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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第五章]来訪者たち
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亡命者



 黒く尖鋭的なリンクス、《プライング》は蹴飛ばされた針金人形のようなリンクスを捉えた。


 針金人形は建物へと激突して、動きを止める。


 その機体と同じ機体が前でゆっくりとライフルを向けた。


 ブースターの出力を最大にして、最高速に達する。景色がさらに速く後ろへと流れていって、ライフルを構えた敵機へと突貫する。


 その勢いのまま、《プライング》は敵機に膝蹴りを食らわせた。

 金属同士が激しくぶつかる音が市街地へと木霊する。


 弾き飛ばした敵リンクスへ、《プライング》は右腕のライフルを向けて3発ほど胴体に撃ち込む。


 すると、そのリンクスは爆散した。


「……リンクスが爆発した? AP弾数発だけで?」


 その光景を見て、チハヤはおかしいと思った。リンクスだって兵器であり、リンクスを構成する内部部品―――特にコンデンサや推進剤だが、条件さえ揃えば爆発物になるものだってある。

 されど、数発胴体に撃ち込まれた程度で爆発四散するようなやわな兵器ではないのだ。


「ラファールリーダー? リンクスって数発撃たれた程度で爆散しますか?」


『するわけ無いけど……。当たり所が悪かった……にしては、あっさり過ぎるわよね』


 アルペジオに訊ねてみたが、返答は疑念の色が濃い。彼女も初めてのケースらしい。


 後ろから、エリザの《フランベルジュ》が《プライング》の頭上を飛び越え、追撃部隊らしい敵機へと左腕の機関砲を撃つ。

 続いてアルペジオの機体もやって来て、盾を正面に構えて、ライフルを数発づつ撃っていく。


『それよりもラファール00、そのパイロットに亡命か訊いて』


 確かに、目下の問題はそれだ。

 もしそうなら保護しないといけないのだから。


 チハヤは外部スピーカーのスイッチを押しながら、


「―――単刀直入に訊きます。あなたはオルレアン連合への亡命を希望しますか?」


 そう訊ねた。


 その機体は、長く交戦していたからか、所々ダメージが酷い。

 胸部装甲は見事に凹んでいる。左腕は欠損しているし、頭部は右側がくしゃくしゃに潰れている。スリットから覗く二つ並んだ丸い光学センサも右側は光を灯していない。


 返答は。


『回答――――希望します』


 スピーカー越しだからか少々割れているが、澄んだ少年(・・)の声が聞こえてきた。それも、歳は離れていそうにもないぐらい、若い声である。


 リンクスに少年が乗っている? そう疑問に思ったチハヤと同じく、


『はっ? 男?!』


 驚いたのはすぐ近くにいたアルペジオだった。

 男が乗っているはずが無いから、余計に驚く。


『生物学上では、男、とされると……思われる』


 何か、自身無さそうに答えるパイロット。

 これまた、変な話し方だ。どこかで感じた既視感だとチハヤは思う。


「とにかく、動けますか?」


 接近してきた敵機へ左腕のライフルを撃って沈黙―――正確には爆発させて排除しつつ訊ねる。


『各部の状況―――辛うじて離脱は可。援護は必須』


 音読みしているかのような、淡々とした答えが帰ってきた。脚に損傷はあるが動けないほどではないし、ブースターもまだ動けるらしい。ただ、無視は出来ない状態ではあるようだ。


 右脇のサブアームでライフルを保持し、右腕を差し出て相手の右腕を掴み、立ち上がらせる。


「なら、そのまま南へ。もう少しで条約上の交戦禁止ラインです。掩護します」


 そう言って、《プライング》は敵機がいる方を向く。サブアームに保持したライフルを右手に持ち直して構えた。


 それと同時に亡命希望のリンクスは南へブースト音を響かせて離れていく。チハヤは振り返ってその機体を見るが、ふらふらと揺れていて安定した飛行をしていないその姿に不安を覚える。


「こちらラファール00。対象、移動開始しました。逃走を援護します」


 無線でそう伝えて、《プライング》は逃走機の後を追うように下がる。


『ラファールリーダー了解。ラファール02? 聞こえてたわね?』


『聞こえてましたわ。けれど……』


 エリザの歯切れが悪い。その理由は、相手の様子にあった。


『この《バッドボーン》のパイロット達。よく訓練された兵士達ではないかと思うのですけれど……。まるで死ぬのが怖くないかのような、そんな動きをしてますわ』


 彼女の言う通り、《バッドボーン》―――正確にはその量産機達は傍目には、まるで的にしてくれと言わんばかりの機動で近寄ってくるのが大半だ。

 不用意に物影から飛び出したり、無造作に接近したりとすることが多い。しかし、その割りには反応が速く、こちらの攻撃は比較的避ける。


『確かに、動きがいいわコイツら……』


 そうアルペジオが答えて、ライフルで一機撃墜する。


 すると、相手に動きが現れた。


『なっ……!』


『コイツら!』


 《バッドボーン》全機が、一斉に突撃を仕掛けたのである。二機の《フランベルジュ》を無視した動きだ。


 アルペジオ達が迎撃するが、数機が二人の横を通り抜け、《プライング》へと向かってくる。


『ごめんラファール00! 通しちゃった!』


「見てますから、正面をお願いします」


 チハヤは淡々と答えてフットペダルを踏み、操縦桿を引く。


 正面には《バッドボーン》が三機、こちらへ向かって来ていた。


「《ヒビキ》。分散ミサイル準備。滑空砲も展開」


 トリガーを絞りながら、《ヒビキ》へと指示する。


 両手のライフルを撃ちながら、《プライング》の背部サブアームに接続された武装が展開される。


 レティクルが三機の《バッドボーン》に重なり、FCSが分散ミサイルが撃てる事を告げた。


 左背部のミサイルポットの一つの蓋が開き、バックブラストを後ろに撒き散らしながら一つのミサイルが放たれた。

 僅かに飛翔してからカバーが散らばり、中に納まっていた六発の子弾が本体から離れて、三機へ均等に別れて向かっていく。


 一機は、その光景に驚いたのか動きを止めたところで二発の直撃を食らって、爆散。


 一機は回避機動を取った。が。

 《プライング》の放ったライフルの砲弾が、胸部へと直撃して同じく爆散する。

 

 最後の機体は高度を上げて、速度も上げてミサイルを振り切ろうとする。それでも追いすがるミサイルの子弾はライフルで撃ち落とした。

 逃走機へ向き直したところで、《プライング》の右背部の滑空砲が見事に直撃した。

 

「三機目、と」


 チハヤは《プライング》を後退させつつ呟く。


 視線を二機の《フランベルジュ》へ向けると、どちらもこちらへ向かって来ていた。更に向こうには撃墜された六機の《バッドボーン》の残骸が。たった二人でそれだけ撃墜したらしい。最後の機動が単調だったからかもしれないが。


『後は彼が交戦禁止ラインまで行けば勝ちね』


 《フランベルジュ》を《プライング》に並走させながらアルペジオが言った。


『あの位置なら、増援が来ても間に合いませんわ。それに不利』


 エリザが言うように、平均的なリンクスの最高速度ならもう追い付けないほどの距離まで逃走機は交戦禁止ラインまで近づいていた。その先には、団長のベルナデットや副団長のマリオンが率いるリンクス部隊もいる。


 余程の事が無ければ追い付く事も出来ないし、出来たとしても

多数相手だ。やろうもしても簡単には出来ないだろう。


「これで亡命者は無事保護、ですね」


『思ったより楽だったわね。帰ったらコーヒーよろしく』


『では、私は紅茶を』


 やれやれ、わかりましたと、チハヤが呟いた時だった。


『ラファールリーダー! 高速で接近する機影をレーダーで捉えた!』


 ホークアイ33から、切迫した声がコクピットに響く。


『機影は1! 北方向だ! 戦闘機か? 速すぎる!』


 その報告を聞くと同時にチハヤは《プライング》を真上に跳ばせる。その方角へと視線を走らせる。


『正体不明機を確認。データベース内のデータと照合開始します』


 《ヒビキ》の報告がチハヤの耳に入った。モニターでも捉えたらしく、その映像が拡大される。


「―――鳥?」


 ほぼ正面から見たシルエットはそれを連想させた。

 機体下方に、斜めに突き出た二つのパーツがその機体の奇妙さを示している。


 恐ろしく速い速度でこちらへと向かってきているそれは、瞬く間にラファール小隊三機の横へと並ぶ。


 その機体を一言で説明するなら、宇宙へ行くようなロケットを後部に取り付けた戦闘機、だろう。大きなロケットエンジンを中央に配置し、その周囲を比較的小さいロケットを四つくくりつけている。


 チハヤは、まさかと思った。それ自体は知らないのだが、用途が似ているものが知っているだけでいくつか思い浮かんでいた。


 もしそうなら、と《プライング》をさらに加速させる。



 それは、一瞬の光景だった。



 後部のロケットが散るように分解を始めて、前部と切り離される。前へプラズマの奔流が出て、戦闘機のようなそれは急に減速する。

 機体下部のカバーと安定翼のようなそれが下へと落とされ、チハヤ達にとって見覚えのある、機械の白い脚が露出した。さらに機首と主翼が爆砕ボルトで弾き飛ばされ、中に格納されていた上半身を顕にする。


 その機体は、全体的に灰と白の二色で、角張った装甲を持っている。されど無骨さを感じさせないスマートでヒロイックなシルエットでもあった。頭部には後ろへ伸びたブレードアンテナ。これでもかというぐらい全身へブースターが付いており、機動力を考えた機体だというのが判る。


 左肩の平らな面には、『十字架を咥えた狼』がエンブレムとして描かれていた。


『…………《銀狼》!!』


 アルペジオが叫ぶのと、《銀狼》のブースターが瞬くのが同時だった。


 《銀狼》は一直線に逃走中の《バッドボーン》へ突撃を開始する。

 目的は、対象の破壊だ。


 それと同時に、チハヤは《プライング》を《銀狼》の前に付かせる。


 振り返り、両手のライフルを突貫する敵機へ向ける。


 発砲。


 《銀狼》は落ちるようにクイックブーストしてそれを避ける。

 右手に持つ、マシンガンや大型の実体剣、盾を組み合わせたような武器をこちらへ向ける。


『照準警報』


 《ヒビキ》の警告と同時に右へクイックブーストして回避。


『追撃……?!』


 逃走機のパイロットが驚きの声を上げた。設定が外部スピーカーのままのようだ。


「早く行きなさい!」


 チハヤも、外部スピーカーで急かす。急かしたところで、速度差で簡単に追い付かれてしまうのだが。


 どう気を引き、僅かな時間を稼ぐかをライフルを撃ちながら思考する。

 向こうはこちらを完全な障害として認識し、排除に掛からないといけないと思わせる為にはどうしたらいいか。


「嫌がらせ、ですよね」


 独り言をぼやいて、チハヤはミサイルポッドを展開する。


 FCSが簡単に《銀狼》を捕捉し、分散ミサイルを一発放つ。

 短い距離で六発の子弾へと分れ、目標へと向かう。


 敵機はマシンガンで迎撃と、腰部から赤く光るものを撒き散らして、その機動力をもって旋回範囲外へと入り込みミサイルから逃れる。


「フレア? そんなものを積んでいたのですか」


 フレアとは、赤外線式誘導ミサイルへの対抗手段となる欺瞞兵器だ。燃焼光源を多数吐き出すことでミサイルを標的と誤認させて逃れるというもので、それがミサイルを撹乱したのだ。


 《銀狼》はまた一瞬で《プライング》との距離を詰める。実体剣を展開して、左から右へ一閃。


 《プライング》は後ろへ、絶妙なタイミングでクイックブースト。右背部の滑空砲を展開し、発砲する。

 放たれた砲弾は《銀狼》が居た場所を通り過ぎて地面に突き刺さる。


 次は右から。


 左腕のブレードライフルの実体剣を展開。そのまま突き出して、斬撃の始点を崩す。


『下がって!』


 コクピットにアルペジオの声が響いた。その指示通りに機体を下がらせる。


 直後、《プライング》と《銀狼》の間を砲弾が過ぎ去っていく。


 砲弾が飛んできた方角を見れば、盾を持った流線形の装甲を持つ赤いリンクス、《フランベルジュ》―――アルペジオ機が突撃していた。


 盾を正面に構えた《フランベルジュ》が《銀狼》へ突撃を仕掛け、左腰の日本刀のような実体ブレードを抜刀。そのまま斬りかかる。


 《銀狼》は、実体剣を斜めに構えてそれを弾く。左手に細長いブレードを保持し、上から振り下ろす。


 アルペジオは盾でそれを弾く。


 今度は《フランベルジュ》の左側、盾を持つ方へ回り込み、実体剣を右へ振り上げる。


 《フランベルジュ》の持つ盾が、プラズマの奔流を吐き出した。機体自体のブースターとの併用で、瞬間的に下がってそれを回避する。


 空を斬る《銀狼》の実体剣。


 そこに、エリザの《フランベルジュ》が散弾砲を放つ。


 それを予知していたかのように、クイックブーストで下がる《銀狼》。


 左腕にマウントした機関砲を撃ちながら、


『ラファールリーダー! 接近戦は私の役目でしょう!?』


『せっかくの新型、新装備よ? ちょっと使ってみたいじゃない』


 そう言い返すアルペジオはどこか楽しげだ。


『それより、ラファール00。亡命機の護衛をお願い』


 接近戦に持ち込まれたら勝てないでしょ、と付け足してライフルに持ち変える。


『今回は私達が遅滞戦闘するわ。―――それほど、この機体に慣れているとは言い難いけど、有事の際はアンタを頼るしかないから』


『そういう事ですわ。殿下、今度は私が前衛でよろしくて?』


『ええ、お任せするわ』


 そうやり取りをして、アルペジオ機がライフルを撃った。


「わかりました。ほどほどに相手をお願いしますね」


 交戦を開始した二人と別れて、逃走中の機体を追う。


 《プライング》の速度なら、すぐに追い付ける。

 あっさりと後ろについて、振り返って背後を警戒。


 《銀狼》は、二機の《フランベルジュ》相手に優位な立ち回りをしていた。エリザ機を盾にするように動き回り、アルペジオが援護しにくいように張り付くような接近戦をしている。


 それでも二人は《銀狼》相手に足止めを続行する。


 エリザは散弾砲を無くしたのか、ブレードに持ち換えて剣戟を繰り広げていた。


 少し距離を取り、左腕の機関砲を撃とうとするが、それは出来なかった。


 《銀狼》が振り上げると同時に、機関砲ごと左腕を破壊したからである。

 返しの上段がエリザ機に迫る。


『退きなさい!』


 その声と共に、アルペジオ機が割って入った。ライフルを後ろに放り投げ、盾で実体剣を受け止める。


『―――っ!』


 エリザ機は下がってブレードを捨てて、アルペジオ機のライフルを掴み取る。

 片手で構え、発砲。


 《銀狼》は後ろへ跳躍。


 今度は前衛アルペジオ。後衛エリザと、交代。


 不安になりますね、と呟いて、


『ラファール00! 状況は?』


 基地側から《マーチャーE2改》が4機やって来た。ラファール01―――パトリシアからの通信だ。


「ラファールリーダー、02が《銀狼》と交戦中。私は亡命者の護衛です」


『《銀狼》と?! 手出し出来ないじゃない!』


「02が左腕破損。誰か援護を……」


 そうチハヤが言いかけた時だった。


『えっ……。ちょっと待ち……!』


 アルペジオの困惑するような声がコクピットに響いた。


 モニターには、飛び去る《銀狼》が映っていた。左手には、アルペジオの《フランベルジュ》が持っていた日本刀のような実体剣が握られていて、強奪されたようだ。最早、交戦する気がなくなったように背をこちらに見せて北へと悠々と飛び去って行く。


 エリザが保持したライフルも真っ二つに割られていて、追撃も出来そうにない。


『露骨に、武器狙いしだしたと思ったら、奪って逃げるなんて……!』


『腹いせかのような、武器破壊なんて……!』


 二人の、グツグツした怒りの声が無線で聞こえてきた。《フランベルジュ》は、エリザ機は左腕が切られているが―――大した損傷はなく、武器だけ破壊されただけだ。


 前とはそこまでボロボロではないのに、と口にしたら怒りの矛先が自分に向きそうなので何も言わない。



「パトリシアさん達が来たから、不利を悟って止めた……といったところでしょうか」


 今の、こちらの戦力から考えれる事を口にした。


 あるいは、亡命者がこちらに近すぎたのか。


「とにかく、ラファールリーダー、02。早くこちらへ」


『了解。それとチハヤ、左手のライフル貸して。念の為に』


 わかりました、と短く答えて基地方向へ向けて《プライング》は亡命者の《バッドボーン》に並ぶ。

 

『俺は……助かったのか……?』


 パイロットが、外部スピーカーで訊ねる。


「まだ、ラインを越えていませんが……。追撃はこれ以上はないようですし、大丈夫かと思います」


『そうか……。俺は……使い捨てにはならないで……済むのか……』


 安堵の声が、漏れ出ていた。


 そして。


『交戦禁止ライン通過。―――これで一安心ね』


 アルペジオが言う通り、交戦禁止とされている緩衝遅滞へと入った。

 周囲を、《マーチャーE2》や《マーチャーE2改》を固めていく。


 ベルナデットから通信が入る。


『ご苦労、ラファールリーダー、02、00。不測の事態と状況だったが、よくやってくれた』


『試合には勝ったけど、勝負は負けた気分だわ』


『リーダーの言う通り、不服ですわ。私達だけボロボロだなんて』


 《フランベルジュ》の二人から、不満げな回答が出た。


『ラファール00にでもデザート作ってもらえ。……えっと、帝国軍脱走兵の君?』


 ベルナデットの《マーチャー》が、帝国のリンクスに近付く。


『―――はい』


『貴官を保護する。当面は基地で話を聞くが……。まあ、心配しなくていい。身の安全と衣食住は、フォントノア騎士団団長の名にかけて保証する。―――ようこそ、オルレアン連合へ』





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