搬入
―――数日後。
基地の滑走路に、3機目の輸送機が着陸した。高翼式でT字尾翼の、オルレアン連合で使われるリンクス用の大型輸送機だ。
本日は件の新型機の搬入である。その2機と各予備パーツといくつかの新装備がメイン。あとは消耗した弾薬やら何やらで、6機ほどの輸送機が来る予定。
滑走路から自走して格納庫付近までやって来るのを見つつ、僕は1機目の輸送機へと向かう。その輸送機では、後部荷物積み降ろし用のスロープからトレーラーで出される1機のリンクスが姿を現していた。
完全にスロープを降りきり、トレーラーが停止したところで。
『立ち上がるわ』
乗り込んだアルペジオが周囲に注意を促して、機体をゆっくりと立ち上がらせる。
全長は十四メートル前後と、一般的なリンクスとそう変わらない。脚のヒール分、《マーチャーE2》より高いぐらいか。
ただ、均整の取れたシルエットで騎士らしさが滲み出る《マーチャーE2型》とは打って変わって、少しばかりマッシブ(それでもスマートにも見える)でありながら曲面の多い装甲を持っている。機体色は赤を基調としアクセントに白を交えた派手な塗装で、このカラーリングを選択した人はきっと派手好きなのかもしれない。
外観から見た骨格は、機体強度を重視しているように見える。それでもどこか優美な印象があった。なかなかに格好いい機体とも言うか。
要所要所にはブースターが覗いていて、その数は正面から見たとしても、《E2改》よりも多いように見える。その分、機動性に優れていそうだ。
頭部は立体視認重視のツインアイ方式が採用されていた。カメラアイ保護の為なのか透明なパーツがゴーグルのように取り付けられている。それに加えて、人側頭部にはブレードアンテナが後ろへと伸びている。
「よし、格納庫へ向かってくれ!」
『了解』
ゴーティエの指示に従って、新型リンクスに乗ったアルペジオが格納庫へと歩いて行く。
2機目の輸送機からはもう1機が降ろされている途中だった。
「なかなかに格好いいですね、新型機。子供たちの人気を取っていきそう」
「ああ。機能美、という奴かもしれんがな」
歩き去っていく新型機を見送りつつ、ゴーティエからカタログスペック見るか? と書類を差し出された。
これから共に戦う機体なので、スペックは知っていた方がいいという配慮だろう。僕はありがたく受け取り、その書類に視線を走らせる。
「……ゴーティエ。これアルペジオも見た?」
「見せたぞ。微妙な顔をしてたぜ」
「―――仕様要求した軍部は馬鹿だろ。悪くない性能だけど」
僕は思い浮かんだ感想をそのまま述べた。
その紙には、新型機の詳細が書かれていたが、《マーチャーE2型》と比べれば欠点のある機体でもあった。
型式番号は《XOML‐10》。ペットネームはまだ無し。
フェーズジェネレーターの出力は《プライング》の9500kw(ブースターへのエネルギー供給用ジェネレーター)超えの9900kw。リンクスに搭載するものとしては破格だ。
フレームは強度と重量を両立したらしいが、どちらかといえば強度寄り。使われている人口筋肉は出力重視。ペイロードは余裕がある模様。センサー類は精度は良好。
背面ブースターの最高速度は時速1200キロ前後。左右へは1000キロ前後。後ろは900キロ。
全方向へと同じ速度を叩き出す《プライング》とはバランスの悪い出力のように見える。その低い分は、市街地でも小回りは効きそうだ。
装甲防御力は、薄いのか《マーチャーE2型》よりも悪化している。正面は《プライング》より毛が生えた程度。背後は人によっては劣悪という表現をしそうなほどだ。その分、機体重量は《マーチャーE2》よりも若干軽い。
その理由が注意書きで書かれており、『マスプロダクトモデルだけど、ビジュアル重視という要求と機動力の底上げの結果』とある。見た目も大事なのは理解するが、そのために装甲の材質がグレードダウンし、防御力とか犠牲になっているらしい。
肩部や脚部、背部のハードポイントには専用に作られたユニットを装備する事が可能で、作戦内容に応じて砲戦や電撃戦など多岐に渡る作戦に従事出来る、らしい。現時点では、予算と今回の早期導入の都合で増加装甲しかないらしいが。
「かの《銀狼》と対抗するには、控え目な性能だね。連携と、パイロットの腕頼りになりそうな……」
まず浮かんだのがそんな事だった。
ここに書いてある事をざっくり言ってしまえば、《マーチャーE2改》と比べて強度や速度面では優秀。防御面では不安がある。
ブースターが増えた分、各部のハードポイントは減っているが新型機専用ユニット次第では装備の選択肢は少ないはないだろう。
対抗予定の《銀狼》相手には、若干力不足を感じさせるカタログスペックだ。
よくよく考えれば、量産を前提とした―――一般兵士でも扱える機体とするためなのだろうが。
「変な機構が無いだけいいがな」
《プライング》のようなサブアームが無いだけ整備項目が少なそうだとゴーティエは呟く。
「いつもありがとうございます」
僕はそう頭を下げる。《プライング》相手にいつも整備に時間が掛かけているのは、よく見ている。
「おー。いたいた。チハヤ。ちょっと来い」
そんなやり取りをしていたら、バレットさんがやって来た。
僕はゴーティエに、それじゃと言ってバレットさんの元へ向かう。
「どうしたんです?」
とぼとぼ歩きながら、呼んだ理由を訊ねる。
「お前さんに会いたいって人がいてな……」
そう言うバレットさんはサングラス越しでもわかるぐらい何か嫌そうだ。
向かう先は、立った今停止して後部ランプを開いている3機目の輸送機。空には着陸のアプローチを始めた4機目の輸送機が見える。さらに遠くにももう1機見える。
「リンクス用の装備開発が専門の博士なんだが……」
どうも歯切れの悪い。
どうしてだろう、と思っていたらその原因が向こうからやって来た。
「おお、君か! 私の開発した滑空砲や試製近距離戦闘システム、ブレードライフルを好んで使うリンクスパイロットとは!」
禿頭の、モノクルを左目にかけた三白眼の中年男性が大声を上げてやって来た。バレットさん以上にくたびれた白衣を着ていて、小汚なさがある。
彼の発言から、《プライング》で普段左手に装備するブレードライフルや220ミリ滑空砲。この前使ったイロモノ―――試製近距離戦闘システムの開発者だというのがありありとわかった。
「お前さんの性別はこの基地の人間と、技研の上層部の一部しか知らない。―――この人は知らない側だ」
そんな耳打ち。たまに忘れそうになるが、男性が乗れるという《プライング》の特徴は秘匿されている。故にパイロットたる僕の性別も女性と偽装されている訳で。
僕自身、女性とそう変わらないような容姿をしているので余計にそう偽装、秘匿されたわけだが。
「……わかりました」
短く答えた所で、禿頭の男が僕の正面に立った。
「やあ、初めまして。オルレアン連合技術研究所、リンクス装備研究開発部、武装開発科部長、グレゴリーだ。君の話はかねがね」
そう言って僕の手を取る。本当に嬉しそうな顔だ。
「えっと、初めまして。私はチハヤユウキと申します。博士が、ブレードライフルや220ミリ滑空砲の開発者なのですか?」
女性のように淑やかで穏やかな、丁寧な口調で訊ねる。柔和な表情も忘れない。
それが素なのかと言われるほどに板についた、昔からの自然体だ。
「ああ、そうだ。なかなか私の開発した子供たちを使ってくれる人がいなくてなぁ。とことん使ってくれて嬉しいよ」
…………うん? 子供たち?
何か、嫌な雰囲気が彼からしてきた。マッドじゃないけどどこか狂ってるような雰囲気が。
「お陰で私の設計理念の正しさが証明されて助かる。よく壊され、棄てられると聞いた時は憤慨していたが、そのデータが送られてきた瞬間に次から次へと新しい案が浮かんでくる! いいインスピレーションだ!」
「は、はぁ……」
「新しい装備の図面を引いても、なかなか製作のゴーサインが出ないのが難点だが、やっと一つ完成したのだよ」
書類を僕に押し付けて、3機目の輸送機の中へ入っていく。実質的に付いて来いって事らしい。
後部スロープの隅を歩いて、貨物室の中に入る。新型機の予備パーツに混ざって、四つばかし並んだリンクス用のライフルが目に入った。
大体の形状は曲銃床のライフルのようだ。だが、銃身下に台形を思わせる厳つい箱が取り付けられていて、そのシルエットを大きく変えている。
弾薬が入るマガジンの取り付けられる場所も、かなり違った。
渡された書類からでは、銃身の上に乗るような形で細長いマガジンが装着されるようだ。僕が知る銃で説明するなら、P90のマガジンに近い状態だ。
グレゴリー博士は手を広げ、人を紹介するかのようにそのライフルの説明を始める。
「《BR‐X02》! 君が愛用していたブレードライフルの後継ライフルだ! 口径は65ミリだが、内部構造を一新! 砲弾と装薬を変更して総合的な威力、連射性を向上して70ミリ相当の攻撃力を実現! 弾倉は異世界から来た銃を参考に、細長い弾倉を銃身の上に置く形でコンパクトに。しかも大容量で継戦能力も向上した! 空薬莢は銃身の下に排出されるから右左どちらでも使える! 実体ブレードは新配合の合金製! 銃身下部の容器内に格納し、使用時に刀身が斜めにスライドすることで展開する。これにより前作よりも優れたリーチと切れ味を実現! 欠点は前作と同様にその銃の形状故、フルオート射撃の集弾率があまりよろしくないが……。まあ、君の気にする事ではないな!」
長々と説明してくれた。そりゃあ、もう嬉々と語るとはこの事と言わんばかりだ。
グレゴリー博士が語った事は全て受け取った書類に書かれているのだけれど、彼は語らずにはいられないらしい。
「長い! それと、高コストな装備だから大切にしろと言えよ! コイツ、際限なく壊すし棄てるぞ! いろいろ新しいもん注ぎ込んだせいで予算どれだけとってると思ってんだ!」
バレットさんがキレた。かなりの剣幕から、無視できないような金額が懸かったのかもしれない。
「生産体制もじきに整う! 遠慮なく使ってくれ!」
バレットさんの抗議じみた言葉は届かなかったようで、グレゴリー博士はそう言って僕の肩をバンバン叩く。
「大切に使えよ!」
「まあ、壊さない程度には……」
その一押しな釘刺しに、僕は確約出来ない事のように視線を逸らしながら答えた。




