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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第五章]来訪者たち
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S031D




 俺は、気が付いたらそこにいた。


 温かくも冷たくもない液体で満たされ、緑色に灯されたコクピットに。


 人型機動兵器、リンクスに乗っていた。


 俺が、大量に生産されたリンクス専用クローン《スクラーヴェ》であることを、睡眠学習の一つで習ったことだった。


 俺の一番最初の記憶は、そんなものだ。

 その後のほとんどは、リンクスのセンサが捉え、俺に送ってくる景色と感覚しか、知らない。

 




 そうして、ある日。

 俺は、その訓練に疑問を思った。


 訓練なのに模擬弾頭ではなく、実弾を使っての共食い訓練を。


 俺達 《スクラーヴェ》専用の、針金人形の様なリンクス、《ヴックヴェルフェン》で、味方同士で殺し合うその訓練を。




 相手の《ヴックヴェルフェン》が、こちらにライフルを向けた。


 場所はレドニカの《ノーシアフォール》付近の廃墟都市。

 リンクスの二、三倍の高さの建物が建ち並ぶ市街地だ。


 俺はそれを右に避けて回避機動をしつつ応射しようとして、それを止めた。


 ライフルを構えて、撃たなかった。


 ただ、撃ってきた相手は俺が属する小隊の一人に撃たれ、撃破された。


 コクピットと、ジェネレーターを穿たれ、《ヴックヴェルフェン》胴体に内蔵された爆薬が爆ぜ、機体を木端微塵にする。


 やはり、おかしい。

 何故、味方同士で殺し合う必要があるのか。


 俺は液体で満たされたコクピットで、脳に直接投影された映像を見て、そう疑問に思う。


『S031D。何故先ほど撃たなかったのか説明を』


 先ほどの状況、あからかに撃てたのに撃たなかった理由を指揮官に問われた。


「こちらS031D。疑問―――当訓練における実弾使用の是非」


 俺はそう応答した。何故、実弾を使う必要がある? 訓練で殺し合う必要がある?


『質問に答えよ。―――何故、撃たなかったのか』


「味方同士で殺し合う必要性がないと判断する。味方を殺すのはロスである」


『君達は我々の味方ではない。我々の道具である』


 道具? 俺達は道具だって?


「否定―――俺は、道具では、ない」


 一人の、人であるはずだ。


 ただ、その一言で。


 俺のこれからが決定された。



『《ヴックヴェルフェン》全機に通達。S031Dを処分せよ』


 指揮官からその一言が下された。


 機体のシステムにロックがかかり、動けなくされる。


 その隙に、10機以上の《ヴックヴェルフェン》がこちらにライフルを向ける。


 俺はすぐさま、《links》システムを介して、自分の《ヴックヴェルフェン》のシステムに介入。

 訓練用から実戦用のシステムへと切り換え、接続していた《スクラーヴェ・ネットワーク》から切断。指揮官から掛けられたロックの全てを解除。


 何故、この芸当が出来たのか、自分でも不思議だが気にする暇はない。


 兎に角、それだけで俺の《ヴックヴェルフェン》は自由を得た。


 跳躍して、ライフルの掃射を回避する。


 牽制で右手のライフルをばらまき、南へ機体を向けて飛ばした。


 こちらには俺の居場所はない。

 さらに言えば、行き先も特にないのに。


 俺は南へ、逃走を始めた。









 俺は、リンクスの稼働時間に感謝した。


 丸二日は行動出来るフェーズジェネレーターや、フェーズ資源切れよりも長く持つブースターの推進剤が、リンクスの稼働時間を延長している事実に感謝した。


 そのお陰で、俺は南へ逃げ続ける事が出来ている。


 ―――けれど。


「確認――――ライフル、残弾六〇。実体ブレード、ロスト。シールド、破損につき投棄。機体損傷、イエローゾーンに突入。これ以上の戦闘行動は困難。『ノーシア条約』に定められた救難信号を発信しているものの、オルレアン連合側の対応はなし」


 状況も、状態も最悪だ。


 ここまで俺と共に来てくれた《ヴックヴェルフェン》も、度重なる交戦で各部を被弾していて、動きが悪くなっている。特に右脚の反応の遅れは致命的か。ブースター周りがまだ無事なのが奇跡だ。

 武装も、もうライフル一挺とマガジン一つと限界に近い。


 空には、遠くにオルレアン連合側の航空哨戒タイプのリンクスが見えるが、こちらを見ているだけだ。傍観の姿勢で、悠々と飛行を続けている。


 あと、どれだけ飛べば追撃を振り切れるのか。


 その思考を出したところだった。


「――――!」


 横から同じ《ヴックヴェルフェン》にタックルを喰らってしまった。


 跳ね飛ばされ、錐揉み状になりながらも必死に機体を制御して、姿勢を修正する。


 向き直したところで、正面からブレードを突き立てようとする《ヴックヴェルフェン》を視界に捉えた。


 どうするかを迷い、左腕を突き出す。

 左腕を壊しながらもブレードの軌道を反らすが、今度は右から頭部に蹴りを喰らった。

 

 その勢いのまま、俺は機体もろとも建物に突っ込む。


 左腕の感覚はない。破壊された時に痛覚の伝達を一時的に切断(シャット)したが、どうやら駆動部が壊れた事による応答が無くなったらしい。

 右半分の視界が、砂嵐で見えない。右の光学センサが破損したのだろう。


 無事だった左の光学センサは、こちらにライフルを向ける《ヴックヴェルフェン》を捉えた。


 咄嗟に右腕のライフルを向けようとして、ライフルからの信号がない事に気付く。

 先ほど蹴飛ばされた際の衝撃で、手離してしまったようだった。


 判断―――ここまで。


 俺はそう、思考した。


 短い自由だったと、そう思って抵抗をするのを止めた。


 ライフルでコクピットごと穿たれるのを待った。





 ――――が。





 光学センサの情報が、新しい光景を俺に見せた。


 ライフルを構えた《ヴックヴェルフェン》が、突如現れたリンクスに蹴飛ばされたのだ。


 それは、黒を基調に赤のサブカラーが所々に塗られた尖鋭的なリンクスだった。 

 右手には角張った大口径のライフル。左手には細長いライフル。右背には折り畳まれた滑空砲。左背には四角いコンテナを背負っていた。


 俺は、睡眠学習でその機体を知っていた。


 最近現れたオルレアン連合のエース。

 ほとんど言葉を介さず、情け容赦のない戦い方で、《ナースホルン》とその他少なくないリンクスを屠った悪魔。


 ランツフートでは《血濡れ鴉(ブルートレイヴン)》と呼ばれている、その機体だった。


 その黒い尖鋭的なリンクスは、蹴飛ばした《ヴックヴェルフェン》へ右手のライフルを数発胴体へ撃ち込み沈黙させる。


 胴体を穿たれた《ヴックヴェルフェン》は、内蔵された爆薬を破裂させ、パイロットやデータを物理的に破壊する。回収させまいとするかのように。


 その爆発に戸惑うような素振りを見せることなく、その機体はこちらを見る。

 頭部のX字に並んだ四つの光学センサがこちらを見た。

 爛々と明滅するのを、俺は見た。


『―――単刀直入に訊きます。あなたはオルレアン連合への亡命を希望しますか?』


 外部スピーカーからか、女の子の声で、丁寧な口調で問いかけられた。


「解答―――希望します」


 俺は、自分が助かる為に、外部スピーカーでそう答えた――――。




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