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「もしもーし。わたしの可愛いメルツェル。聞こえてる?」
「聞こえてるよ、姉さん。今、世界間移動中だぞ、と。暗闇の中、見えない糸を避けてるような最中でもある」
「ふふ、それは良かったわ。その調子なら、移動時間は平均で5分ってところかな」
「退屈にならなくて済みそうな時間だな、と。―――しっかし、滅茶苦茶な空間だな、ここ。姉さんは多次元回廊なんて言ったが、カオスそのものだここは」
「多次元故にね。今、何を避けたか聞いても?」
「白い、尖鋭的なシルエットを持つロボット。頭のX字に並んだカメラアイがなかなかイカしてた」
「……うん。急ぎで繋ぎ換えた甲斐があったね。アイツら、ランダムに滅茶苦茶に繋ぐもん。繋ぐ先はいい加減。出口もいい加減。あれだとほとんどの世界が崩壊しちゃう。最悪は回避出来たからよし、かな」
「あれが、最善だったかはともかく、か。各世界が次元的崩壊を迎えなかったらいいとはいえ、被害が天文学的過ぎるよ。何の為に防ごうとしたのか、わからなくなる」
「………………」
「………………」
「―――ねぇ、メルツェル。ちょっとタメになる話しようか?」
「俺に関係ある話?」
「んー……。今のあなたには、適応されない話。でも、聞いた方がいいお話、かな」
「―――じゃあ、聞く」
「“世界”は、星の数のごとく存在するのは知ってるよね?」
「うん。俺達の世界が、二つの世界が合わさって出来た世界である。なら、他にも世界がたくさんあってもおかしくはない」
「そう。でもその認識は、普通は、本当なら気付いてはいけないの。あなたが本来言うべきは、人界と異界が合わさった世界、と言うべきなの」
「そう認識出来るのは、俺が姉さんの縁者だから、だろ」
「そうだった。でも、あなたや皆が私たちの世界で口にする時はそっちでしょ?」
「そうだけど」
「では、何故その世界で生きる皆は自らが生きる世界をそう“認識”するのか、あなたはわかる?」
「さあ?」
「遠回りになるけど、説明するね。そもそも、“世界”と“世界”は繋がったり、行来してはいけないの」
「それは、わかる。自分たちにとって、相手にとって、お互いの世界はお互いに易しい世界とは限らないから」
「それも、そうなんだけど……。一番は、“その影響が未知数で、結果がどうなるのかがわからない”から。私たちの世界だってそうでしょう? あなたが彼女と出会い、人間と妖族の間を取り持ち、機械仕掛けの天使と共に彼らと戦わなかったら、私たちの世界は滅んでいた」
「………とんでもねぇ200年前の一生と二度目の人生だな、振り返ると」
「二度目の生から私の予測外なんだけどねー。―――話を戻して。最悪の状況なら、同じ事が起きてしまうの。正確には、『その世界の理では起こり得ない事が起こされ続けて、その矛盾の負荷により自然な形で自己的に滅んでしまう』の」
「それだと、繋いだ先の世界が不味くないか? 異世界の物が流入し続けてるんだから……」
「それは大丈夫。その世界の理に合う世界の物が流入してるから」
「……さっきから言ってる、《世界の理》って?」
「んー。各世界の、法律とかルールとか法則とか、そんなもの、かな? かなり複雑多岐なものだから、人に分かりやすく説明するのが難しいけど……。その世界で起こり得る森羅万象の理屈や法則が、《世界の理》、かな」
「……魔法が在ると無い、の差?」
「そう、そんな感じ! ―――つまり、あれの出口がある世界は、過去にかつて異世界のものと同じものが在った世界だから、その《世界の理》と合致して、自然に崩壊することはないの。多少の例外はあるけど、ね?」
「先日の表情筋の硬い、魔法が使える賢者見習いの少女の事か」
「彼女は、あの世界に辿り着いちゃったけど……。まあ、あれくらい問題は無いわ。人間だし。―――で、ここからが本題」
「待ってました」
「さて、問題です。魔法が存在し、誰もが魔法を使える世界に、魔法が存在しない世界の人が転移してしまいました。その人は魔法が使えるようになるでしょうか?」
「クイズにするかな? ―――答えは、魔法が使えるようになる?」
「ピンポーン。正解。―――というか、あなたもその口だからわかって正解だね。じゃあ、どうして使えるようになったのか、わかる?」
「………………わからない」
「だろうと思った。答えは、世界がその人を《世界の理》に合うように矯正したから」
「矯正? 強制ではなくて?」
「そう、矯正。まあ、その世界で魔法が使えないって人もいるかもしれないけど……。余程の事が無い限りは強弱の差はあれど使えるようになってしまう」
「それは、どうして?」
「世界自体が、自分の世界以外の理を認めないから」
「認めない、ね……」
「認めないからこそ、あり得ない事を起こされた時にその矛盾を修正しようとして認識出来ず失敗してしまう。つまり世界が滅ぶ原因の一つとなるの」
「全員が魔法を使えるのに一人だけ魔法が使えないのは、おかしいと?」
「そう。だから世界がその人を矯正して、魔法を使えるようにしてしまうの。それなら自分の《世界の理》に合うでしょう?」
「そりゃそうだけど」
「逆に、魔法が存在しない世界へ、魔法が使える人が一人や二人、極力少人数が転移した場合は?」
「……逆に、魔法が使えなくなる?」
「正解。すぐに、という訳ではないけど、最終的には使えなくなる。その世界の、《世界の理》には魔法なんて代物が無いから、認識されないように矯正して、魔法なんて使えない人にしてしまう。逆に万とか億単位になったら世界が矛盾に耐えきれずに滅んでしまうのだけれど」
「……つまり、人に対するハードウェアやソフトウェアの変更を世界が行う、と」
「正にそうね。世界が滅ばないように人を変えてしまう。これが、《世界の矯正力》というものなの」
「じゃあ、俺も長期間その世界に滞在したら、矯正力とやらで無能の人間になる可能性がある、と?」
「そうならないよう、あなたのその身体は変化しないよう造ったから大丈夫。《世界の理》に負荷が掛からないようにもなってるから、滅ぶ原因にもならない」
「それは良かった。―――じゃあ、人間しか居ない世界に、エルフとかドワーフとか、獣人とかが転移した場合は?」
「いい質問ね。エルフとかドワーフとか、人間に程なく近い種族は、そういう体躯の人種として矯正される。つまり、長寿な種族から人間と同レベルの寿命の、ただの人にされてしまう。獣人は……そもそもその世界には入れないわ。違いすぎて世界が拒絶してしまうの」
「世界が拒絶、ね」
「仕方ないのことだけど、ね。―――これが、有事の際の保険の話。異なる世界間での移動なんて有り得ない、起こり得ないレベルの話だから」
「なるほど。実際は?」
「異世界、という存在は基本は認識出来ないし、誰かが別世界の存在を言ったところでそれは空想、幻想だと誰しもが認識してしまう。それは各世界の、《世界の理》により統制されているから。互いが互いを滅ぼさず、存続させる為の抑止。《世界の抑止力》ね」
「理、矯正と来て次は抑止か。その抑止力で、異世界や別世界を認識出来ないようにされている、と」
「そう。それが本命で本題なの。その抑止力により、世界は互いの世界の認識が出来なくなり、不干渉を貫く事が出来る。余程の事がなければ滅ぶことはない。ただひたすらに存続していく」
「なるほど。姉さんの言っている事が全体の何割の範囲で、どこまでが事実かはわからないけど」
「うぅ、少しは信じてよぉー……」
「姉さん、目的の為に事実とか真実とか言わないし。―――それに、この後始末が終わったら忘れてしまうのだけれど」
「それは言わない。教えた意味……私の退屈しのぎの意味がなくなっちゃう」
「退屈しのぎにそんな話をしないでよ……」
「ごめんなさーい」
「はあ……。―――でもさ……」
「なぁに? 私の可愛いメルツェル」
「―――あの世界、あの僅かに残った数万人は。異世界という別世界の存在を信じた。そして、その技術を確立させてしまった」
「そして私たちの世界へ繋いで、資源を貪ろうとした。―――まあ、それに気付いた私が、あなたを刺客として送って一人残らず殺ったからいいけど。本来なら、異世界に繋ぐなんて出来ないし、起きてはいけないことね」
「それがあっさり出来る姉さんが末恐ろしいよ」
「もっと褒めてもいいよ?」
「止めとく。―――ちぇっ、とか言わない。――――話を戻して、どうしてあの世界は他の世界に繋げる事が出来てしまったんだ?」
「世界が滅びかけてたから、かな。きっと、その世界が自分の世界の人々を救いたいと思ったの」
「“世界”が未来を変えようとした? 姉さんと同じように?」
「そうね。本来は世界の管理者としては許されない判断と行為ね。私と違うのは、互いの世界が存続出来るように調節しなかったから、だね。だからこそ、代行者に滅ぼされた」
「あの“世界”は、他の“世界”を滅ぼしてでも維持しようとした、か。ベクトルの違う例外だな。迷惑千万」
「ある意味、あなたと同じ例外だよ?」
「俺も迷惑ってか」
「あなたはいいの。私が造った例外の模倣品でありながら本物のようになった。私の言うことは聞かず、予測を覆し続け、されど私の思い通りに動き、破壊ではなく世界を存続させようとし続けたのだから」
「…………」
「だから、いつもありがとう。私の可愛い、愛しいメルツェル」
「―――早く終わらそう、この後始末」
「そうね。まだまだたくさん往く先だらけだからね」
「うん。―――それで、なんだけど」
「なぁに?」
「今、ツインテールで金髪巨乳。驚きのモデル体型とも。背の高い、目のやり場に困る露出の多い服を来た幼顔のエルフのお姉さんが流れてった。―――高確率で出口の先の世界に、生きて辿り着く」
「…………あぁああ、もう嫌だ! どうしてイレギュラーな世界ばかりに繋がってるの!? この前は賢者見習いの子の世界! さっきはいくつもある並行世界で、私たちの代わりに閉じてくれたけど、一つの世界だけ魔法少女一人が行方知れずになっちゃった世界! 今度はエルフがいる世界って!」
「喚くのは構わないけど、座標教えて。予定変更して、そこに行く」
「はい! さっさと行ってきなさいメルツェル!」
「はいはい。―――やれやれ……」




