 最後の一機は兵器らしくない、きらびやかな機体です。

 機体色は白。所々に金の装飾が施されています。平面よりも曲面の多い装甲と羽をあしらったような装甲が各所に。全体的なシルエットはスマート。暗転していますがツインアイ方式。頭部にはループ状のアンテナ。

 背部にはブースターユニットなのでしょうか、翼状のユニットが。そこには片側三枚、両翼合わせて計六枚の薄いナイフのような板が生えています。小さなブースターのノズルが見えるので飛行の補助スラスターでしょうか?

 シールドはやや小型で厚い。その上部にはブレードのグリップ部が覗いているので鞘も兼ねているようです。ライフルは機体に合わせているのか細身で装飾が施された観賞用のよう。HALが見たら『戦術的優位を感じられない』と酷評するでしょう。


 こちらも《ビビキ》が視線を読み取ったらしく、《UKF-929 ミカエル》と表記してくれました。《アーバイン》と同様、その機体とその類似機の交戦記録はない。型式の違いから、開発元が違いそうです。

 ―――というか、名前が天使ですし、異世界から来て其のままの機体か、《ノーシアフォール》から偶然回収した設計図からですよね。


 次に。


 オルレアン連合、第二位国。《ソルノープル法国》が設立した第二騎士団、通称を―――法国出身者以外は『ヘレナ騎士団』。法国出身者やその騎士団に所属する人達は『ヘレナ第二聖典』と呼ぶそうです。

 その理由は、法国自体がティリエール教の総本山にして聖地ニコラを首都とする宗教国家であり騎士という制度や概念を持たないから、らしい。それでも周りから騎士団(・・・)呼びを認めているのは周辺国の認識しやすさへの配慮だそう。本国には『第一聖典』なる部隊もあるそうな。


 話を戻して―――ここも独自開発のリンクスを運用しているようです。


 まず五機いる内の四機は一風変わった機体です。

 頭部は人とそう変わらないのですが、中央にモノアイ、左右にアイタイプの光学センサの複合式。そして透明なバイザーで顔を覆っています。そして無骨な胴体に埋もれているという印象を持たされるような、左右の装甲。他のリンクスと比べると大きい胴体と、それに似合わない、平均的なリンクスと変わらないサイズの手足。

 ……卵に頭を埋め込んで手足を取って付けたような、と説明すれば適切なグレーの量産機でした。


 表示された機体名は《チェトラリー》。型式は《FW5》。


 ……《チェトラリー》って確か、英語で守護者という意味だった気がします。もしかしたらこの機体も異世界設計の機体なのでしょうか。数からして量産しやすいのかもしれません。


 残る一機は、そんな無骨で卵形の胴体を持つリンクスとは違って、全体的に華奢。デイビットが乗ってきた帝国の格安リンクス、《ヴックヴェルフェン》よりは華奢ではないけれど、それでも《マーチャー》や《ヴォルフ》よりは細い。ただ、肩の装甲が大きく、その全体的なバランスを崩している。

 それ以外は、その外観は兵器らしくない、女性のような印象があります。よく見るようなツインアイ方式の頭部に短いツインテールのようなスタビライザーが着いていて、より女性らしさを醸し出しています。装甲の色は黒にサブとして前腕部や大腿部に黄色のラインが引かれている。

 あとはオルレアン連合で普及しているライフルとシールドを装備した、至って普通のリンクスだ。


 その機体は《エレオス》と名前のようです。型式は《MBD-47》。


 あとの騎士団は《マーチャーE2》を配備しているようです。個々にカスタマイズして自分専用みたいにしているのがありありとわかります。それだけ《マーチャー》の基礎設計が優秀、ということ。


「または、異世界製の高性能リンクスを使いたくても製造コストがかさむから運用出来ない。もしくはパーツの生産が困難だから、ですよね」


 私が乗る《プライング》は偶然にも設計図が一緒にあったから、コストはともかくパーツ単位で製造出来るから運用出来るのだけれど。


「HALは見覚えのある機体はありまして?」


 何となく、通信が繋がっている相手に訊ねてみます。一応、HALは《プライング》等のリンクス―――正確にはフレームウェポンと呼称されていた人型兵器が存在した世界の出身ですし。


『《チェトラリー》と呼ばれる機体は知っていますよ。私の世界では、アメリカ陸軍正式採用の五世代型です』


「五世代?」


『はい。―――こちらの世界では《ノーシアフォール》から出現、回収されるの経緯でリンクス技術が飛躍的な進歩を遂げている影響で世代的な認識が出来ないのでしょうが、当然ながら世代ごとにリンクスの性能や設計思想が違います』


 曰く、この世界のリンクスはHALの世界基準では第五世代相当だそうです。


 第五世代だと先手必勝がコンセプトらしい。全高は十数メートル。5000kw以上の出力を持つフェーズジェネレーターを搭載し、駆動系は人工筋肉へ完全移行。ブースターによる最高速は500キロオーバーがデフォルトとなるそうな。


 蛇足で、六世代の計画もあったそうで、それは更なる機動力の底上げやペイロードの上昇になる予定だったとか。

 もし、HALの世界で人類が滅亡しなければ、《XFK039》、つまりは《プライング》が初期の第六世代機になったかもしれないそうです。


『まあ、今となっては確かめようがないことですが。――ところでチハヤユウキ』


「はい。なんですか?」


『《プライング》の前だけ人集りが違うのですが。遠くから見ても人が多いですよ』


 その指摘に再度正面、下を見る。確かに、HALの言う通り人が多い。対して隣の《フランベルジュ》、アルペジオやエリザさんのところには人は少ない。

 肝心のアルペジオとエリザさんは私の知らない人と話してますが。


「真っ黒な機体が目立つのでしょうか……?」


 黒い機体は二機しかいないですし。


『しれっと言いますね。いつぞや、《FK075 バイター》のコア機を一対一で撃破した機体だからでしょう。その関係の報道を見ていないのですか?』


 HALが知れた範囲では―――。


 乗る機体と、救助活動する後ろ姿しか写真に収められていないというパイロット。《ノーシアフォール》から出現、暴走した無人機の撃破。被害にあったメニヘテルにたった三日程度の滞在。しかも救助活動でほとんどメニヘテルの基地にいなかったのでどんな人物なのか、知る人はフォントノア騎士団の人のみという状態。

 報道機関が要請しても会う事が出来なかった、正体不明の人物。


 それが、世間の皆さまの私への認識だそうです。


『まあ、チハヤユウキの性別を悟らせない為の、技研の情報工作ですね』


「……いくら研究対象のリンクスを取られたくないからって、そこまでやりますか……?」


『まあ、貴方の性別がバレるのが怖いなら、そこまでやりますよ』


 別に構いませんけどねー、なんて思いつつ、そこまで大した事はしていないのだけれど、とも続けて言う。


 あの時、メニヘテルでの戦闘後なんて、救助活動よりもほとんどは死体集めだったのだから。

 私自身、瓦礫に挟まった子供を見つけ、助けを呼び、そこから出したこと以外は遺体を見つけて死体袋へ詰めていくだけの作業でしたし。


 そんな4ヶ月ほど前の事を思い出していましたら。


『チハヤ!』


 コクピット内に、聞き覚えのあるお腹を空かせていそうな王女様の声が響きました。もちろん高感度マイクで外の音声は拾われてるので聞こえてますとも。


 下を見ると、やっぱりアルペジオがこちらを見上げていました。その隣には先程から彼女と話していた女性の方が。その後ろにはエリザさんと知らない方が二人。

 年齢は二十代中頃でしょうか。赤い―――少し細かく表現すれば朱に近い色の髪をアップで纏めている。顔立ちはほりが深くハッキリしていて間違いなく美人の部類に入るでしょう。吊り気味の緑色の双眸でこちらを見上げています。

 全員、白の制服なのでどこかの騎士団員でしょう。


 左のスティックのボタンを押して、


「なんでしょうか? アルペジオ殿下」


『単刀直入に言うわ。是非あなたと話したいって人がいるから降りてきなさい』


 コーヒーでも飲みたいのかと思ったのですが、違うのですか。


『聞こえてるわよ。そんな訳ないでしょ』


 声に出ていたようです。しかもスピーカーで。


「失礼しました。―――平時で私を呼ぶ時はお茶とお菓子の要求でしたから、ついうっかり勘違いしてしまいました」


『しれっと言ってくれるわね……。いいから降りてきなさい』


「おや? 私が高所恐怖症なのをご存知ではなくて?」


『今日は昇降用タラップあるんだから降りれるでしょ? それと嘘はよくないわね。いつも梯子無しに危なげなくすらすらと降りてるじゃない』


 漫才する気はないし付き合う気もないわとアルペジオは肩を竦めて言ってくれました。充分付き合ってますよ、それ。


「わかりましました。少々お待ちを」


 笑うのを堪えつつ告げて外部スピーカーをオフに。


「《ヒビキ》、降りますからハッチ解放してください」


『了解しました。ハッチ解放します』


 《ヒビキ》のその合図と共に上のハッチが後ろへスライドする。外では《プライング》の頭が僅かに前にスライドして前に倒れているでしょう。


「それではHAL、聞いていたと思いますが……」


『はい。通信はこれで終わります。またセントリーロボット越しにでも』


 HALとの通信が即座に切れる。そもそも向こうの強制割り込み通信ですからね。


「システムシャットダウン。《ヒビキ》また後でね」


『了解。またの搭乗をお待ちしております、チハヤユウキ』


 その《ヒビキ》のアナウンスと共に座席正面のモニターの光が消える。それと同時に全天周モニターの光も落ちる。


 後はハッチから覗く、空からの太陽光のみがコクピットの中を照らしている。


 頭のカチューシャ状の端末を外し、右の操縦桿に引っ掛けて図上のハッチから機外へ出た。



 


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